くるくる回る分子ベアリングを発見
炭素原子が連なるカーボンナノチューブの筒の中に取り込まれたフラーレン(60個の炭素原子からなるサッカーボール状の分子)がくるくる回っている。こうしたベアリングのような回転を東北大学原子分子材料科学高等研究機構の磯部寛之(いそべ ひろゆき)教授、佐藤宗太(さとう そうた)准教授、大学院生の山崎孝史(やまさき たかし)さんが初めて発見した。固体でも滑らかに回転するナノサイズの分子機械の自在な設計に道を開く新しい知見として注目される。5月27日の米科学アカデミー紀要のオンライン版に発表した。
ナノチューブの筒に球状の分子が「さやえんどう」のような形で入った炭素性物質「ピーポッド」は1998年に発見されてから、盛んに研究されてきたが、精密な分子構造はまだよくわかっていない。研究グループは、構造がきちんと決まった単層ナノチューブを合成し、その中にフラーレンを詰め込んだ単純な構造のピーポッドを作った。核磁気共鳴装置(NMR)で測定して、中のフラーレンが抜け出せないほど強固に捕捉されながら、チューブ内で回転していることを見いだした。
さらに詳しく調べると、溶液の中だけでなく、通常の分子なら動きを止めてしまう固体の結晶でも、内部の球状のフラーレンがこまのようにくるくる回っていた。また、大型放射光施設SPring8(兵庫県佐用町)などでのX線回折の分析から、ナノチューブの筒の内部に、変曲点のない滑らかな曲面が存在することを初めて突き止めた。そのつるつるの曲面が、くるくる回転する要因の一つであることがわかった。
このピーポッドをマイナス30℃まで冷やしても、回転は止まらなかった。マイナス173℃まで冷やすと、内部の回転は止まっていて、さまざまな配置の状態がX線回折で確認された。さらに、多様なフラーレンの配置の中でも、居場所が変わらない2つの炭素原子が見つかった。この特別な動きをする炭素の生成要因の解明は今後の課題という。
研究グループは「カーボンナノチューブを分子設計して厳密に合成したのがこの発見につながった。固体の中で回転しているのは不思議だが、かなり速く回っていることしか、まだ分からない。この回転運動は温度に依存して低下するだろう。回転の速さなどの解析は今後の課題だ。ランダムに回っているのではなく、フラーレンを構成する炭素のうち、特別な動きをする炭素があることも興味深い」と指摘している。
図. 分子ピーポッドの結晶内構造 筒状のカーボンナノチューブの中で回っている球状のフラーレン (提供:東北大学) |