決定版:ビットコインとは結局なんなのか?
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決定版:ビットコインとは結局なんなのか?

2014-05-30 00:02

    ビットコインとはなにかという記事は、山のようにありますが、どうも納得いかない記事ばかりです。ぼくが納得いかない点をいくつかあげると以下のとおり。

    ・ だいたい仮想通貨の決済システムをP2Pで実装するメリットってなんかあんの?
    ・ ブロックチェインのような性能の悪いアルゴリズムが革命的発明ってどういうこと?
    ・ 説明すべきはどうせスケールしないP2Pの決済システムじゃなくて取引所の実装だよね。
    ・ ビットコインが素晴らしいって理由って結局のところただのイデオロギーだし、みんなそう主張したがるのは儲かりそうだからだよね。

    ぼくとよく間違えられるひとが熱風という雑誌に寄稿しているビットコインの記事がちょうどいいので以下に転載します。

    #######################################
    第17回 インターネットが生み出す貨幣

     ビットコインが話題です。通貨の概念を変える画期的な仮想通貨だと、もてはやすひとが多いのはネットではよくある話です。何年か前にセカンドライフが登場したときにも同じような文句を聞いた記憶があるような気がするのは私だけじゃないでしょう。セカンドライフのリンデンドル(L$)同様に、ビットコインに、いかに大きなお金が集まっているかが、さまざまな観点から話題になって、報道されてつづけているのも似ています。従来からある言葉でも十分説明できるのに、新しい名前を与えて、さも完全に新しい画期的な概念であるように宣伝するのはIT業界ではお馴染みの光景ですので、今回は実際のところビットコインとはどういうものでなにが特徴なのか?今後は流行るのか、それとも消えるのか?もしビットコインが普及するといったいなにが起こるのか、そしてビットコインの存在でだれが得をしているのか、また、これから得をする可能性があるかを説明していきたいと思います。

     ビットコインの登場はよくいえば謎めいた神話に彩られています。悪くいうとなかなかうさんくさいのです。まず発明したのは「ナカモトサトシ」と名乗る正体不明の人物です。つまりだれなのか分かっていません。日本人みたいな名前ですが、本当に日本人かどうかも分かりません。最近、ニュースではロス近郊に住む日系人ドリアン・サトシ・ナカモトだという報道もされましたが、2014年3月17日現在、本人は否定しています。いずれにせよ2008年にナカモトサトシなる人物がインターネット上に発表した論文に基づき、2009年にビットコインのサービスは開始されました。サービスを運営しているのはだれかというと、だれでもない、もしくはビットコインのソフトウェアを使用している全ユーザーである、というのが、ビットコイン通をきどるインターネットの識者たちがよくする説明です。これは若干、不誠実な説明であるとぼくは考えています。正確にいうと、ビットコインの運用に関して主体的に責任を担おうという存在がいないということであって、現実にはビットコインのソフトウェアを作成した’だれか’は存在しているし、また、不具合があった場合は、過去何回か、’だれか’がソフトウェアのバージョンアップもしているからです。ただ、その’だれか’というのがとても曖昧になっているのです。ビットコインはオープンソフトウェアというかたちでインターネットにソースプログラムが公開されていていて、たくさんの開発者が匿名でボランティアで開発に参加してつくられたことになっています。だから、だれがつくったのかがあまり明確にならないのです。元々の作者とされるナカモトサトシ自身も最初は開発に関わっていたとされますが、途中からいなくなりました。それでもビットコインのサービスが止まるわけではありません。ソフトを配布してしまえば、開発者自身もコントロールできないのです。まあ、だからビットコインのサービスはだれのものでもないという説明がされるわけですが、このあたりは議論の余地があるところでしょう。たとえば似たような構造はコンピュータウイルスにもいえます。コンピュータウイルスもいったん配布が始まればどのように広まるかは作者にもコントロールできません。ですがコンピュータウイルスがパソコンに損害を与えたとして、開発者が責任を問われないかといえばそんなことはありませんし、たとえコンピュータウイルスをオープンソフトウェアとして匿名の集団で開発したところで、だれが開発したのかが分かりにくくなるだけで、責任をだれも取らなくていいということにはなりません。もちろんビットコインはコンピュータウイルスとは違って悪意あるソフトではありませんし、ソフトウェアの機能自体は通貨というよりは通貨ごっこをするプログラムですから、開発、配布することについて規制される可能性はほとんどないでしょうし、規制しようとしても、どこで線を引いてなにを規制するのかを定義するのが非常に難しいでしょう。だから、コンピュータウイルスと違って、ビットコインのような仮想通貨の開発、配布自体が違法となる可能性は少ないと思われます。しかし、ビットコインをお金と交換したり、ビットコインを通貨のようになんらかの財やサービスの対価としての決済手段として使用することには、なんらかの規制がされる可能性は十分にあります。なにしろ、ほとんどの国では通貨の発行権は国が独占しています。通貨の発行権は国家権力の重要な基盤のひとつですから、当然、ビットコインが既存の通貨の機能を代替することについては国家は歓迎はしないでしょう。ビットコインの可能性を礼賛するひとたちが、ビットコインはだれにも所有されていないし、コントロールされていないことをことさら強調するのは、国家によるなんらかの規制が十分に予想しうるという状況の中でされている説明であることに留意する必要があると思います。

     ビットコインはだれのものでもないという説明は、いったい、どれほど正しいのでしょうか?


    ビットコインの仕組み


     ビットコインがいわれているほど中立的な存在なのかを検証する前に、まずはビットコインの仕組みについて簡単に説明しましょう。ビットコインは中央銀行のような中央機関が存在しないことが最大の特徴とされます。P2Pソフトと呼ばれるタイプのソフトウェアですので、サーバを介在せずに、ユーザー同士が1対1で通信する仕組みです。1対1の通信をする場合に、Aさんがビットコインを1BTC持っていてBさんに送るときにどうすればいいでしょうか?実はAさんの財布に入っている暗号化された1BTCをBさんが受け取ってBさんの財布に入れること自体は簡単なのです。難しいのはAさんがBさんに送った1BTCをきちんとAさんの財布から減らすということです。サーバーを介在する場合には、これは簡単です。サーバ上のデータとしてAさんとBさんの財布を管理しておいて、Aさんの財布から1BTCを減らし、Bさんの財布に1BTCを増やせばいいだけです。でもビットコインはP2Pソフトですからサーバーはありません。Aさんの財布はAさんのコンピュータにあって、Bさんの財布はBさんのコンピュータにあります。Aさんの財布にある1BTCをBさんは受け取ることは可能ですけど、AさんのコンピュータがちゃんとAさんの財布から1BTCを減らしたかどうかを確認する方法がないのです。なにしろ別々のコンピュータですから、Aさんのビットコインのソフトウェアが改造されていて、Bさんに送ったふりをしているだけかもしれません。財布を管理するサーバーがなくて、財布をたくさんのクライアントコンピューターで別々に管理しているとこういう問題が起こるのです。これを解決するためにビットコインは、取引データをビットコインに参加しているコンピュータの全てで共有することにしています。つまりAさんがBさんに1BTCを送金するためには他のビットコインに参加している全部のコンピュータにAさんがBさんに1BTCを送ったという事実を報告しないといけないのです。なのでAさんが1BTCをBさんに送ったあと、同じ1BTCをCさんに送金しようとしても、Cさんはすでにその1BTCがBさんに送ったものであることを知っているので失敗するのです。

     さて、ここまでの説明でビットコインの重要な特徴がひとつ理解できると思います。ビットコインのようにP2Pソフトで仮想通貨のやりとりをするのは、サーバー上で仮想通貨のやりとりをするのに比べて、とても遅くて効率が悪い、ということです。なにしろひとつの取引をするだけでも、ビットコインのネットワーク上にある全部のコンピュータと通信しないといけないので、ビットコインが普及して、ネットワークがどんどん拡大していけばいくほど、1回のビットコインの取引に必要な通信データ量も比例して増えていくようになってくるのです。そしてたくさんのコンピュータで同じデータを持たなければならないので、そのためにかかる時間も増えていきます。ビットコインはよく早くて安く取引ができるということが宣伝されています。いったいなにを比べているのかわかりませんが、仮想通貨の決済システムのネットワークアーキテクチャーとして考えると、ビットコインのようなP2Pソフトで構築するよりも、サーバーで集中処理するほうが、明らかに高速だし最終的にはコストも安くなります。ここはあまり指摘されていませんが重要なポイントだと思います。コストについてはP2Pソフトの場合は、ビットコインのユーザーのコンピュータがボランティアとして参加するので、サーバーがいらないから安いんだという主張もありますが、これは間違いです。ひとつは同じくP2Pソフトで有名なWinnyなどのファイル共有ソフトもそうなのですが、インターネット全体で見ると、無駄な通信量が膨大に発生して、インターネットプロバイダなどのインフラを提供している会社が代わりにコストを払うことになるからです。しかも余計に払いますのでインターネット全体で考えると非効率だということです。通信費用だけでなく電気代についても社会全体で考えるとやっぱり非効率なのです。それでも、ビットコイン側が支払わなくて済むなら、それでいいじゃん、という自分勝手な考え方もあるのですが、それすらもビットコインのネットワークが拡大すると成立しません。これについては詳しく後述します。

     さて、もうすこし詳しくビットコインの仕組みについて説明しましょう。P2Pソフトによる仮想通貨の決済はとても効率が悪いという話をしました。根本的な解決にはなっていないのですが、ビットコインは多少なりとも効率を高める仕組みとして、だいたい10分ごとに取引をまとめて1ブロックとして、取引が成功したというメッセージとして各コンピュータに送る仕組みになっています。(ビットコインの取引が終了するのにだいたい10分かかるというのはこのため)では、この取引をまとめた1ブロックを送信するのは、だれでしょうか?実は早いものがちなのです。これがビットコインでよく聞く採掘(マイニング)という作業になります。たんに早いものがちというだけでなく、ちょうど10分ぐらいで解けるように設定された問題を最初に解いたコンピュータが、それまでに自分が受信した取引を、取引が成功したと報せるために全部ブロックにまとめて送信するのです。そして採掘した報酬として、25BTC(2014年現在)分のビットコインが新しく発行されて無料で貰えます。このように各コンピュータがビットコインネットワークに送信した取引データを一定間隔でとりまとめて取引が成功した証として、計算問題を最初に解いたコンピュータが送ることができて、なおかつ無料でビットコインが発行されて貰える、というのが、ビットコインの革命的な発明だといわれている工夫の核心部分になります。そしてビットコインが既存の通貨よりも素晴らしいというイデオロギー的に見える主張の根拠となる部分になります。


    ① 通貨の発行権が全てのコンピュータ=ビットコイン利用者にある。

    ② ビットコインネットワークを維持するための取引の認証作業の対価として通貨の発行権が与えられる。

     

     通常のビットコインの説明だと、このあと、このブロックのつながりであるところのブロックチェインの仕組みとか、偽造されたりで複数のブロックチェインが存在すると、長いブロックチェインを信頼するという決まりがあって、なぜなら長いブロックチェインを作るためには、より多くの計算力をもったコンピュータ群が必要だというプルーフオブワークという考え方が紹介されるのが通例です。このあたりの説明は冗長なので省略します。要するにこれらの話からビットコインが素晴らしいと主張するひとがいいたいことは以下の内容でまとめられます。


    ③ ビットコインの利用者が増えれば増えるほど、ビットコインネットワークへのハッキングは困難になるので、取引履歴の改ざんは起こらないだろう。


     ということなのです。

     この①②③が権力に支配されない自由でありユーザー自身が所有する民主的な仮想通貨という漠然としたビットコインのイメージを作るイデオロギー的な根拠になっているのです。中央銀行に独占されている通貨発行権が民主化されるだけでなく、ちゃんと通貨を流通させるための仕事の正当な対価として通貨は発行されるのであり、そういった作業に従事するみんなの努力の結果として、この通貨のシステムは守られるのだというわけです。イデオロギー的なという意味は別に①②③は、どれもこの方法でなければならないという必然はなく、たんにビットコインは特定のだれかに支配されていない中立な存在であるという主張を補強する材料になっているだけだからです。

     仮想通貨のシステムを設計する上で、通貨の発行権を特定のだれかが独占していても、システムの運用上は、とくに差し支えはありません。ただ、ユーザーは通貨の発行者をずるいと思う可能性があります。①のように通貨発行権が民主化されていたほうがいい可能性があるとすると、そのほうがユーザーが納得してビットコインを積極的に利用する場合でしょう。その場合は、②のように通貨発行権が正当な仕事の対価として与えられているとユーザーが思うことも重要でしょう。そして③のようにビットコインのユーザー全員で不正利用を守るのだという説明もビットコインのユーザーの参加意識を高めるのには効果があるでしょう。いずれもビットコインが中立な存在であるとユーザーが支持をする大義名分として働く要素であって、決済用の通貨のシステムとしてビットコインが優れているかどうかとは関係ありません。そういう意味で①②③はビットコインが中立であるというイデオロギー的な主張の根拠となる部分であるとぼくは思っています。


    ビットコインは本当に中立なのか?


     ビットコインが中立だという主張の根拠は前記の①②③以外にもあります。ビットコインの通貨の発行上限が2100万BTCであり決まっていることです。2100万BTCをどのように発行するかについては以下のようなロジックで決まります。高校数学程度の知識があればすぐに分かるようにこれは2100万BTCに収束する簡単な等比級数になります。無限の時間をかけて2100万BTCに限りなく近づいていくわけですから、2040年に2100万BTCが全部掘り尽くされるというような記事をたまに見かけますが、正確には間違いです。2040年段階だと0.2%ぐらいは、まだ、掘っていないビットコインが残っています。99.8%のビットコインが掘り尽くされるというのが正確な表現でしょう。


    ビットコインの総額2100万BTCの通貨発行手順

    ・ まず、最初の4年間(正確には少しずれる)で半分の1050万BTCを発行する。

    ・ 次の4年間(同上)で残った半分のさらに半分の525万BTCを発行する。

    ・ 以下、同様に4年間ごとに残った半分のさらに半分のビットコインを発行する。


     4年間というのは、正確には210万分のことです。さきほどの説明でビットコインは平均10分ごとに取引をまとめたブロックを作って確定させることを説明しましたが、このブロックが21万回つくられると、ビットコインを発行数が半分になるのです。それが平均10分X21万回で210万分となり、約4年間になるのです。ですから、1ブロック(=平均10分間)あたりに発行される新しいビットコインは1050万BTCを21万回で割った50BTCとなります。2014年現在は、2回目の4年間に入っているので、1ブロック(=平均10分間)あたりに発行されるビットコインは25BTCとなっています。

     このようにビットコインの発行上限が決まっていることが、ビットコインが中立であることのもうひとつのイデオロギー的な論拠になっています。


    ④ ビットコインは発行の上限が最初から決まっているので、中央銀行が紙幣を大量に発行することでインフレになるようなリスクがない。


     要するに国家とちがって財政破綻などにより価値が暴落することがないというわけです。そういうわけで、とくに国家財政の基盤が脆弱な新興国では、国の通貨よりもビットコインのほうが安全であり信用されるんじゃないかという説がでてきているわけです。

     この通貨発行額の上限が決まっているビットコインのシステムを作者のナカモトサトシは埋蔵量に上限がある貴金属の金になぞらえており、そのため、新しいビットコインを通貨発行するために、ビットコインのユーザーが取引の認証作業に協力することを採掘(マイニング)と呼んでいます。中央銀行がその気になればいつでもいくらでも増やせる信用貨幣と違って、公開されている数式に基づいてしか増えなければ最大の発行額も2100万BTCまでと決まっているビットコインは安心であるという主張でしょう。

     さて、ここまで説明してきた①②③④は、結局は、ビットコインは中立であり、特定の国家や中央機関に支配されないので、既存の通貨よりも素晴らしいというイデオロギー的な主張に帰着します。ここはネット企業の経営者のはしくれとして強調したいところですが、効率性から考えると仮想通貨はP2Pソフトでなく、巨大なサーバで一元管理をしたほうがはるかに効率がいいのです。なぜ、性能の悪いP2Pソフトで構築された仮想通貨であるビットコインがもてはやされるかというと、サーバーで管理された仮想通貨なんてものはサーバーソフトの運営者が、もろに通貨を発行しているのと同じですから、日本も含めて、ほとんどの国で違法になるからです。そして、サーバーで一元管理する仮想通貨が違法で、ビットコインは合法になりうるのだとするのであれば、まず、だれが責任者か分からないという現状から目を背ける口実としても、それはビットコインは中立だからむしろ既存の通貨よりも素晴らしい(少なくとも一面がある)というイデオロギー的な主張と結びつかざるをえないのです。

     ですから、ビットコインは本当に中立なのかという点については深く検証する必要があるでしょう。ぼくの意見では、それは大いに疑わしい。その理由はまさにP2Pソフトで構築する仮想通貨の効率がサーバでやるよりもとても効率が悪いことに起因します。ビットコインの仕組みはこのままではすぐに破綻するのです。


    ビットコインは本当に使われているのか?


     実はビットコインは決済用の通貨としてはほとんど使用されていません。coinmap.orgというサイトを見ると全世界でビットコインが使える店は2014年3月23日時点で3690店、日本だと23店になります。これが多いか少ないかでいうと、とても多いとはいえないでしょう。多くはビットコインが便利だから支払いできるようにしたというよりは宣伝目的でビットコインが使えるようにしたというのが実態でしょう。また、現在だけでなく、今後とも現状のビットコインが使用されることがそれほど増えることはありません。実際、ビットコインは決済用の通貨としては大きな欠陥があるのです。決済に時間がかかりすぎるのです。さきほど取引が認証されるまで平均10分かかるといいましたが、標準的なビットコインの財布の実装では1ブロックだけでは本当に成功したのかが分からないため、連続する6ブロック=1時間ほどが無事に経過してはじめて入金されたビットコインが使用されることになっています。ようするに念をいれた場合は取引が終了するまで1時間かかるわけです。このように取引に、いちいち時間がかかるのがP2Pソフトで動作する仮想通貨の欠点です。サーバーで管理した仮想通貨だとおそらく数秒もかからないでしょう。

     ビットコインによる寄附などを受け付けているサイトもありますが、これもビットコインが通貨として認められたということではなく、ビットコインの取引所なども整備されてきていて米ドルなど現実の通貨との換金性が高いからでしょう。わざわざビットコインを使った方が便利であるという使い道はなかなかないのです。比較的まともなものでいうとビットコインを経由した海外への送金なんかは意味がある場合があるでしょうか。ほかに便利そうな使用目的としてはビットコインの取引が匿名性が高く追跡が難しいことを利用した違法な商品の売買だったりマネーロンダリングぐらいしか思いつきません。

     ビットコインの取引所を運営している業者などは、ビットコインの取引でマネーロンダリングなどの違法な目的のものは、ほんの一部だと主張しています。では、違法じゃない目的での取引はなにかというと、実はビットコインを売買することそのものです。実際のところ、ビットコインは通貨というよりは投機対象としてもりあがっているのです。

     ビットコインなどの仮想通貨が注目される中で、ビットコインの持つ上限2100万BTCという仕組みが通貨としての信用性を超えて、投資対象としての信頼感を生んだのです。ビットコインへの需要が拡大していくスピードに対して、ビットコインの通貨の供給量は4年ごとに半分になっていくわけですから、ビットコインの希少性は加速度的に高まっていきます。ビットコインの価値はビットコインが使われれば使われるほど、どんどん上がっていくと予想されているのです。ビットコインの仕組みは通貨としてはデフレーションを引き起こすモデルなのです。結果として将来的なビットコインの価値の高騰を見込んだ投機資金がビットコインに流入し、ビットコインの価格は乱高下をくりかえすこととなります。この価格が乱高下して安定しないということが、ビットコインの決済通貨としての有用性を下げていて、ビットコインの将来性について否定的な見方を生む原因のひとつとなっています。

     結局、ほとんど投機対象として盛り上がっているというビットコインの取引ですが、実際、どの程度の量の取引がされているのでしょうか?ビットコインの取引は平均10分間で1ブロックとしてまとめられるわけですが、1ブロックあたりで処理される取引数は、だいたい400件から500件ぐらいです。1秒あたりに処理する取引数はtpsという単位が使用されるのですが、0.7~0.8 tpsということになります。世界的に話題になっているビットコインとしては、とても少ない数字に見えます。ちなみに世界的なクレジットカード会社のVISA Inc.の2013年度の決算報告書によると2013年9月に処理した取引数は約155兆回におよび、単純に1秒当たりに何回かを計算すると約6000 tpsぐらいになります。まあ、ビットコインより下手すると1万倍近く多いわけですが、まあ、多いのはともかくとして、例えばビットコインがどんどん普及していってVISAぐらいに使用される時代が、もしも来たとして、P2Pソフトであるビットコインはそんなに多くの取引を捌けるのでしょうか?


    ビットコインの性能限界


     ビットコインの標準的な実装では1ブロックあたりのデータ量の上限は1MBとなっています。1回の取引あたりのデータ量は平均500バイトぐらいですので、1ブロックあたりに処理できる取引数は、だいたい2000件ぐらいとなっています。1秒あたりにすると、3.3 tpsぐらいですから、VISAの6000 tpsなど、とんでもなく無理です。むしろ、すでに現在でも0.8 tpsぐらいありますから、一時的に取引が集中したりする場合は、現在でも3.3 tpsぐらいは超えてしまう可能性は十分にあるのです。実はビットコインの取引処理能力はかなり限界にきているのです。

     その割にはあんまり騒ぎになっていないようなのですが、どういうことでしょうか?この問題を解決する手っ取り早い方法は、1ブロックあたりのデータ量の上限を1MBから増やすことあたりだと思うのですが、そういう変更はビットコインはできるのでしょうか?

     あまり知られていないのですが、ビットコインの仕様を変更したり、もしくはバグを修正するためには、ビットコインのクライアントソフトウェアをバージョンアップすれば可能です。ただ、ビットコインはP2Pソフトなので、バージョンアップしたクライアントとバージョンアップしてないクライアントが混在して動作することになります。そうするとバージョンの違いによって、動作が異なるという問題が発生します。ブロックごとのデータ量の上限を増やすなんて変更をするためには全てのクライアントの修正がおそらくは必要になる可能性が高いと思いますが、そういった場合は、古いバージョンのクライアントソフトウェアを使っているコンピュータは新しいビットコインのクライアントソフトウェアに接続しようとしても不正アクセスとしてできないようにする必要があります。そうなると古いバージョンのクライアントソフトウェアでできたビットコインのネットワークと、新しいバージョンのクライアントソフトウェアでできたビットコインのネットワークと2種類が同時に存在することになります。やがて消えていくのは数が少ないビットコインのネットワークでしょう。ということで大幅な仕様を変更する場合は、ビットコインのクライアントソフトウェアのバージョンアップは慎重におこなう必要があります。できるだけ多くのビットコインのユーザーにバージョンアップをしてもらう多数派工作が必要なのです。そのためには瞬間で多数のユーザーにバージョンアップ版に切り替えてもらうのは困難ですから、X月X日から動作が変更するような時限プログラムを埋め込んだバージョンアップ版のクライアントソフトウェアを事前に配布を開始しておき、X月X日までにできるだけ多くのユーザーに切り替えておいてもらうという作業が必要になります。逆にこういう手順を踏めば、ビットコインの仕様はいくらでも変更は可能なのです。ぼくがビットコインは中立であるという言説に違和感を覚える理由のひとつはここにあります。ビットコインユーザーを納得させるやり方が見つかれば、上限の2100万BTCを超えてビットコインを発行することも将来的にはありうるということです。

     話が大分横道にそれましたが、元にもどしましょう。ビットコインのクライアントソフトウェアの仕様を変更してバージョンアップすれば、1ブロックあたりに捌ける取引量を増やせるという話でした。まあ、それはそうするとしましょう。でも、次の疑問は、上限を撤廃して、取引量が増えていくと、ビットコインに参加しているコンピュータに必要なデータ通信量がどんどん増えていきます。どこまで増やせるのでしょうか?VISA並の6000tpsを目指すとすると、平均24Mbpsぐらいのデータ通信量が必要です。地上波デジタル放送のストリームを送信と受信の双方向でリアルタイム配信しつづけるぐらいのデータ通信を、すべてのビットコインに参加しているコンピュータが24時間やりつづけるというイメージになります。例え自分は一切取引をしていなくても、通信は途切れません。P2Pソフトで構築する仮想通貨が如何に効率が悪いかが分かると思います。ちなみにビットコインに参加するコンピュータはいままでの取引履歴を共有するために一挙にダウンロードする必要があります。これが現在20GB近くあるそうで、高速なインターネット回線を使用してもダウンロードに半日かかるそうです。これが取引量がVISAクラスの1万倍とかに増えたらと計算すると、200TBとかでしょうか?例え、ビットコインのクライアントソフトウェアをバージョンアップして仕様変更できたところで、根本的にP2Pソフトのやりかただけでは、仮想通貨のシステムなんてつくれないということが分かります。いずれビットコインがどんどん盛んになっていけばいくほど、普通のユーザーがビットコインネットワークに参加することが現実的ではなくなってくるのです。

     ビットコインが安定して発展していくためには、このP2Pソフトがもつスケーラビリティの問題、ようするに参加者と取引量が増えた場合にどうするかを解決する必要があります。その鍵は取引所にあるというのがぼくの意見です。


    取引所とはなにか?


     マウントゴックスの破綻によって日本でも存在が知られるようになったビットコインの取引所とは、一体なんでしょうか?これは簡単にいうとビットコインと米ドルなどの現実の通貨を交換するための取引所です。お金を出してビットコインを買うか、ビットコインを売ってお金をもらうかのどちらかをするところと考えれば間違いはありません。

     ビットコイン自体は規制すべきではないが、取引所はなんらかの規制をすべきだとは日本に限らず米国など世界の趨勢でもあるようです。ビットコイン取引所のどこが問題なのでしょうか?

     まずビットコインがお金と同じ価値を持ち始めたのは、そもそも取引所が存在してビットコインをお金に換えられるようになったからです。ビットコインそのもので買えるものなんて、ほとんどありませんから、結局はビットコイン取引所があって現実のお金と交換できるから、ビットコインは価値を持つのです。だいたい現在のところビットコインがもりあがっているのは主に投機として売買の対象になっているからですから、ビットコインで真の中心地というのは、ビットコインのネットワークよりは、ビットコイン取引所の中なのです。

     ビットコインが盛り上がっているわりに取引数が少なくて1秒に1回もないという話はさきほどしました。投機の対象としてビットコインの取引が過熱していると報道もされていることを考えると、ビットコインの投機のための取引だけで考えても平均して1秒に1回もないというのは少なく感じます。この疑問は正しくて、取引所で取引されているビットコインの大部分はビットコインのネットワークには履歴が残らないのです。

     そもそも取引所とはどういう仕組みなのでしょうか?たとえば米ドルとビットコインを売買するというと簡単に思えますが、ビットコインの取引というのは時間がかかり10分かかるという説明はよく聞くと思います。ですが、さきほど説明したように1時間ぐらい待たないと本当に成功したかどうかは分からないとされています。10分だけだと、ハッキングされたり、もしくは偶然にたまたまブロックが同時に2個生成されることが、無視できないぐらいの確率で起こりえるのです。その場合はその後もブロックの生成に長く成功したブロックだけが有効になり、残りのブロックは取り消されますので、標準的な実装だとどこかから送金してもらったビットコインは取り消される可能性があるので、1時間ぐらい待たないと、使ってはいけない=さらにどこかに送金してはいけないことになっています。確率はとても低いですが、1時間でも足らない可能性も、理論的にはありうるというのがビットコインの仕組みなのです。なんどもいいますが、P2Pソフトでビットコインがつくられている以上はそうなるのです。そういう仕組みの中で取引所をどうやって実現しているのかというと、実は取引所はいったん取引所の口座にビットコインを振り込んでもらって、ビットコインを預かっているのです。同様に現金も振り込んでもらって預かるのです。そして預かった米ドルとビットコインを取引所の中で売買しているのです。これは要するにビットコインを預かっているという名の下に取引所のサーバ内でつくられたビットコインの口座間で取引しているということなので、実はビットコインのネットワークの外で行っているのです。ビットコインのネットワークで取引が行われるのは取引所にビットコインを入金するときと出金するときだけなのです。だから入出金しなければ、いくらビットコインを売買してもビットコインのネットワークには取引情報は流れません。取引所内でどのような取引がされているかはビットコイン以上にブラックボックスになりうる構造なのです。世界の各国でビットコインをどう扱うかが問題になっていますが、多くの国でビットコインそのものよりも取引所に対する規制をどうするかが議論されているのは当然のことだといえるでしょう。ビットコインがマネーロンダリングの温床だという指摘はありますが、もし、モラルの低い取引所が存在した場合は、本当にマネーロンダリングなんてやりたい放題になるのです。また、マウントゴックスの問題で明るみになったように、取引所に預けたビットコインが本当に存在するかについては分からないのです。取引所で取引しているビットコインとはビットコインそのものでなく、ビットコインの預かり証を取引しているようなものなのです。世の中でビットコインの解説にはP2Pソフトとしてのビットコインがどのように動作するかの解説が中心となっていますが、少なくともビットコインが現実の経済圏に影響を及ぼし始めているという文脈における説明の時には、取引所の中でビットコインがどのように取引されるかの話なしには、むしろ理解に混乱を与えているのではないかと思います。

     さて、取引所内での取引はP2Pソフトとしてビットコインの取引とは切り離されているという説明をしました。これは別のいいかたをすると取引所でのビットコインはP2Pソフトで管理された仮想通貨ではなく、取引所専用のサーバで管理された独自の仮想通貨であると考えることもできます。金本位制の中央銀行のように、ビットコイン本位制の中央銀行として取引所は機能しているということです。取引所の口座にもっているビットコインはビットコインそのものではなく、取引所がビットコインと交換することを保証した仮想通貨だということです。これはたんなる比喩ではなく、ビットコインが本当に普及するのであれば、取引所はそういう存在として、ますます進化をせざるをえないだろうというのがぼくの予想です。


    ビットコインの未来


     これまでの要点をまとめます。


    ・ ビットコインは決済のための通貨としては認証が遅くコストも高いので適さない。

    ・ ビットコインは大量の取引データを処理するのには向かない。

    ・ ビットコインが普及していくと、個人のコンピュータが参加するのは困難なぐらいにデータ通信量や共有する過去の取引履歴のデータ量が肥大化する。

    ・ 性能、処理能力を考えた場合には仮想通貨のシステムはP2Pソフトではなくサーバー型で構築すべきである。

    ・ 仮想通貨をサーバー型で構築するのではなく、P2Pソフトで構築するのは、根本的には法律で規制されないためである。その際にビットコインは中立な通貨であるというイデオロギー的な主張が付随している。

    ・ 現状でもビットコインの取引量は限界に近づきつつあり、クライアントソフトウェアのバージョンアップで対応されるだろう。

    ・ ビットコインの仕様はクライアントソフトウェアの仕様を変更し、普及させることができればいくらでも変更が可能。

    ・ 取引所でのビットコインの取引は、ビットコインのネットワークから切り離されている。

    ・ 取引所はビットコインを売買しているのではなく、ビットコインと交換できる権利を売買しており、ビットコイン本位制のサーバー型の仮想通貨を発行しているとみなせる。


     今後、ビットコインが普及するかしないかについてはわかりませんが、普及するとすれば、必然的にこうなるだろうという未来予測をすると、クレジットカードのように便利にかつ頻繁に使用されるビットコインが成立するとすれば、P2Pソフトが提供する本物のビットコインではなく、取引所が提供するサーバー型のビットコインと交換できる権利が、ビットコインそのものであるかのように使用されるようになるだろうということです。これは技術的な3つの決定的な理由でそうせざるをえません。まず、決済時間が遅くなることと、P2Pソフトでは大量の取引を同時にさばけないこと、決済用のコンピュータに要求される通信量や計算量などの能力が大きすぎて割にあわないこと、からです。

     また、ビットコインがP2Pソフトとして構築される仮想通貨であることの性能の限界は、ビットコインの中立性を主張する根拠となっている前述の①②③④のような事柄についても、見直しを迫ることになります。まず、ビットコインのネットワークに参加するコンピュータは取引数の増大にともなって、寡占化されていきます。一般の家庭用コンピュータが参加するのはだんだんと難しくなっていきます。すでにビットコインの新規通貨発行システムである採掘(マイニング)は、家庭用コンピュータではほとんど成功しなくて、マイニングプールと呼ばれるビットコイン採掘専用のASICを積んだコンピュータがデータセンターがほとんどのシェアを占めます。blockchain.infoのビットコインハッシュレート分布によると、2014年3月現在ではGHash.io、Eligius、BTC Guild、Discus Fishの上位4つのマイニングプールのシェアを合わせると全体の約7割を占めます。たくさんあるビットコインの解説記事で説明されているビットコインの仕組みに参加できるコンピュータは、ビットコインが普及すればするほど少なくなるという構造があるのです。

     最終的には利便性を考えると本来のビットコインの仕組みは少数のマイニングプールとそれぞれがビットコイン本位制の中央銀行と化した取引所間だけで使用されることになるのではないかというのがぼくの予想です。また、そうでなければビットコインの仕組みは性能的に破綻するのです。その過程ではビットコインのクライアントソフトウェアの大幅な仕様変更も発生することだと思われます。ビットコインの仕組みは中央機関が存在しないため変更できないように思われていますが、実際はクライアントソフトウェアの仕様を一斉に変更することで可能です。よく多数決だといわれていますが、客観的に必然性のある理由にもとづく仕様変更であれば、ネットワークの中で重要なコンピュータである取引所や主要マイニングプールとビットコイン財団あたりが合意できれば、おそらくは上限の2100万BTCも含めて変更は可能でしょう。客観的に必然性のある理由としては、再三いっている性能的な限界というのが、当面は非常に説得力のある仕様変更理由になりえます。また、逆に性能的な限界が変更できないのだとしたら、それはそれで取引所がビットコインの決済を代行して中央銀行化する正統的な理由を後押しします。最終的には仕様変更も中央銀行化も両方必要になるでしょう。そして、通貨として使いにくい理由とされる投機による急激な価格変動の原因である通貨供給量が十分でない問題も同様に取引所が代替する(保有ビットコイン以上の独自仮想通貨を発行する)ことか、ビットコインの2100万BTCの上限を変更するかの2択の解決策の間でゆれ動きながら、最終的には両方とも実行されることになると思います。

     そういうビットコイン本位制の中央銀行間が使用する、どちらかというと性能の悪い決済システムとなったビットコインは結局のところ、歴史的には政府から民間に通貨発行権が移行するイデオロギー的な大義名分を与えた存在だったとして評価されるのだろうと思います。

     まあ、もちろん、すべてはビットコインが仮想通貨の本命として生き残った場合の話ではあります。ビットコイン以外の仮想通貨が同じような位置を占める可能性ももちろんあるのです。


    以上


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