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『ラブライブ!』二期八話に見る東條希の「皆で叶えたかった夢」について

『レディジュエルペット』八話を見たのだが、「カイエンとリリアンが兄妹だった!」というのはさほど驚きがなかったものの、カイエンがキングを目指す理由をさらっと「ももなと二人だけの秘密」として展開してしまうことで、そんなカイエンの妹であるリリアンがレディジュエルになりたい理由について自然に誘導していたのはさすがに上手かった。
リリアンに視聴者を誘導することで今回のような「リリアンらしくない=素のリリアン」を見せることで、彼女がレディジュエルを目指そうとする理由についても必然的に注意が行くわけなのだが、それに加えて素のリリアン自体が癖は無くいい子で、むしろ普段の姿の方が作られたキャラクターであるように描くことで、彼女はレディジュエルになろうとする理由が今まで欠片も見せてこなかったことが本作が描く物語の重要なもののように見えてくる。
地味だけどこういう積み重ねが物語を引っ張っていく魅力として機能するわけで、そういう意味では非常によく考えられているなぁと思うところなのだが、あのEDのあってなさはあえてずらしているのかどうか判別がつかないのだが、そのあってなさが逆に癖になるな。



『ラブライブ!』二期八話が無事に放送された。
一期の八話はといえば絢瀬絵里と東條希が加入し、九人となったμ'sがオープンキャンパスで『僕らのLive 君とのLife』を歌った一期を代表するお話だったわけなのだが、二期八話はそんな一期八話(特に絢瀬絵里加入周りのエピソード)と重なるような物語となっている。
物語はいよいよ始まる最終予選に向けての準備も大詰めを迎えたμ'sの姿から始まる。
最終予選に使用する楽曲で悩んでいた九人だったが、絢瀬絵里は新曲としてラブソング製作を提案する。誰も恋愛経験がないという状況の中、ラブ=好きと言う気持ちについて考える中、西木野真姫はラブソングではなく今までの楽曲で勝負すると反論を唱えるのだが、ラブソングの製作を提案した希には秘められた想いがあったのだった。
三話のライブをきっかけに物語が大きく動き出していくことなど一期を彷彿とさせるようなエピソードを展開し、シリーズ構成と言う意味でも一話で決断を、二話で楽曲作りとするなど一期とあえて重ね合わせるかのようにをしていたわけなのだが、今回の二期八話では一期八話にて絢瀬絵里の「本当に大切なことは」と言うテーマを問いかけた東條希にスポットを当て、彼女の「本当に大切なこと」を問いかける物語となっている。
そんな二期八話で特に面白かった点は前述したように「東條希にとって本当に大切なもの=夢」を描いたことだろう。
最終予選を突破し本戦への出場を決める=A-RISEを超えるために新曲としてラブソングを作ろうと提案したのは東條希であるが、誰も経験したことがない恋愛が題材のラブソングであり、これから歌を作りダンスを覚えていくことを考えると完成度としては間違いなく落ちると西木野真姫に反論され、μ'sは既存曲で勝負する方向へと話がまとまりかけるのだが、そうなることがある程度わかっていたにも関わらずなぜ東條希は新曲での挑戦を提案したのだろうか。
それは彼女にとって「今ここでこの九人と出会えた事が奇跡」であり、それが彼女が九人と成し遂げたかったことだからだ。
この二期八話の中で音ノ木坂学院に来る前の東條希の過去が描かれているが、音ノ木坂学院に来る前の彼女は親の引っ越しによって友達が環境的に出来なかった少女だった。
この辺りのエピソードについては『スクールアイドルダイアリー』でも触れられている事なのだが、『スクールアイドルダイアリー』では「『友達がすぐに出来るように』と処世術で占いを覚えた」という彼女の占い好きな部分のルーツとなるエピソードが描かれているが、アニメ版ではあえてそこを外すことで彼女は友達が環境的に出来なかった少女として描写される。
周りが賑やかにしている中、一人きりで過ごし、誰もいない家に帰る幼少期を送っていた東條希。親の仕事の都合であるとはいえ、その境遇は「孤独」であり、そんな境遇だからこそ彼女は「どこにも居場所がない」という存在として描かれている。

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「どこにも居場所がない」「孤独」という事を徹底して描くからこそ、音ノ木坂学院に来ることで出会えたμ's九人と「ここ=音ノ木坂学院だから出会えた」という事実そのものが強調されるのだが、ここで面白いのは彼女にとって「本当に大切なモノ」は何かということ、そしてそんな彼女がラブソング制作を通じて「何をやりたかったのか」ということだ。
彼女にとって「本当に大切なもの」は作中でも描かれたとおり「μ'sの仲間達と出会えたこと」であり、彼女が笑っていられるような「居場所」だ。
かつての彼女は「親の都合で転校続きで友達とはいずれ別れる運命」という事を分かっているし、受け入れている。受け入れているからこそ彼女は誰かとともにそれなりの期間を過ごせば手に入れられるようなものを手に入れられなかった過去から誰かと共有できるような「居場所がある今」を、そして「分かり合える仲間」求めていた。
だからこそ音ノ木坂学院に来て、絢瀬絵里と出会い、そしてμ'sと出会う事でその「居場所」と「分かり合える仲間」という事で彼女の夢は自身が語るようにとっくに叶っているものだ。そもそもμ'sが生まれた理由が廃校決定が原因だったことを考えるとその夢が叶ったのは間違いなく奇跡だ。
そんな奇跡でようやく生まれた東條希がいてもいい「今の居場所」。それが今のμ'sなのだ。
東條希にとって今μ'sとして活動していること、この九人で何かを成し遂げた事は間違いなく「今ここで出逢えた奇跡」であり喜びだ。
それを前提にして視聴してみると彼女が最終予選用の新曲としてラブソングの製作というものを提案した意味が見えてくる。
彼女にとっては廃校の危機という難題がきっかけとなって仲間達と出会い、μ'sという居場所を手に入れられたのは奇跡的な出来事だ。そんなμ'sの活動の中で成し遂げてきた様々な出来事は彼女がようやく出会えた分かり合える仲間達と心を重ね合わせることで手に入れて共有した思い出であり、奇跡が生み出したμ'sの象徴的な出来事となっている。その中でも「廃校を阻止した」ということは彼女にとって仲間達とともに勝ち取ったものではあるものの、それは「仲間とともに作り上げたもの」としては少し弱いのだ。なぜなら彼女達が今やっているスクールアイドル活動を象徴するものであって、μ'sの九人と出会えたことそのものを象徴するものではないのだから。

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「ただ、曲じゃなくてもいい。九人で集まって力を合わせて何かを生み出せればそれでよかったんよ。うちにとってこの九人は奇跡やったから」

今まで転校続きで居場所がなく、仲間とも出会えなかった東條希。
そんな彼女だからこそ、そんな「仲間と共に作り上げた何か」を欲してしまう。それこそが今回のラブソング製作と言うものの裏に秘められた東條希の「μ'sが本当に大切なもの」だからこそ「彼女達と本当にやりたかったこと」なのだ。
それに気づいていたからこそ絢瀬絵里はラブソング製作が一時中断された時に、東條希に「それでいいの?=本当にやりたかったことは?」と言葉をかけるのだ。
かつて自分が本当にやりたかったことを、大切なものを見失っていた時に東條希がかけてくれたように、今度は絢瀬絵里が自分が本当にやりたいことなのに「仲間のために」と取り下げてしまった東條希に、「それでいいの?」と問いかける。
その言葉が東條希が心にしまった「皆で言葉を繋ぎあわせ彼女達九人だからこそ出来た楽曲でラブライブ!という最高のステージを目指す」という思いを呼び起こし、彼女の夢(=九人全員で一人一人言葉と想いを紡いだ楽曲でラブライブ!に出たい!)は西木野真姫と絢瀬絵里を、そしてμ'sを動かしていく。
だから二期八話のクライマックスは東條希が自分の全てを話すシーンとなっているのだ。
そして自分の本当にやりたかったことをようやく語った東條希の家にそんな彼女の大切な思いを知ったμ'sが集まり、彼女の大切な思いのために楽曲を作り上げていく流れが美しく見えるのだ。
その楽曲がどんな楽曲は次回に期待だが、少なくとも一人一人の気持ちを重ね合わせ、九人の想いが「今ここ(=音ノ木坂学院)だからこそ出会えた奇跡」という「μ'sの始まりから今を結ぶ一つのメロディーが楽曲となっていることだけは間違いない。
九人だからこその旋律はどんな世界を見せてくれるのだろうか。お披露目となる来週は間違いなく二期において一つのターニングポイントとなる話になる。そのことだけは間違いないだろう。

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「自分を大切にするあまり、周りと距離をおいて、皆と上手く溶け込めない。ずるが出来ない。まるで自分と同じような人に。思いは人一番強く、不器用な分他人とぶつかって。それがうちとえりちの出会いやった。その後も同じ思いを持つ人がいるのに、どうしても手が取り合えなくて。真姫ちゃんを見た時も、熱い思いはあるけどどうやって繋がっていいかわからない。そんな子がここにも、ここにも! そんな時、それを大きな力でつないでくれる存在が現れた。思いを同じくする人がいて、つないでくれる存在がいる。必ず形にしたかった。この九人で何かを残したかった。確かに歌という形になればよかったのかもしれない。けど、そうじゃなくてもμ'sはもうすでに大きな何かをとっくに生み出している。うちはそれで十分。夢はとっくに、一番の夢はとっくに……」


ところで今回もそうだが、『ラブライブ!』二期では原作者の一人である『スクールアイドルダイアリー』を参考にしているかのような描写が散見される。例えば第四話のにこの家庭環境は『にこ編』が初出でありアニメと似たような家庭環境であることが示唆されているし、『星空凛編』では星空凛が女の子らしい格好に強い憧れを持っていることが明確に描かれている。今回の二期八話において描かれた東條希の過去についても同じことがいえ、『スクールアイドルダイアリー』ではより詳細に描かれているのだが、興味深いのは『ラブライブ!』ではある程度共通のエピソードや性格付けなどのを持っていながら、そのドラマ性は全く違うものとなっているのだ。
わかりやすいのは星空凛編で、『スクールアイドルダイアリー』では「男の子が好むものが好きだけど、女の子らしい格好も好きだ」という星空凛には「幼少期に女の子らしい格好をしてからかわれた経験を持つ」という設定がアニメ版、スクールアイドルダイアリー版の両方に存在しているのだが、スクールアイドルダイアリー版ではその「女の子らしい格好をしてみたい」と言う部分は「変装してμ'sの活動に潜り込む」という部分でドラマ性を与えているのに対し、アニメ版では「からかわれた」というところを強調することで、彼女の「女の子らしさへの憧れ」をよりダイナミックなドラマへと仕立てあげている。
東條希についても同じで「親の仕事の都合で転校続き」と言う部分は共通ではあるものの、「友達がすぐにできるようになるために占いを覚えた」と言う処世術と居場所の問題に軽く触れているだけなのに対して、アニメ版では「今まで友達がいなかったからこそ、今ここで出逢えた仲間達と何かを成し遂げたことが嬉しい」というドラマへと変えている。
『ラブライブ!』では漫画版、アニメ版、そして一期のBD特典となった小説やこのスクールアイドルダイアリー版までどれも「一部の設定を共有しながらも、アプローチの違いによって全く違うドラマへと展開している。
つまり『ラブライブ!』には一つのキャラクターに対して「幾つもの解釈が用意されている」ということなのだが、ここで面白いのは一部設定を共有することでそれぞれは緩い繋がりが持たされている事で、その緩い繋がりによりキャラクターをより多面的な形で楽しむことができるのである。
とりわけ『スクールアイドルダイアリー』シリーズは各キャラクターの家庭環境や過去に起きたことに至るまで掘り下げられており、各作品を楽しむ上で副読書としては役に立つだろう。



なお今回の絵コンテと演出は綿田慎也氏である。
京極尚彦監督とは『プリティーリズム・レインボーライブ』の12話にて絵コンテと演出という形で参加している他、京極尚彦監督が監督補佐を務めた『プリティーリズム・オーロラドリーム』の第四クール目にあたる47話でも演出として参加しているのだが、実は『ラブライブ!』一期においても二話、四話、十一話と話が大きく動き始める大事なエピソードの演出を手がけている。
そんな綿田慎也氏だからこそラブライブ!最終予選に向けて九人が心を一つにして作詞すると言う今回の話で絵コンテ・演出という形で参加する事にも意味があるように感じられる。
今回の八話で仕込みは十分にされた。何が起きてもおかしくないような状況の中、次回はどのような形で仕込んだ何かが実を結ぶのだろうか。
また今回東條希の口からμ'sの九人が共通項として「自分の本当の思いに気づきながら不器用故に人を遠ざけてしまう」という特徴があると語られた。六話の「それぞれが個性的」と言う言葉と真っ向から対立する言葉のように見えるが、この個性的な九人がμ'sというユニットとなれるのはその共通項があるからだ。
そしてそれはこうして改めて振り返りながら提示された時に状況証拠から説得力を帯びた言葉として生きてくる。
そんな九人だから今こうして活動していられる。仲良しグループではなく、本気でぶつかり合い、分かり合える仲間となれるのだ。

ところで今週を見終わって一番最初に出た感想は「一時間スペシャルでやってくれ」なのだが、正直ここで切るのは来週まで辛い。もぎゅっとのカットを連発していたが、あの流れだとどう考えても『Snow halation』以外ないだけに『Snow halation』が楽しみである。

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