ウクライナ情勢参考資料:ウクライナ軍の兵力

小泉 悠 | 軍事アナリスト

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ウクライナ東部情勢が激しさと混迷とを増しているが、ウクライナ軍の兵力に関する信頼できる資料が意外とネット上にないようなので、参考資料として各年度のウクライナ国防白書から以下のようなものを作成してみた。

ちなみにウクライナ国防白書は2013年公表の『白書2012』を最後に発行が止まっている。さすがに現今の情勢下では機密保持の問題などもあり、白書を出す訳には行かないのだろう。

まず総兵力であるが、ソ連からの独立時には80万人以上も居たものが、軍改革によって徐々に減少。2012年には14万人弱(このほかに軍属の文民4万5000人)まで削減されていた。

ウクライナ軍の兵力推移
ウクライナ軍の兵力推移

その後、ウクライナ暫定政権は予備役動員令を出して4万人の一般国民を招集したが、そのうちどのくらいを実際に応招したのかは明らかでない。また、約半数は内務省指揮下の国民親衛隊に配備されたということだが、これについても実態が明らかでない。

次に各軍種別の兵力は次の通り。

* 陸軍:5万7000人

戦車686両

装甲車2065両

戦闘へリ72機

火砲716門

* 空軍:4万600人

戦闘機160機

輸送機25機

* 海軍:1万6400人

戦闘艦22隻(うち潜水艦1隻)

対潜ヘリ8機

対潜哨戒機3機

* 空中機動部隊:6100人

装甲車310両

このように、ウクライナ軍はごく小規模な軍隊である。しかも、海軍総司令部があるクリミア半島を占領されたことによって、海軍の艦艇は大部分がロシア側に接収され、今年3月初頭の時点で作戦可能状態にある軍艦は4隻しかウクライナ側に残らなかった。戦闘機も同様で、クリミア半島のベルベク基地に駐留していたMiG-29戦闘機40機がロシア側に接収されたため、ウクライナは予備保管状態になっていた機体を慌てて引っ張り出さざるを得なくなった。

その後、ロシア軍はクリミアに残された兵器を少しずつウクライナへ引き渡しており、その数は航空機・車輛等400点にのぼるという。

だが、ロシアのブルガーコフ国防次官(兵站担当)が明らかにしたところによると、依然としてクリミアには次のような兵器が残っているという。

・ 航空機:75機

・ 艦艇:32隻

・ 車輛:1321両

・ 火砲・ロケット砲:120門

・ 装甲車両:121両

・ 通信機器:201基

・ 作戦支援機材:302基

・ 兵站機材:400基

上述のウクライナ軍の保有兵力と、クリミアに遺棄された兵器とを比べてみると、ウクライナ軍がただでさえ貴重な装備のうち、かなりの量をクリミアで失ってしまったことが見てとれよう。ブルガーコフ国防次官はこれらを年内に返却するとしているが、ロシアはこれまでにも親露派勢力に対する暫定政権の掃討作戦を理由として引き渡しをストップしており、今後もウクライナに対する交渉材料として度々引き渡しが滞ることは考えられる。

かといって、経済危機に陥っているウクライナには新型装備を大量に導入する経済的余裕は乏しい。以下にウクライナ軍改革プログラム向け予算の支出状況を示すが、開始以来、一度も予算計画通りに資金が拠出されていないことが読み取れよう。

ウクライナ軍改革予算と実際の支出額推移
ウクライナ軍改革予算と実際の支出額推移
小泉 悠

軍事アナリスト

早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在はシンクタンク研究員。ここではロシア・旧ソ連圏の軍事や安全保障についての情報をお届けします。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆。

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