まずはゲームのルールを決めよ:新規事業の
立ち上げの鉄則

1

社内ベンチャーの立ち上げでは往々にして、イノベーションに取り組むという行為自体が目的化してしまうという。やがて経営陣の意図との乖離が発覚し、後退と時間のロスにつながる。これを防ぐには、「ゲームのルール」を事前に明確にする必要がある。


 そのプロジェクトチームは明らかに、事業計画案のプレゼンに備えて十分な準備をしていた。入念に作成されたパワーポイントには、中国でマネジメント研修の市場がブームを迎えていることを示す、データや図表が数多く盛り込まれていた(守秘義務のために本記事では詳細を変えている)。スライドに埋め込まれた動画には、チームが試験的に提供したサービスを熱烈に歓迎する見込み客の様子が映っている。細心の注意を払って作成されたこの事業計画案では、まずは中国の主要6都市から慎重に事業を展開する旨が示されていた。

 しかしこのプレゼンによって、チームと経営陣との間にある決定的なギャップが浮き彫りになった。プレゼンが終わるやいなや幹部たちは、「なぜ6つの都市だけに絞ったのか」と問いただした。チームは答える。このビジネスモデルでは、大規模なマーケティングと多くの現地スタッフの採用が必要だ。小規模な都市では、その費用を賄うだけの売上げが見込めない――。だが幹部たちは納得せず、「中国の100都市で展開する方法を考えるように」と指示を出した。チームはそれを、計画のやり直しと受け止めた。小規模な都市でも利益を出せるビジネスモデルをつくり直さなければならない。つまり、マーケティング費用と人件費を大幅に抑えたモデルだ。

 私はそこで会議を中断させ、プロジェクトリーダーと経営陣のリーダーに、このプロジェクトで一番の戦略的意図(strategic intent)は何か、考えていることを紙に書くよう求めた。

 プロジェクトリーダーの考える狙いは、「魅力的な利益を上げ、本社と同レベルかそれ以上の利益率を持つ新事業を開発すること」とあった。

 一方、経営陣の考える狙いは、「中国においてわが社のブランドの存在感を高めること」とあった。

1
Special Topics PR
今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー
定期購読
最新号のご案内
VIDEO FROM DHBR

コトラー教授の知られざる魅力 【90秒・予告編】

論文オンラインサービス
  • facebook
  • Twitter
  • RSS