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中国不動産バブルの読み方=国内投資移民としての「青色戸籍」、不動産市場調整は政府の「決断」次第(高口)

2014年05月29日

「周永康、ついに逮捕か」と「中国不動産バブルついに崩壊」は中国ニュース業界の二大“あるある詐欺”と呼ばれているわけだが、最近、またまた中国不動産事情に注目が集まっている。日本でもいくつか報道があるが、今回2本の記事を紹介したい。


■投資移民としての青色戸籍

最初の記事は福島香織「天津にゴーストタウン、5兆元が泡=始まったバブル崩壊、対策は政治改革のみ」(日経ビジネスオンライン)。天津郊外のニュータウンが資金ショートで工事中断、ゴーストタウンになっているというお話だ。その凄まじいありさまについてはぜひ記事を読んでいただきたいが、個人的な注目は「青色戸籍」(藍印戸口)だ。
 

Shanghai | The Bund, Guang-ming Building
Shanghai | The Bund, Guang-ming Building / nickkpoon

中国の戸籍は都市戸籍と農村戸籍に二分されるが、その狭間、都市でもない農村でもない妖怪人間のような暫定都市戸籍が青色戸籍である。青色戸籍の取得条件については各自治体で異なるが、天津市はハードルがゆるく、基本的に不動産を購入すれば青色戸籍が取得できた。都市戸籍が欲しい人、あるいは天津市の戸籍が欲しい人にとってはお金はかかるものの便利なルートであった。

というわけで天津市の郊外型ニュータウンを支えた実需の多くは天津市外の人間だったと見られている。実は天津市のゴーストタウン・ネタについて打診があったので、知り合いの天津人に何人か話を聞いてみたのだが、「なにそれ?知らない」「そんなド田舎の不動産、買うやついるの?」というつれない反応。そもそも天津市都市住民はターゲットではなく、外地からの投資をかっさらうためのプロジェクトだったわけだ。

中国の戸籍制度は「国の中に国境があるようなもの」と評されるが、この青色戸籍はお金さえ払えば暫定戸籍が得られるという意味で投資移民制度によく似ているのではないだろうか。

青色戸籍と並んで、中国的不動産要素として「学区房」がある。これは名門校がある学区の不動産価格が高いというもの。日本でも文教地区の地価は高いので似たようなものと思われるかもしれないが、基本的に名門私立というものがなく、学区越えの入学には高い入学金などなどが必要となる中国ではその価値は日本をはるかに上回る。逆転の発想として、名門学校の分校を誘致して物件の価値を高める不動産会社もあるほどだ。


■中国の不動産価格はどうなるの?それは政府の「決断」次第です

さてこのような惨状ならば、中国の不動産バブル崩壊も間近ではないかという疑問がわいてくる。

そうした疑問にコンパクトに答えているのが梶谷懐「中国動態:もう時間の問題となった中国の不動産バブル」(週刊東洋経済、2014年5/31号)。リーマンショック後のいわゆる「4兆元景気対策」を受け、中国では過剰な不動産開発が進み、資本の収益性が低下した。本来ならば投資が減少するのが道理だが、今後も価格は上昇するはずという期待に支えられて投資の増加が続いてきた。なので不動産価格の調整、つまり下落がいつ起きても不思議がない……といった解説だ。

ある新聞では「今、中国では値下げしても住宅が売れない異常事態に」と書いていたが、確かに異常に見えるかもしれないが、価格が下がれば販売数も低迷。価格が上がれば販売数もあがる、そんな状態はここ数年続いている。景気や政府の方針で市場が冷え込めば投資家は様子見に回り、上昇トレンドの時には勝ち馬に乗って投資するという寸法だ。

おそらく編集者がつけたであろう「もう時間の問題となった中国の不動産バブル」というアグレッシブなタイトルとは裏腹に、筆者は「市場介入を見送るという「政治的決断」さえ行われれば、過剰な投資の調整は早晩現実のものになる」と条件付けをしている。

政府は果たして決断するのか否か。実際のところ中国の不動産政策は何度も「今回こそ本気で調整くるで詐欺」を繰り返しており、誰もが慣れっこととなっている。というわけで投資家は様子見に回り、不動産会社は将来の上昇局面まで我慢を決め込んでいるのが現状(資金不足の中小の中には値下げするところも)。

今回こそ政府は本気だという意見もあれば、いつもどおり政府が助けてくれるからそれまで待つべしという意見も。なにせ中国の不動産投資は投機となっているので「今回は本気でやばい」という見方が広がれば雪崩を打って崩壊しかねない。

そうはならないように政府もちょうどいい塩梅をさぐっているのだが、そんなスマートなことは今まで無理だったように今回だって無理、そのうちびびって不動産価格下落食い止めに回るでしょうとの見方が強い印象だ。はたして政府は今回こそ本気を見せるのか、それともこれ以上締め上げたら危険だとの判断で救出に回るのか。今後のチキンレースにご期待下さい。

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