(英エコノミスト誌 2014年5月24日号)
南シナ海の係争海域では、中国は好き勝手にできるように見える。
中国の国営新聞で米国の「偏執的な従属的同盟国」と酷評された国を率いる人物にしては、フィリピンのベニグノ・アキノ(通称ノイノイ)大統領は非常に落ち着いていて、驚くほど融和的であるように見える。
アキノ氏いわく、上記の中国日報の叱責を招いた南シナ海での領有権争いは、フィリピンの対中関係の「最も重要な要素」ではない。アキノ氏は「極力率直でいることと、自分が中国の鼻をつねっているのかどうか推し量ることの間の緊張関係」を管理しなければならないという。
アキノ氏が先日、マニラの大統領官邸で本紙(英エコノミスト)コラムニストと話をしていた時は、心中の議論の「相手の鼻をつねらない側」が勝利しているように見えた。2国間貿易と観光は活況を呈しているし、双方とも大きな2国間関係から複雑な論争を「隔離」しようとしている。また、アキノ氏は「挑発的な声明」に反応しないようにしてきたという。
近隣国の意向を完全に無視する中国
だが、中国はここ数週間、南シナ海で近隣国の意向など完全に無視した行動に出ている。ベトナムと係争中のパラセル(西沙)諸島に近い南シナ海北部海域では、中国はベトナムが国際海洋法条約の下で自国に権利が与えられた排他的経済水域(EEZ)内だと認識する海域に、大規模船団の護衛付きで巨大な石油掘削装置を運び込んだ。
ベトナムでは、この行為に対する怒りが引き金となって暴動が起こり、何百もの工場が略奪されたり放火されたりし、6人の中国人が死亡した。中国はその後、ベトナム在住の数千人の中国人労働者を避難させ、補償を求めた。破壊された工場のほとんどは、実際には中国人が所有するものではなかった。大半は台湾からの投資だった。
この破壊行為によって、ベトナムは道徳的優位性を失い、旧敵に向けられた単なる愛国主義以上のものが進行している可能性のあることを示した。
フィリピン外務省が公開した、中国が埋め立て工事を進めているとみられる南シナ海のジョンソン南礁〔AFPBB News〕
さらに南へ進むと、中国がスプラトリー(南沙)諸島のジョンソン南礁で海を埋め立てている様子が複数の写真で示されている。中国はここに滑走路を建設するつもりだと言うアナリストもいる。フィリピンはこれに抗議した。同国はジョンソン南礁を自国のEEZ内だと見なしているからだ。
そして、東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟10カ国と中国が2002年に調印した行動宣言では、係争中の岩礁での新規建設が禁止されている。
恐らく最も非常識なのは、中国が領有権を主張する根拠を説明さえしてくれないことだろう。例えば、石油掘削装置の場合、中国は自国が活動している海域を、誰もが認める中国領土である海南省に属するEEZの一部だと見なしているのかもしれない。あるいは、この海域は中国が1974年に旧南ベトナムを追い出したパラセル諸島に属しているのかもしれない。あるいはもしかしたら、それは単に「九段線」に含まれるだけなのかもしれない。