拉致問題:北朝鮮が再調査約束 日本、制裁一部解除へ
11時間前
政府は29日、ストックホルムで行われた日朝外務省局長級協議で、北朝鮮が日本人拉致被害者の「包括的かつ全面的」な再調査の実施を約束し、調査開始時点で日本が独自に行っている制裁の一部を解除することで合意したと発表した。安倍内閣が最重要課題と位置づける拉致問題が進展に向け動き出したことになるが、調査が進むか不透明な点があり、政府は北朝鮮側の出方を慎重に見極める考えだ。
安倍晋三首相は同日夕、首相官邸で記者団に、「北朝鮮側は拉致被害者および拉致の疑いが排除されない行方不明者を含めすべての日本人の包括的、全面調査を行うことを約束した。特別調査委員会が設置され、日本人拉致被害者の調査がスタートする」と述べ、再調査の開始を発表した。
そのうえで「すべての拉致被害者の家族がご自身の手でお子さんたちを抱きしめる日が来るまで私たちの使命は終わらない。全面解決へ向けて第一歩となることを期待している」と強調した。
26日から3日間の日程で行われた日朝協議は終了時点では具体的な協議内容については、明らかにされていなかった。協議では調査再開と一部制裁解除など双方の「行動措置」に関する合意文書が作成されたが、署名はされず、双方が持ち帰った。
帰国した外務省の伊原純一アジア大洋州局長は29日に合意内容を首相に報告。その後、菅義偉官房長官、岸田文雄外相、古屋圭司拉致問題担当相を交え、首相官邸で関係閣僚会議を開き、合意文書を了承。首相が発表した。
首相の発表後、菅氏が緊急に記者会見し、合意文書を公表した。この中で、北朝鮮は、調査の過程で日本人の生存者が発見された場合は「帰国させる方向で去就の問題に関して協議し、必要な措置を講じる」ことに同意。「拉致問題は解決済み」としてきた従来の主張を修正した。日本は、北朝鮮による調査開始時点で日本が独自に北朝鮮に科してきた制裁のうち(1)人的往来の規制措置(2)送金報告、現金持ち出しの届け出義務(3)人道目的の北朝鮮籍船舶の入港禁止−−について解除するとしている。
政府は近く、北朝鮮に対して調査を求める日本人のリストを提示する。政府認定の拉致被害者17人のうち行方不明の12人と、警察庁が認めた拉致の疑いがある特定失踪者860人が中心となる。
菅氏は、北朝鮮が調査のために設置する「特別調査委員会」の設置時期について「速やかということになっている。具体的には3週間前後と報告を受けている」と語った。調査終了時期については「現時点においては決めていない。そんなに長い時間、何年もということはあり得ない」と説明した。
委員会の性格に関しては「特別の権限、すべての機関を対象とした調査を行うことができる権限を付与した委員会」と強調。「調査結果、進捗(しんちょく)状況について随時、通報を受ける。日本側と協議し、その協議で調査結果を直接確認できる仕組みを確保している」と述べ、調査の実効性は担保されたとの認識を強調した。
米韓など関係国への説明については「外交ルートでさまざまな調整を行った」と語った。国連安全保障理事会の決議に基づく制裁は解除しないことから「(関係国からの懸念は)あり得ない」と明言した。【木下訓明】
◇北朝鮮も合意内容発表
北朝鮮は29日、国営朝鮮中央通信を通じ、日朝政府間協議での合意内容を発表した。発表では「拉致問題は解決済み」だとしてきたことについて「従来の立場はあるが」との表現にとどめている。また「日本人の遺骨処理と共に、生存者が発見された場合、帰国させる方向で協議し、必要な措置を講じる」としている。
◇日朝合意文書の骨子
<日本がとる行動措置>
・日朝平壌宣言にのっとって、懸案事項を解決し、国交正常化を実現する意思を改めて表明
・調査開始時点で、人的往来の規制や人道目的の北朝鮮籍の船舶の日本への入国禁止措置を解除
・日本人の遺骨や墓参について協議
・在日朝鮮人の地位に関し協議
・適切な時期に北朝鮮に人道支援の検討
<北朝鮮がとる行動措置>
・全ての日本人に関する調査を包括的、全面的に実施
・全ての機関を対象とした調査をできる権限を付与された特別調査委員会の設置
・拉致被害者、行方不明者に対する調査状況を日本側に随時通報
・生存者が発見された場合、帰国させる方向で協議
・調査確認のため日本側関係者の北朝鮮滞在、関係者との面談の実現