おっさんみたいな美少女と妄想垂れ流し少年の全体主義系学園ラブコメディ。
完全に奇書。
ラノベ界にたまにあらわれる「お前なに考えてこんなもん書こうと思ったんだよ」としかいいようがない奇書。
エリート官僚のぼんくら息子が王侯貴族たちの集う学園で野蛮で奇矯な姫に出会って振り回される――とまとめると、なるほど、ラノベによくあるタイプの話にも思えるが、いや、なんか違うんですよ、全然。それでいてラノベでしかできない作品なんですよ。
まずは一読して文章の異常なテンションに圧倒される。一見、うわっすべりな漫画パロやネットスラングの塊にしか見えないんだが、これがあまりにも徹底されていて、一行たりとも無駄にせずネタを入れてくる姿勢には笑いというより狂気と恐怖を感じるほど。そしてドタバタ学園コメディの態をとってはいるが、ストーリー自体はわずかな失言が命の危険につながり、誰が味方で誰が敵かわからない全体主義国家の恐怖と政争を描いているという、なんというか「本当にもう何故その二つを合わせようと思ったのか。そしてなぜかくも華麗に融合させてしまっているのか」と読んでいるこちらが頭を抱えてしまうような意味不明な作品。
いや、実際、見事に融合しているんだよね。この作品の主人公はいわゆる「信用できない語り手」の類だとは思うんだが、別に嘘はなにも云っていない。現実逃避の妄想とギャグを垂れ流しつつその合間に深刻な状況を織り交ぜて冗談めかしているだけで、民族の対立やテロの危険と隣り合わせの状況を隠してはいない。妄想の卓越した速度と密度に現実が押し流されているだけで嘘はいっていない。そしてこの妄想自体が主人公の追い詰められた精神状況をあらわしてもいる。
そしてまたキャラが生き生きとしている。しすぎている。ロシア文学や司馬遼太郎の『韃靼疾風録』を元ネタに作ったと明言しているように、異文化のおっさんって馬鹿で変で可愛いよねというのを少女にしてみたら萌えキャラ出来上がりというキャラメイクなのだが、ことあるごとに「ナラー」と叫び、そこかしこで座りションをはじめるネルリは馬鹿で野蛮で可愛い。ロシア可愛い。
世界文学からネットスラングまで雑多な知識をごちゃ混ぜにするセンスと知性には嫉妬を禁じ得ない。巻末の『韃靼疾風録』の説明など特にその知性が感じられるので抜粋すると
司馬遼太郎のベストワークではもちろんなく、どっちかというとダメな方の作品のような気がしますが(中略)「司馬りょん、それさっきも聞いたわ」「司馬りょん、ネタに走らず話進めろや」などとツッコミつつ生暖かい視線で読むと楽しいですよ。
司馬遼太郎の長編連載作品に対するこれほど的確な解説は見たことがない。こういう視線でもってあらゆる作品フラットに読み、自身の中で咀嚼して再構築した結果としてこのような奇書が出来上がるのか。
どうも本作はシリーズ三作あるみたいなので続きも是非読みたいところだが、絶版かつ古書でもプレミアがついているらしく、手に入りにくいのが困る。が、ちょうど2014年6月にkindle版が全巻配信するようなので、一安心した次第。
完全に奇書。
ラノベ界にたまにあらわれる「お前なに考えてこんなもん書こうと思ったんだよ」としかいいようがない奇書。
エリート官僚のぼんくら息子が王侯貴族たちの集う学園で野蛮で奇矯な姫に出会って振り回される――とまとめると、なるほど、ラノベによくあるタイプの話にも思えるが、いや、なんか違うんですよ、全然。それでいてラノベでしかできない作品なんですよ。
まずは一読して文章の異常なテンションに圧倒される。一見、うわっすべりな漫画パロやネットスラングの塊にしか見えないんだが、これがあまりにも徹底されていて、一行たりとも無駄にせずネタを入れてくる姿勢には笑いというより狂気と恐怖を感じるほど。そしてドタバタ学園コメディの態をとってはいるが、ストーリー自体はわずかな失言が命の危険につながり、誰が味方で誰が敵かわからない全体主義国家の恐怖と政争を描いているという、なんというか「本当にもう何故その二つを合わせようと思ったのか。そしてなぜかくも華麗に融合させてしまっているのか」と読んでいるこちらが頭を抱えてしまうような意味不明な作品。
いや、実際、見事に融合しているんだよね。この作品の主人公はいわゆる「信用できない語り手」の類だとは思うんだが、別に嘘はなにも云っていない。現実逃避の妄想とギャグを垂れ流しつつその合間に深刻な状況を織り交ぜて冗談めかしているだけで、民族の対立やテロの危険と隣り合わせの状況を隠してはいない。妄想の卓越した速度と密度に現実が押し流されているだけで嘘はいっていない。そしてこの妄想自体が主人公の追い詰められた精神状況をあらわしてもいる。
そしてまたキャラが生き生きとしている。しすぎている。ロシア文学や司馬遼太郎の『韃靼疾風録』を元ネタに作ったと明言しているように、異文化のおっさんって馬鹿で変で可愛いよねというのを少女にしてみたら萌えキャラ出来上がりというキャラメイクなのだが、ことあるごとに「ナラー」と叫び、そこかしこで座りションをはじめるネルリは馬鹿で野蛮で可愛い。ロシア可愛い。
世界文学からネットスラングまで雑多な知識をごちゃ混ぜにするセンスと知性には嫉妬を禁じ得ない。巻末の『韃靼疾風録』の説明など特にその知性が感じられるので抜粋すると
司馬遼太郎のベストワークではもちろんなく、どっちかというとダメな方の作品のような気がしますが(中略)「司馬りょん、それさっきも聞いたわ」「司馬りょん、ネタに走らず話進めろや」などとツッコミつつ生暖かい視線で読むと楽しいですよ。
司馬遼太郎の長編連載作品に対するこれほど的確な解説は見たことがない。こういう視線でもってあらゆる作品フラットに読み、自身の中で咀嚼して再構築した結果としてこのような奇書が出来上がるのか。
どうも本作はシリーズ三作あるみたいなので続きも是非読みたいところだが、絶版かつ古書でもプレミアがついているらしく、手に入りにくいのが困る。が、ちょうど2014年6月にkindle版が全巻配信するようなので、一安心した次第。