(2014年5月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
書籍販売の世界を支配するアマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏〔AFPBB News〕
非効率は通常アマゾン・ドット・コムに伴う性質ではないが、ジェフ・ベゾス氏率いる同社はあたかも、在庫管理がきちんとできない、無秩序な小規模書店のように振る舞っている。
「その本をご所望ですか? 大変申し訳ありませんが、在庫切れです。1冊注文することはできますが、今は届くまでにかなり時間がかかります。代わりに別の本を買われたらいかがですか?」
もちろん、これは策略である。アマゾンが米国の顧客に対し、ロバート・ガルブレイス(J・K・ローリングのペンネーム)の新著『The Silkworm』は「現在扱っていません」と言う時、真実を伝えていない。これが意味するのは、同著はアマゾンが値引きを迫っているアシェットが出版元であるため、先行予約を受け付けないようにしている、ということだ。
市場支配力を武器に出版社に値引きを強いるアマゾン
これはまさに、出版社が昨年、米国と欧州での反トラスト訴訟で敗訴して以来恐れてきた瞬間だ。米国地方裁判所のデニース・コート判事は「出版社は、アマゾンが顧客への電子書籍販売を支配し続けたら、卸値の値引きを求め始めると心配していた」と書き、出版社各社がアップルと共謀し、同社のオンラインストアで価格を吊り上げたとの判決を下した。
「ビッグ・シックス」と呼ばれる欧米6大出版社とアップルは露骨なカルテルを形成することで、「キンドル」で電子書籍を支配するアマゾンに対抗する取り組みを台無しにしてしまった。この一件は近年では最も奇妙な反トラスト訴訟となった。米国政府と欧州委員会が、台頭する独占事業者の支援に駆けつけたのだ。
ベゾス氏はかつて、アマゾンは小さな出版社を「チーターが弱ったガゼルを追いつめるように」扱うと述べたことがある――。ブラッド・ストーン氏はアマゾンに関する伝記『The Everything Store』でこう書いた。アシェットは「ビッグ・ファイブ」――ランダムハウスとペンギン・ブックスの合併により、6社から5社になった――の中で比較的小さな出版社で、脆弱だ。
筆者はアマゾンについては複雑な感情を抱いている。ベゾス氏は、顧客を満足させ、値段を下げることへの献身ぶりで競合他社を恥じ入らせる素晴らしい会社を築き上げた。販売をオンライン上で行うだけでなく、以前より容易にすることで、小売業のあるべき姿を想像し直した。
また、キンドルの開発では、ソニーなどの競合企業の躓きを軽く飛び越えた。キンドルがソニーの端末「Reader(リーダー)」や「Nook(ヌーク)」を抜いたのは、単にアマゾンのマーケティング力と生産効率のおかげだけではない。キンドルの方が優れた端末であり、(ベゾス氏がちゃんと機能させることにした時には)見事なオンラインストアにつながっているからでもある。