December 18, 2009
頭を上にしてぶらさがる珍しい種類のコウモリを研究したところ、手首や足首の裏に特殊な汗を分泌してつるつるとした葉につかまっていたことがわかった。
サラモチコウモリ(Myzopoda aurita)というマダガスカルのコウモリは、足に天然の吸盤のような仕組みを備えていると考えられていた。属名のラテン語「Myzopoda」は“吸着する足”という意味がある。
しかし最新の研究によって、このコウモリは体液を利用してしがみついていることが示された。このような手法は、ある種の昆虫やアマガエルでも見られる。
アメリカ、ロードアイランド州にあるブラウン大学の進化生物学者で、今回の研究を率いたダニエル・リスキン氏は、「水の表面張力を利用している。ハエがガラスの天井のような滑らかな場所にとまったり、ぬれた紙・・・
サラモチコウモリ(Myzopoda aurita)というマダガスカルのコウモリは、足に天然の吸盤のような仕組みを備えていると考えられていた。属名のラテン語「Myzopoda」は“吸着する足”という意味がある。
しかし最新の研究によって、このコウモリは体液を利用してしがみついていることが示された。このような手法は、ある種の昆虫やアマガエルでも見られる。
アメリカ、ロードアイランド州にあるブラウン大学の進化生物学者で、今回の研究を率いたダニエル・リスキン氏は、「水の表面張力を利用している。ハエがガラスの天井のような滑らかな場所にとまったり、ぬれた紙がフロントガラスに張り付いたりするのと同様だ」と解説する。
コウモリは世界各地に1200種ほど生息しているが、頭を上にした態勢でぶらさがるのは6種のみ。通常のコウモリは、頭が下の態勢でぶらさがる。
サラモチコウモリはその珍しい1種だ。頭を上にしたままで、マダガスカル土着のタビビトノキという植物の巨大な扇型の葉にしがみつく。これは足の吸盤で葉に吸い付いている長らく考えられてきた。中南米にも、同様のぶらさがりタイプのコウモリがいる。
リスキン氏らの研究チームは最近、吸盤説を検証しようと現地で実験を行った。まず吸盤が役に立たないように均等間隔で穴を開けた金属板を用意し、サラモチコウモリをつかまらせた。「吸盤が機能するためには、密閉された空間に負の圧力がかかる必要がある。中の圧力が外よりも低くなることで2つの面が吸着する」と同氏は説明する。
ところがサラモチコウモリは、穴の開いた板にもやすやすとしがみついてぶらさがったのである。「“Myzopoda(吸着する足)コウモリ”よりも、“濡れひっつきコウモリ”とでもした方が相応しい。といってもラテン語の学名をいまさら変えるわけにもいかないが」と同氏は語っている。
サラモチコウモリが頭を上にしてぶらさがるように進化した理由は、アイスクリームコーンのような形にカールした若いタビビトノキの葉の中で身を休めることが多かったためという説が有力だ。
「休んでいるコウモリの頭上で葉が開くので、上向きの姿勢のままでくっついて脱出しやすいように進化した」と同氏は語る。そして進化の果てに、サラモチコウモリには選択の余地もなくなったようだ。
同氏らのチームは、滑らかな面に張り付いたサラモチコウモリの“はがれやすさ”について実験を行った。その結果、サラモチコウモリを上方向に押すと簡単に動いてガラス面をつたって歩き始めるが、下方向へ引っ張っぱられると粘り強さを発揮してしがみ続けることが分かった。
これは、サラモチコウモリの手首と足首にある特別な腱(けん)が機能して、方向によってぬれた面の接地面積が変わるためだ。実験のように上に押せば面積が少なくなってはがれやすくなる。逆に、頭を下にしてぶらさがると非常に落ちやすくなるわけだ。
研究の詳細は「Biological Journal of the Linnean Society」誌に掲載されている。この研究はナショナル ジオグラフィック協会の一部支援の下で行われた。
Photograph copyright Merlin D. Tuttle, Bat Conservation International