「彼も彼女も小説家であった。二人とも小説家であるということは、彼等が結婚するに十分な理由であった」。川端康成が「掌(てのひら)の小説」と名付けた作品の一つ、『離婚の子』の冒頭の一文を引いた。
▼「小説家」を「政治家」に入れ替えると、政党同士が合併を繰り返す、政界の事情が納得できる。さらに小説はこう続く。「と同じように、彼等が離婚するに十分な理由でもあった」。日本維新の会の「離婚」には、どんな理由があったのか。
▼もともと、石原慎太郎共同代表と、石原氏を「御大(おんたい)」と親しみを込めて呼ぶ37歳年下の橋下徹共同代表(大阪市長)は、固い絆で結ばれてきた。「僕は源義経にほれた武蔵坊弁慶のようなものだ。ただ、義経で終わらせず、(鎌倉幕府を開いた)源頼朝にしなくちゃいけない」。1年半前、自らが率いる太陽の党と日本維新の会の合流に際して、石原氏は語ったものだ。
▼しかし、憲法や原子力・エネルギー政策などについて、2人の考え方には大きな違いがある。合流当時から、あやぶまれていた問題が、橋下氏らが結いの党との合流を急ぐなかで、噴き出したといえる。
▼維新の分裂を、結いの党はもちろん、民主党内でも一部の議員から歓迎の声が上がっている。石原氏に近い議員たちは、みんなの党との連携を進める構えだ。野党再編の掛け声のもとで、どんな新党が生まれるのだろう。
▼結婚については、フランスの劇作家、アルマン・サラクルーがこんな名言を残している。「人は判断力の欠如で結婚し、忍耐力の欠如で離婚し、記憶力の欠如で再婚する」。基本政策が一致しないまま、「数の論理」で結びついても、早晩瓦解(がかい)に追い込まれる。その記憶を大切にして、再婚に臨んでほしい。