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うちだ氏のコメントにお答えして 緊急対応時と平時のリスク管理は違う

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うちだ氏という方のコメントです。おそらく主婦の方でしょう。消費者意識の高い方の、これもある意味典型的な意見です。

「全袋に線量を表示しろ
逆にそれができないから、3年間時が止まり続けているのだとは思いませんか? チェルノブイリでできたことがなぜ日本でできないのですか? 手間とお金がかかるから? 必要な費用は東電なり政府なりに請求すべきでしょう。日本中の国民が復興のために税金を余分に支払っているんです。どんどん使ってください。
これは別の話ですが、良心的な農家は、農薬の使用回数まで表示して作物を消費者に届けています。うちでは、多少高くても信用できる農家からの品物を買っています。
関東でふつうに福島産として売られている作物には、どういう基準で検査がされているのか明示されているわけではありません。わたしたちはなにを根拠に福島を信用すればいいのですか? 最低限の情報すらしめさずに、それを避ける人たちを風評被害だと非難するのは筋違いだと思いませんか?(略)」
「(略)原発の事故後、しばらくは、西日本の作物を選んで購入するようにしていましたが、検査態勢がととのったあとは、福島産であっても、その業者を信用して分け隔てなく購入しています
その基準は人それぞれでしょう。
これ以下は安全です、と他人に判断してもらう必要はありません。
風評被害が起こるとしたら、それは情報が足りないからであり、行政の情報隠蔽体質に問題があるのではないでしょうか。
人の健康に直結する食品を生産する以上、金がかかる手間がかかるというのは言い訳でしかありません。もともと農家にはなんの責任もないのですから、必要なものはしっかり請求してください。国民はそのためなら喜んで税金払いますよ。
くりかえしますが、安全かどうかを判断するのは、生産者でも行政でもなく、消費者だと思います。」

どうやら、有機農産物を購入されている消費者のようです。困ったことに、私にとってお客様筋です(笑)。 

このブログに長くおつきあいいただいた方はご存知なはずですが、私は有識農業団体の代表理事でした。とうぜんJAS有機認証取得団体です。 

あらかじめ言っておきますが、私は産直をして30年になりますが、お客様が神様だと思ったなど一度もありません。 

産直運動はこの方が言うように、「安全かどうかを判断するのは生産者でも行政でもなく、消費者だ」という考え方では成立しないからです。 

なぜなら、農産物から化学肥料や化学農薬を排除していく目的の一義は、生産者と土の健康であり、それがひいては安全安心な農産物として消費者にとっても「利益」だからです。 

もし、単に商品の付加価値だけて無農薬無化学肥料をしてみても、それは魂のないものであり、結局は割に合わないものに終わるでしょう。 

ほんとうに、自分たちの畑を健康にしていく、家族を危険にさらさないという気持ちがなければ続くものではありません。 

これと同じことが、今回の放射能禍にも言えます。うちだ氏のような人はいとも簡単にすべての放射性物質を表示しろと言います。 

私が自分の意思で施肥したり、散布したものならいくらでも表示し公開しましょう。 

しかし原子力事故はそうではありませんでした。 

まず私たちの頭上を3月15日、3月22日に通過した放射能雲は、いかなる飛散をして、どこにどれだけ降下したかさえ分かりませんでした。 

当時私は野外にいました。おそらく目に見えない禍々しい雲が影のように過ぎ去っていったことでしょう。 

過ぎ去った視線の先には松戸、柏、東葛地域があり、そこで雨が降ったのです。大量の放射性物質と共に。 

しかし、当時の私はもちろん、国民の誰ひとりそれを知りませんでした。その理由は、政府の許すべからざるSPEEDI情報の隠ぺいにあります。 

その時、私たち自主測定運動にかかわった者たちを駆り立てたのは、消費者や監督官庁であるはずがない。 

自分の家族を守ること。自分の地域を自分で守ること、ただそれだけです。 

だから私たちは、「政治」に期待することなく、自分たちで大学の研究室の扉を叩き、教えを乞い、大学教員と共に地域の農家有志と共に自主的測定運動をしたのです。 

風評被害で潰れかかった自分の農業経営もそっちのけにしたために、後からえらい目に合いましたが(苦笑)。 

なぜ私たちが自主的にならざるをえなかったのでしょうか。それは端的に、自治体を含めて「政治」があまりにも無能だったからです。 

地元自治体は県の指示待ち、県は国の指示待ち、そして国家官僚は「政治主導」の号令の下で去勢されていました。 

あの2011年3月下旬に、東日本で測定車を走らせてリアルタイム線量を記録していたのは米海軍しかいなかったのです。そして福島第1を上空から撮影したのもまた米軍でした。 

地元自治体はなまじ独自測定して高線量が出たら大変なことになるとびびり、県は早すぎた測定数値の公表が凄まじい打撃を県経済に与えたことを悔やんでいました。 

私は産直関係にある消費者、流通にはダイレクトに情報を提供しました。このブログでもその一端はアッフしました。 

そしてそれから3年たちました。状況は大きく違ってきています。 

精密な放射性物質降下マップは今では政府機関HPに公開されています。 

かつて喉から手が出るほど欲しかった土壌線量マップも簡単に入手できます。そして最大のものは食品の国家基準が定められたことです。 

おそらく世界でもっとも厳しい放射能の食品基準値が、もっとも早い時間で施行されました。 

これはすごいことだと思いませんか。情報隠ぺいを未だ叫ぶのは自由ですが、日本人がなし遂げたことも少しは評価したほうがいい。 

チェリノブイリでできたことに学べとおっしゃりたいようです。 

なんです、それは?確かにあっちは被曝した牛乳を子供に飲ました結果、大量の小児甲状腺ガンを出しましたね。そのことですか? 

事故から14年たってベラルーシがやっと日本より厳しい食品基準を作ったことですか? 

日本の比ではなくキノコ類を食べる食習慣がありながら、事実上無規制で、毎年おなじように甲状腺ガン患者を出したことでしょうか? 

なにをチェルノブイリから学べと言うんでしょう。私には皆目分かりません。 

日本の場合、ロシア、ベラルーシ、ウクライナよりはるかに市場経済が発達している分、各量販、産直団体は政府基準値を恣意的に低く読み替えて運用しています。 

私が出荷しているところなど20BQです。そして検査室でサンプリングをして、自主基準以上が検出された瞬間、即地域丸ごと出荷停止です。 

これ以上なにを望むのでしょう? 

まさか出るはずがない、(それは文科省、農水省放射性物質飛散マップをみれば分ります)プルトニウムやストロンチウムまで表示しろとでも。 

非現実的なのがなぜ分からないのでしょうか。リスクというのは、緊急対応時には緊急対応があり、いったん平時に戻れば、その社会的コストと案文せねばならないのですよ。 

この方が言うような、いくらでも社会的コストをつぎ込めというのは空論にすぎません。 

よく低線量被爆脅威論者の人たちが、「予防原則」という言葉を使います。 

これは世界的に認められた概念ですが、拡大解釈されて「すべての農産物にすべての核種の分析表示をつけろ」「食品基準値はゼロベクレルだ」というような極端な要求になってしまっています。 

チェルノブイリ事故を経験したEUは、こう定義づけています。

因果関係に科学的な蓋然性がある程度あるときには、費用対効果を考えた上で予防的に取り組む

誰かが、これが危険だから、と言ったことにすべて取り組むということは、余りにも非効率です。ではその蓋然性はどう決まるのでしょうか? 

それは世界の科学者が100人いるとして99人が認める事実です。 

なんだ多数派かと言われるかもしれませんが、その通りです。 

よくこの脅威派は世界でたぶん数本の指の数しかいない「低線量被爆の事実を解明した」という学者1人と99人を並列させて、1対1のような言い方をしますが、それは妥当ではありません。 

逆に99人の専門家がリスクの蓋然性があると断じれば、社会的コストをかけてもそれを予防すべきです。 

2011年のような緊急時には緊急時の情報公開の方法論があり、それから3年たって、リスクが限定された今には、それにふさわしいリスク管理方法があるのは当然です。 

最低限の情報も示さずと言う前に、いくらでも自治体HPには情報が溢れています。量販のHPにも、生協HPにも、有機農産物流通HPにも溢れるほどあります。 

大手流通、生協、有機農産物流通で、独自の検査室を持たないほうが例外なはずです。そこから、いくらでも情報は引き出せるはずです。 

当然自治体も独自にHPで公開しています。 

あなたのかつての「政治」に対する不信感は共有できます。 

だからといって、その怒りと不信感を私たち、あなた方以上に「被爆」現場で危機と戦ってきた農業者に向けないでほしいのです。 

私が反原発運動から去ったのは、こういう本来もっとも被害を受け、生活も生産も根こそぎ奪われた私たち農業者、漁業者に視線を向けていないからです。 

それどころか、私たちに対する風評被害を、あれは「実害被害だ」とまで居直る始末です。 

そのような気持ちがあなた方の中で整理されないままでは、原発に対して都市と地方の、消費者と生産者のつながりは生まれないでしょう。 

昨日から自然と放射性物質の関係を書いています。あと何回か続けますので、あまり色眼鏡でみないでお読みいただけたら幸いです。  

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コメント

どうもうちださんは、チェルノブイリの時に、現地では全量に「〇〇〇〇Bq」と表示したと、よくわからん誤解をしてらっしゃるようですね。
なにがどうしてそうなったのやら。

また、事故後の日本の基準が、世界でも極端に低いことも知らないようです。
それで3Bqだと表示する業者なら信用するとか、正に悪徳商法の洗脳状態です(私ならそんな業者は逆に胡散臭いと感じます)。
実際に流通している食品(多くは輸入品)がどの程度なのか?
むしろ現状にそぐわない無駄に厳しい基準だから緩和せよという意見も出ています。

それでも福島や周辺では、頑なに20Bq基準という低レベルで、黙々と計測してから出荷しています。
「全量検査」がコメなのは、先日管理人さんが書いたように、主食でありどこでも栽培されているからです。
昨日は群馬のコシアブラから500越えの「極めて高い線量」が出ましたが、これもマスコミの印象操作的な表現です。
欧州や米国など、子供向けから大人向けでも1000Bqが常識になっています。
各自治体のHPやコーデックスなど、消費者として少しは勉強しましょう。
これでも行政は隠蔽しているとか、東日本の作物はダメだなどと思われるようでは、完全にカルトの世界。

そのような言動こそが、被災地の人々を傷つけ「風評」になって拡がるのです。

「風評じゃなく実害だろ!」という声は、2年ほど前まではネットではよく見かけましたが、その「実害」の例と統計的データがあるのなら出してみてください。

また、100Bq程度の食材ばかり1年食べ続けても、身体に受ける年1mSv(目標最大値)の1%以下ですね。
心配し過ぎで、お身体を壊さないことを祈ります。

投稿: 山形 | 2014年5月30日 (金) 07時11分

事故当時の政権は民社党にあり、散々下手こいた上での政権交代によって現在の自民党政権になっております。

決して満点を取れる与党ではないし、今後そんな政党は出てこないでしょうが。
今の政治は三年前の政治よりはずっと良いと思います。
これ以上を求めるならそれこそ消費者の立場からの思想、発言など「お前が思うんならそうなんだろう。お前の中でだけはな」にしかならないというかなんていうか。

投稿: アキツ | 2014年5月30日 (金) 09時55分

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