(2014年5月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
尖閣諸島(中国名:釣魚島)を巡って日本と中国の緊張が高まっていた時期に、自動車メーカーの華泰汽車はスポーツ多目的車(SUV)の「宝利格愛国版(Boliger Patriot)」を事実上、中国の国旗でラッピングしていた。2012年9月に発売した「愛国版」の車体を赤く塗り、そこに黄色い星を描いたのだ。
当時は、日本政府があの島々を民間人の持ち主から購入したことをきっかけに中国全土で抗議行動が行われ、暴徒があちこちで日本車を破壊していた。
大手国営メーカーも「ビッグ・ファイブ」も軒並み苦戦
しかし、人々のナショナリスティックな感情にここまであからさまに訴えたにもかかわらず、大した成果は上がらなかった。チャイナ・オート・ウェブがまとめたデータによれば、北京に本社を構える華泰汽車の昨年の販売台数は2万9000台足らずで、調査対象の73ブランド中50位にとどまっている。
韓国の現代自動車から手に入れた技術をベースに、ポルシェのSUV「カイエン」の設計要素をまねて作った「愛国版」が失敗に終わったことで、中国の自動車政策は失敗したと主張する向きはさらに勢いづいている。確かに、中国の自動車セクターが外国からの投資に門戸を開いて30年が経過したが、この国には世界市場で競争できる独自ブランドがまだ存在しない。この分野で成功を収めた日本や韓国とはまさに対照的だ。
この主張によれば、中国の大手自動車メーカーは、世界の大手メーカーと進めているビロードの棺桶のような合弁事業に囚われてしまっている。配当金は容易に得られるが、ブランドを成功させるのに必要な常識やノウハウは手に入らない、というわけだ。
知名度が比較的あり「ビッグ・ファイブ」と称される民間自動車メーカー5社も苦戦している。長城汽車、吉利汽車、長安汽車、奇瑞汽車、比亜迪(BYD)の5社は第1四半期の販売台数を前年同期比で10%減らしており、同15~20%の増加となったドイツや米国、日本のライバルメーカーに大きく水をあけられている。バーンスタイン・リサーチのアナリストらは、この対称的なパフォーマンスを「異常な乖離」と評している。
一方、華泰汽車のような中小メーカーは、地方政府から補助金を得たりしながら懸命に生き残ろうとしている。先月開催された北京モーターショーでは、米ゼネラル・モーターズ(GM)や、そのGMと合弁事業を展開する上海汽車(SAIC)などの隣に自社製品を誇らしげに展示していた。
80年前の欧米と同じ淘汰の時代へ
投資銀行マッコーリーのアナリストらによれば、中国の自動車メーカーの工場稼働率は2010年以降、90%から70%以下にまで落ち込んでおり、最後の審判を受ける日が遠くないことを示唆しているという。しかし、企業のそのような淘汰こそが、中国の自動車産業が事態を好転させるために必要なことなのかもしれない。
カーオーディオ機器の製造で知られるハーマンのディネッシュ・パリワル会長兼最高経営責任者(CEO)は、現在の中国の状況を、多数の自動車メーカーが淘汰された20世紀初めの欧米のそれと比較する。