p進数

辻 雄(大学院数理科学研究科 准教授)

p進数は,2進数,3進数,5進数,…と素数ごとに決まる数の概念である。素数pをひとつとると,正の整数は必ず0以上p -1以下の整数からなる有限列a0,a1,…,aNを用いてa0+a1p+a2p2+…+aNpNと書ける(p進法表示)。この和が無限に続いているものも考え,さらに有限個のpの負冪も許して得られる数,

a-Mp-M+a-M+1p-M+1+…+a0+a1p+a2p2+…+anpn+…

がp進数である。p進数の世界ではNが大きいほどpNは「小さい」とみなして上の無限和を正当化する。

p進数は,1変数代数関数の冪級数展開の類似として,1897年K. ヘンゼル(K. Hensel)により導入され,有理数係数のn次方程式やその解で定義される代数体の判別式などの研究に応用された。その後2次形式論や類体論などに応用され,現在では数論のひじょうに多くの分野において用いられているきわめて基礎的で不可欠な概念である。

p進数では極限操作が許されるため逐次近似が可能で,有理数よりも方程式の扱いがはるかにやさしくなる。方程式の有理数解の存在の問題が,p進数と実数での解の存在の問題に完全に帰着できるとき,ハッセ原理が成り立つとよばれ,2次形式の零点についてはこの原理が成り立つ。しかしたとえば平面上の滑らかな3次曲線では成り立たない。この成り立たなさの様子は,楕円曲線(理学のキーワード第11回参照)に伴うテイト・シャファレビッチ群とよばれる群と関係し,この群は数論における興味深い研究対象のひとつとなっている。クレイ数学研究所による懸賞金がかけられた問題のひとつBSD予想にもこの群が関係する。

有理数体の絶対ガロア群(有理数係数のすべての代数方程式を統制するような巨大な群)が作用するp進数係数の線形空間はp進ガロア表現とよばれ,数論的対象をそれに伴うp進ガロア表現を通して研究することがしばしばある。たとえばフェルマー予想の証明は,最終的に楕円曲線に伴うp進Tate加群とよばれるp進ガロア表現の研究に帰着された。p進ガロア表現の素数pでの分岐の様子はとくに複雑で,その構造の解明にはp進数の概念だけでは不十分であり,p進数をさらに拡張した数の概念を用いて研究されている。筆者はこの構造の解明およびその応用について研究している。