安倍首相が集団的自衛権の行使容認への検討を表明してから初めて、きのうの衆院予算委員会で国会論戦があった。

 憲法解釈の変更による行使容認に否定的な野党と首相との議論はかみ合わなかった。ただでさえわかりにくいこの問題の論点が、国民の前に明らかになったとは言い難い。

 はっきりしたのは、首相がめざす夏までの憲法解釈変更の閣議決定など、とうてい無理な相談だということだ。解釈変更の根拠についても、首相はまともに答えようとしなかった。

 私的懇談会の報告を受けた先日の記者会見で首相は、憲法前文や13条をもとに自衛の措置をとることを認めた72年の政府見解を引き、必要最小限度の集団的自衛権の行使に向けた研究を進めると表明した。

 だが、72年見解は「集団的自衛権の行使は憲法上認められない」と明記している。

 きのうの審議では、72年見解が集団的自衛権を認める根拠になるのかという根本にふれる疑問を、公明党や民主党の議員が投げかけた。ところが、首相は「与党や政府において、議論していく」とはぐらかすばかりだった。

 もうひとつはっきりしたことがある。首相がいくら「必要最小限度」と強調しようと、明確な歯止めをかけるのは不可能だということだ。

 政府はおとといの自民、公明の与党協議会に、集団的自衛権やPKO、有事の一歩手前の事態にかかわる15のケースを、法的な対応が必要な事例として示した。首相が先の記者会見で説明した「邦人を運ぶ米艦の防護」も含まれている。

 きのうの答弁で首相は、日本人が乗っていなかったり、米国以外の船だったりしても、自衛隊が守る可能性があることを示した。機雷除去のため中東のペルシャ湾に自衛隊を派遣する可能性にも言及した。

 首相の答弁を聞けば、「自衛隊の活動範囲はどこまで広がっていくのだろうか」との懸念がやはりぬぐえない。

 集団的自衛権については、きょうも参院の外交防衛委員会で審議される。しかし、国会は会期末まで1カ月を切った。この問題が正面から議論されそうなのは、いまのところ来月に予定される党首討論ぐらいだ。

 自公協議は週1回のペースで続けられる。与党間で議論するのは当然だが、ことは憲法の根幹と安全保障政策の大転換にかかわる問題である。国会を置き去りにして閣議決定に突き進むことは許されない。