産業競争録会議長谷川資料で注意すべき点
昨日開かれた産業競争力会議課題別会合に出された長谷川座長の資料については、書かれてもいないことをまことしやかに報ずるマスコミもあったりして困ったものですが、まずはきちんと原資料に当たって確認すべきを確認するという基本動作をしっかりやりましょう。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kadaibetu/dai4/siryou5.pdf
そのうえで、とかくマスコミがやりがちな、重要でないことばかり大騒ぎして、一番肝心なことを見事にスルーするという弊に陥らないようにするために、ここで注意して目を通すべきところを指摘しておきます。
まず、「新しい労働時間制度の考え方」と題する4ページの一番下の項目。
健康確保は、「労働時間上限」、「年休取得下限」等の量的制限の導入、
対象者に対する産業医の定期的な問診・診断など十分な健康確保措置
ど素人ならともかく、ある程度の玄人ならこれを見て、なるほど法律上の上限設定は何が何でもやるつもりはないんだな、と読まなければなりません。
4月の長谷川ペーパーは明確に、上限は労使で決めると書かれていましたが、今回はわざとそこをぼやかしていますが、法的上限を設定するならそう書くはずで、そうでないということはしないということです。
その証拠に、すぐ後に「対象者に対する産業医の定期的な問診・診断など十分な健康確保措置」とあります。いや、ご存じの通り、現行労働安全衛生法で月100時間を超える時間外労働をさせる場合は産業医の面接指導を義務づけていますから、そのレベルの時間外労働をやって産業医の面接指導を受けることは当然の前提と言うことなのでしょう。
も一つ言うと、その少し上に
量的上限規制を守れない恒常的長時間労働者、一定の成果がでない者は一般の労働管理時間制度に戻す。
いや「守れない」って、もし法律上の上限だったらその段階で法違反ですから、戻すも戻さないも摘発対象です。この記述はそうじゃないと言うことですね。
しかしだとすると、その前の3ページで麗々しく、
政府(厚生労働省)は、企業による長時間労働の強要等が行われることのないよう、労働基準監督署等による監督指導を徹底する等、例えば「ブラック企業撲滅プラン」(仮称)を年内に取りまとめ、政策とスケジュールを明示し、早期に対応をする。
といっているのは、4月の長谷川ペーパーと同様、法律上違法ではないことを監督官が監督指導するという法治国家にあるまじきことを述べていることになります。
今まで何回も書いてきたのでもういい加減飽きてますが、現在の法律では、長時間労働はただそれだけでは違法じゃありません。違法じゃないことを監督官が監督指導して是正させるなどあり得ません。できるのは現行法で違法なことだけ、つまり残業代払ってないぞ、という、本来の労働時間規制の本旨からすれば枝葉末節のことだけです。しかしその枝葉末節による監督指導もできなくなり、とはいえ法律上の労働時間の上限規制もやる気が全くないとすると、やれないことをやれやれといって、合法的な長時間労働を国家権力が摘発しないから怠慢だと無理難題を言いつのるという、何とも陰鬱な映像が浮かんできてしまいます。
とにかく、この資料のどこにも、長時間労働それ自体を違法にするなどという記述は見当たらないのですから、いったいこの「ブラック企業撲滅プラン」なるものは何を摘発させるつもりなのか、是非伺いたいところです。
この資料について、注意を喚起すべき点はほぼ以上に尽きます。
例示に過ぎないいくつかのもっともらしい職種を、まるでその職種に限定するかのように報道する馬鹿なマスコミとか、この資料の5ページを見れば小学生でもわかることなので、あまりにもレベルが低くて失笑しますが、本ブログの読者にそれをいちいち言うのは失礼でしょう。抽象的な言葉で限定めかした言葉をまぶしておけば、それを真に受けるマスコミほど使いやすい存在はありませんね。
とりあえず今の段階では以上。
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