日本人拉致問題について、北朝鮮が再調査を約束した。

 スウェーデンで開かれた外務省局長級協議で日朝両政府が合意し、きのう安倍首相らが発表した。北朝鮮は再調査のための特別委員会をつくり、それに応じ日本は北朝鮮に対する独自の制裁を解除していく。

 これまで日朝協議が開かれても、「拉致問題は解決済み」と繰り返してきた北朝鮮だ。「すべての日本人に関する包括的な調査」へと態度を変えさせたことの意味は大きい。

 この合意を、長年苦しめられてきた被害者とその家族にとって真の救済となるような結果に結びつけたい。

 「全面解決へ向けて、第一歩となることを期待している」と安倍首相が語った。この機会を逃してはならない。

 もっとも、合意文書をみる限り、実際にはこれからも日朝間では激しい駆け引きが繰り広げられそうだ。

 北朝鮮は08年、再調査を約束し、今回のように委員会を立ち上げて対応すると表明した。だが、日本の政権交代を理由に、突然、委員会の設置をとりやめると一方的に通告してきた経緯がある。

 政府間での合意とはいえ、今回も疑念がぬぐえないのはそのためだ。日本政府は北朝鮮側から適宜、調査の報告を受けるとしているが、経過を慎重に見極めながら、細かく注文をつける必要がある。

 それでも、今回の合意は、08年のときよりも幅広い内容になっている。

 終戦前後に北朝鮮で死亡した日本人の遺骨問題や、北朝鮮国内に住むいわゆる日本人妻の帰国問題にも言及している。これに対し、日本側は北朝鮮が強く望む船舶の入港禁止措置の解除などにも踏み込んでいる。

 北朝鮮は金正恩(キムジョンウン)・新体制が発足して以降、核・ミサイル開発といった強硬路線を続ける一方、国民に約束した経済回復はまったく進んでいないという事情がある。

 日本政府には、北朝鮮の内部事情を探りつつ、硬軟両面でのしたたかな外交が求められる。制裁緩和を活用し、北朝鮮が誠実に対応せざるをえないような状況をつくる工夫が要る。

 日朝首脳が初めて会談し、日朝平壌宣言を発表したのは12年も前のことになった。

 平壌宣言は国交正常化をうたい、隣国同士のあるべき姿を網羅的に示している。関係が悪化し続けた歳月を補う作業は困難を伴うが、時間を浪費する余裕はない。