2014-05-29
メイドは天下の回りもの
「こうでしたね」
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
天使家のメイド・森さんがしてくれる名物「メイドスピン」。キョロが視聴者の気持ちを代弁するように感謝を伝えた瞬間、間髪いれず女性陣から蹴りが入るまでの様式美。お馴染みとなった『GJ部』の「メイドが回る日常」だ。日常的にメイドが回るアニメ、なんと素晴らしい。これだけでも、(メイド的な)名作の認印を押してしまいそうな衝動に駆られる。みんな大好き森さん。
ところで、古今東西「メイドもの」は数え切れないほど生み出されている。有名な『アルプスの少女ハイジ』や『小公女セーラ』ら世界名作劇場にたびたび登場するちょっといじわるな使用人もメイド。メイドという観点からみれば、名作劇場は宝の山だったりするのだから、幼少時からの刷り込みがあったのやも、と疑いたくなってしまう。意識はしていなかったけれど、「メイド属性」の起源は深くて、存外に古いのだ。
アニメ・漫画の世界では『これが私のご主人様』『まほろまてぃっく』などの「萌え」と、『BLACK LAGOON』のロベルタに代表される「燃え」のメイド文化が根強い中、19世紀の本場イギリスを舞台にした『エマ』はクラシックな「メイドもの」だった。作者である森薫先生のメイド好きは凄まじく、研究の域に達していたと思うのだけど、『エマ』の前身となった『シャーリー』には参った。使用人服に着替え、くるっと回って嬉しそうな顔をするシャーリー。なんと素晴らしい。古き血潮になっていた「メイド属性」の萌芽を自覚したのはそこだ(後は『水月』の雪さん)。メイドが回るということ、すなわち幸せということ――。そういう人間が森さんに感謝するのは自然かもしれない。「メイドが回る」という森薫的エポックの流れを汲んだ先(そもそも名前からしてオマージュだろう)にいるのだから、何も不思議はない。かなり限定的なエポックだけども……。
そんな森薫先生のメイド起源は『シャーリー』のあとがきで触れられている。『名探偵ホームズ』のハドソン夫人(しっかり者のお姉さんキャラ)と『魔女の宅急便』らしい。特に後者の「犯罪的なスカートのひるがえり」が「メイドスピン」の原点だと思われる。
やはり、恐るべきは宮崎駿。あの少女を描くことに関しては大監督の影響が巡り巡ってメイドスピンへ。アニメから着想を得た漫画のワンアクションが小説に渡り、ふたたびアニメに戻ってくるなんて。メイドは天下の回りもの。
ちなみに2000年代以降、名作劇場復活後の第2作『ポルフィの長い旅』に登場するナタリーは現代風アレンジの入った「名作劇場メイド」の最新モデル。未チェックの方はぜひ。
シャーリー (Beam comix) 森 薫 エンターブレイン 2003-02 by G-Tools |