『シドニアの騎士』静野孔文監督インタビュー「アニメ業界の『革命』を見逃さないでほしい」

現在放送中のテレビアニメ『シドニアの騎士』。デジタルアニメーションと銘打たれ3DCGをベースに制作された本作は、劇場作品と見紛うほどの圧倒的な密度と迫力で視聴者の度肝を抜いた。今回は監督である静野孔文氏にインタビュー。本格的な日本テレビアニメーション初参入となる制作スタジオ「ポリゴン・ピクチュアズ」の実態と共に、本作の魅力について伺った。

静野孔文(しずの・こうぶん)
1972年東京生まれ。『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』の制作に参加し、その後3DCGの演出家として活躍する。独立後は主にゴンゾ作品を中心に絵コンテ・演出を手がけていたが2005年にアメリカ放送のテレビアニメ『G.I.ジョー:SIGMA6』の総監督に抜擢。活躍の場を北米に移した。以後の代表作に『聖飢魔II』ビデオ・クリップ(監督他全ビジュアルイメージ)、上海万博DEVNET館 立体3Dアニメ ミレニアムベイビー(原作・監督・キャラクターデザイン)などがある。また劇場版『名探偵コナン』では『名探偵コナン 沈黙の15分』以降、2014年の最新作『名探偵コナン 異次元の狙撃手』までの監督を務めている。

―― まずは『シドニアの騎士』の監督に就かれた経緯をお教えていただければと思います。制作スタジオであるポリゴン・ピクチュアズ(以下PPI)さんからお声が掛かったのでしょうか。

静野 いえ、キングレコードのプロデューサーからオファーがありました。自分は海外のPV(プロモーションビデオ)などの仕事を主に請け負っているのですが、海外の仕事をやっていると日本のアニメ市場のギャラは非常に少なく、会社に所属している立場としてはどうしても受けられないんです。ただ今回はPPIさんという制作現場でアニメが作れるということに魅力を感じて、会社には無理を言ってスケジュールを開けてもらったんです。

―― ご経歴を見ますと、PPIさんとの繋がりがあまり見えなかったので不思議に思っていたのですが……。

静野 この作品で初めてPPIさんのスタッフと関わらせていただきました。CG業界は素晴らしいクリエイターたちがいるのだというのが改めて分かりましたね。その表現力、技術をさらに世の中に広めてもらうために、アニメ業界に参入してもらって本当に良かったと思います。

―― なるほど。PPIさんは海外での活躍が多く、日本の読者の方々はあまり馴染みが無いかと思います。よろしければ本インタビュー前半は、PPIさんとはどのようなスタジオなのか、というところに焦点を当てたいと思います。

静野 分かりました。

―― そもそもPPIさんのお仕事はご覧になられていたのですか。

静野 ええ。会社名を伝えられた時に調べたんですよ。そうしたら自分の海外関係の仕事と色々重なっていたりして、「そういえば見たことがある。素晴らしい映像を作っていたな」と思いだしました。もともと自分もアニメより先にCGのほうから入った人間なので、これは自分の知識と技術を活かすチャンスだと思い監督の依頼を受けたんです。ところが、いざPPIさんに席をおくと最新のCG技術としっかりした制作体制に自分の古い知識では対応できないことが分かったんです。であれば当初の目的は忘れ、監督本来の仕事であるシナリオや絵コンテの作業に集中しようと考え直しました。

―― 失礼ながら、今日は初めてPPIさんに伺ったのですけど(インタビューはPPI社内で行われた)、非常におしゃれな会社ですよね。アニメ会社のイメージと違って驚きました。

静野 そうですね。私も当初は凄くキレイでびっくりしました(笑)。質問とはまた違う話になってしまいますが、テレビシリーズのアニメは「納品がギリギリ」というイメージがあるじゃないですか。ところがPPIさんは制作がしっかりしていて、スケジュールが大幅に遅れるようなことが無いんです。だからアニメ業界では珍しく完成した映像でダビング作業ができる。戦闘シーンの細かなエフェクトやモニター映像の動きが全て分かるので、とことん拘った分厚い音付けをしてもらえるんです。でも、その分音響スタッフは作業量が増え大変だったと思いますが…(笑)。通常のテレビシリーズだとダビング作業までに画が上がっていないことが多くて、「画もないのにどうやって音を付けるんだ!」と音響さんに怒られることが多いんです。ところがPPIさんに関してはそれが無い!スタッフの技術力の高さとスピード感にはビックリさせられます。

―― 今おっしゃられたような、PPIさんならではの制作手法で驚かれたことなどありますか?

静野 絵コンテですね。内容が悪いコンテの場合、監督が全修(全修正)することが多いんですよ。それはアニメ業界では当たり前のことなんですが、PPIさんでは衝撃的だったようなんです。

―― 全修することがでしょうか?

静野 いや、描き終わって監督に出してしまったら、打ち合わせと違うものを描きあげたとしても、その人にギャラを払わなくちゃいけない。そういうアニメ界の慣習がどうしても納得できかったようなんです。僕は当たり前として描き直したのですが「監督がおかしいと判断すれば、受けた人間に戻してリテイクとして対処してもらうのが当たり前だ」と言われてですね。まあ、確かにそうだなと。

―― そうですね。

静野 スケジュールがある程度しっかりしていたので、10話くらいまではダメなところがあれば自分で描き直していたのですが、11、12話は絵コンテが内部スタッフだったんですね。上がってきたものに対して「どうでしたか?」と問われたので、「やっぱりある部分は描き直さないと」と話をしたら「描き直します」と言ってきたんです。監督が納得するまで徹底して直してくれるんですよ。これまでだとリテイクを出すと、絵コンテマンのやる気がなくなって、次にいつあがってくるか分からない…なんてことがざらにあるんですけどね。

―― 「よろしくお願いします」であとは放り出すというようなことですか。

静野 ええ(苦笑)。でも、制作現場のスタッフは皆、PPIさんの社員なので、ちゃんと仕事をこなしてスケジュールを守ってくれる。そういうシステムが、一番の衝撃でしたね。

―― それは素晴らしいですね。

静野 そんなしっかりした体制なので、コンテも多少のズレはあったものの、大幅な遅れもなくCGに入ることができました。今日(インタビュー日当日)は11、12話の編集をするのですが、コンテ撮やラフ原撮といった途中素材ではなく、きちんと動いている映像の中でできています。副監督をやってくださっている瀬下(寛之)さんが「我々は生産工場として確立したシステムを作り上げていきたい」という話をよくしてくれるのですが、今まさにそれができてきているのを実感していますね。今回は日本のテレビアニメ参入第一回目なので、アニメ業界で課題になっていたところをまず直していこうということがひとつの目的なんだと思います。そういうことを、(アニメ業界とは)違うジャンルのスタジオがいち早く始めているんですよ。

―― それは手描きの業界も見習っていかないと、置いていかれそうな気がしますね。

静野 喜んでいいのか、恐れたほうがいいのか……自分としてはちょうどその中間に入っているので、なかなか複雑な心境ですね(苦笑)。でも業界全体としては良くなっていくのではないかなと。これに感化されていろんな会社が「PPIさんは全部スケジュールを守って、このクオリティで作っている」というのを分かった時に、やはりどうやって作っているのかと学びたがると思うんですよ。

―― そのワークフローが完成したところで、そのやり方を学びたいということで何社かが追随するかもしれないですね。

静野 「ここまでやれるかな?」とスタッフにお願いすると「なかなか難しい」と言ってくるのですが、いざ創りだすとクリエイター魂が燃え始めてしまうみたいで「そこまで作っちゃったの?」という映像を作り上げてくれるんです。これはもう細かい指示は演出チーフの安藤(裕章)さんに任せたほうが素晴らしい物があがるなと思って、今は現場に任せっきりになっています。

スケジュール含めしっかりした態勢によって制作された本作。クリエイター魂によって、迫力ある映像表現が生まれている

―― 通常のアニメーションにおける監督という職業と、今回では何か違いがありましたか。

静野 通常の監督の場合、別の役職まで手を出さないと作品全体が良くならないことが多いんですよね。「監督ができるなら、なんでもやってほしい」と言いますか。例えば、デザインが自分の求めるものと違えば、こちらでラフを描くといったことがよくあります。でもこの会社に関しては、それぞれのセクションごとにプロフェッショナルがいる。モニター、モデリング、美術、モーション、ライティングなど、それぞれにプロフェッショナルが立っている。要望して100%同じものが上がってくるわけではないのですが、上がりで納得させる力があるんですね。ですので、監督としては他の職域に入り込むことなく、ちゃんと監督業のみをやれています。海外で仕事をする時もこれに近いんですよ。そういった部分では本当に制作工程が確立されているなと思いますね。他のアニメ業界の監督さんも、この会社の生産ラインがさらに増えて一緒に仕事をすることになったら、自分の求める作品作りができるのではないかと思います。

―― 未来の制作スタジオの姿がここにあるような気がしますね。それでは、このあたりでお話を作品に移させていただければと思います。この作品を見て驚いたことに、キャラクターの可愛いらしさがありました。本来2Dが得意とする分野だと思いますが、制作工程的にはどういうフローを踏んでいるんでしょうか。

静野 極力原作の世界観を壊したくないというところからデザインを始めました。キャラクターデザイナーの森山(佑樹)さんが、まず弐瓶(勉)先生と今風のアニメの中間みたいな画を描いてくれて。凄く可愛いものがあがったのですが、『シドニアの騎士』とはまた違う作品になってしまいそうだったんです。それで、こちらでデザインをしたものと、漫画原作と非常に近いデザインをCGモデリングし、モーフィングして徐々に立体モデルをうまく混ぜあわせていきました。どのぐらいのパーセンテージだと原作の世界観を損なわないかというところで、半分入れたのが現在使用されているものです。これなら原作を知っている人も、原作の画を踏襲していると納得していただき、今風でもあるという中間的な作りにできました。そうやってメインキャラができあがったら、それをもとに他のキャラクターを作っていきましょう、というかたちで他のキャラクターもできあがっていきましたね。

―― その作り方はちょっと驚きですね。原作風50%、今風の画50%にしてキャラクターができあがるなんて、こんな作り方は初めて見ました。

キャラクターデザインは原作風50%、今風50%になっている。左から順にA.「原作を元にした初期モデル」、B.「森山氏のデザイン(文中で今風と表現したもの)」、C.「AとBそれぞれ50%にした最終デザインベース」、D.「最終デザイン」、E.「最終デザインを元に作成されたモデル」

静野 そうですね(笑)。私も驚きました。キャラクターのデザイン画を立体化する時に、角度によってはそれ専用のモデルを何体か作るのかと思ったら、造形監督の片塰(満則)さんが「そういうことは制作工程的に無駄なので、どの角度からも100%よく見えるモデルを作る!」と言い、アオリや俯瞰、横斜め、全部の角度で見た時にちゃんと可愛いキャラクターを実際に作ってしまったんですよ。

―― そんなことができるんですね。

静野 PPIさんにはできるんです。ただ、実際にモデリングしたスタッフ達は、「もっと改良しなくてはならない部分がある!」と言っているようです。現段階でもアニメファンを納得させることが出来るレベルまできてると思うのですが(笑)。

―― そうなのですか。キャプチャー写真を見ても、もう一枚絵として可愛くできているように思えるのですが。

3話より星白閑。その微笑みと佇まいは、2Dアニメのキャラクター以上に魅力的に思える瞬間がある

静野 本当に凄いですね。過去に同じようなCGアニメを手掛けた時、キャラクターを真横から捕らえると髪の毛が邪魔をして目が見えなくなるような失敗がよくあったんです。そういった時は思い切り画を潰すか、カメラの位置をズラすなどして誤魔化していたのですが、はじめからそうならないモデリングにしてしまえばいいという考えは本当に凄いなと思います。

―― 作画だとキャラクター崩れは必ずあることなので、手描き側としてはちょっと叶わないという感じがするかもしれませんね。

静野 まあ、100%それができているかというと、やっぱりどうしても矛盾が出てきてしまうところはあるんです。そういったところに関しては微調整を加えているようですが、いずれにしてもこれだけのスピードで映像があがってくるんですから、相当完成されたモデリングだということは間違いありませんね。

―― すみません、今更での前提の話なのですが、この作品はフル3Dと言ってよいのでしょうか。

静野 この作品は2Dのいいところを活かしつつ3Dを中心に制作した作品というかたちで「デジタルアニメーション」と謳っていますね。何度も出てくる場所やアクションシーンでカメラを振りたいところはフル3D化しています。それ以外の一点ものだったり、より緻密に見せなくてはいけない凄く引いた画は、仮3Dモデル的な緻密ではないモデリングのセットを作り、そこでキャラクターを立たせて芝居させます。その仮でできているセットモデルを出力して美術さんに描いてもらい、最終的に合成するんです。だからパース感は100%あっています。

―― なるほど。3Dに見えるものの、2Dで描いているようなカットがいくつかあって、不思議に思っていました。

静野 手描きの背景を多用することでアニメ感をより強く出していく手法をとっています。プロダクションデザイナーの田中(直哉)さんの監修の元、美術会社のBambooさんが緻密な背景を描き上げてくれるので、劇場作品に近い映像表現を実現しているんです。

本作は美術のレベルも非常に高い作品になっている。劇場作品かと思える壮大な世界観に息を呑む

―― キャラクターの魅力でいうと、仕草や、芝居付けも重要だと思います。今作では髪の毛がキャラクターの動きに伴って揺れたりしているじゃないですか。ああいうものは通常作画では難しいとされていると思うのですが、3Dではやりやすいのでしょうか。

静野 はっきりと現場に確認をとったわけではないですが、もう物理計算エンジン上で、最初から計算され組み込まれていると思います。逆に揺らすなっていうほうが難しいんじゃないかなぁ。胸の揺れ、服の関係、髪の毛も、重力があるところと無重力のところでそれぞれ物理計算させているから、止めてくれと言わない限りは全部動いてきてしまうと思いますよ。

―― 少なくともそこに労力がかかっているようにはお感じならないわけですね。

静野 表現によっては手付けで揺らしている場面もあると思いますが、全て作画で揺らすよりは格段に楽でしょうね。でも、これはPPIさんが下準備をしっかりしてきたことと、今までの仕事で得たノウハウの蓄積があってこそだと思います。もともと3DCGは下準備の期間が凄く重要で、それを計算に入れたスケジュール管理は大手CG会社だからできたことでしょう。贅沢な話ですが、手描きアニメでよく見られる完全な止めの映像は、打ち合せの時に言っておかないと逆に動いてきてしまうでしょうね(笑)。

―― 止めの画面を作る時にわざと止めないといけないわけですね。芝居付けをするうえで、監督からこの子はこういう風に芝居をしてほしいというようなご要望は出されたんですか?

静野 はじめの方はその芝居の指示で凄く苦労しました。原作は、あえてキャラクターの表情芝居を少なくし、独特の世界観を作り上げているんです。そのテイストを活かして格好良さを追求していくべきか…それとも、もっとキャラクターに表情を持たせ、万人受けする分かりやすい作品にするべきなのか…絵コンテの修正期間ギリギリまで悩んだことを覚えています。そんなとき、PPIさんから星白のキャラクター表情集が上がってきたんです。喜怒哀楽がしっかり表現されていて非常に可愛い。それを見た瞬間、迷いは吹き飛びましたね。3DCGキャラクターも良いものだと認知してもらうためには、ある程度表情を出していったほうがいいだろうと思い直しました。「やはりCGのアニメは感情表現ができない!」と言われてしまってはPPIさんに申し訳ありませんから!(笑)。原作者の弐瓶先生も星白を見て喜んでくださったので、今は自信を持って作業しています。それでも普通のアニメよりは意識して感情表現を抑えていますが、CGスーパーバイザーの上本(雅之)さん、長崎(高士)さんを筆頭に、ギリギリのラインを上手く攻めてくれてますね!

―― 今原作のお話も出ましたが、お話の大筋は変わっていないとはいえ、原作からいくつか変更点があったかと思います。これは村井(さだゆき)さんとのやりとりでこうなったのでしょうか?

静野 そうですね。原作の難解な部分を村井さんは完全に理解していて、初見の方達にも分かりやすいように構成を組み直してもらいました。原作は読者に媚びない作風がカッコイイし、散りばめられたヒント(セリフや絵)から読み解く面白さがあるのですが、テレビアニメの場合、もう少し視聴者に媚びないと1、2話で切られてしまうことが多いんです。せっかく素晴らしい作品を預けてもらったのに、序盤で切られることだけは絶対に避けたい。その想いがいまの流れになっています。原作ファンの方には納得いかない部分もあると思いますが、シドニアのファンをもっと増やすために我慢していただけると…(笑)。村井さんの書きあげたシリーズ構成も凄く分かりやすく無理のない流れだったので非常に助かりました。あれだけの濃い内容を1クールに纏め、かつ毎回次回が観たくなるシナリオは、村井さんチーム(山田哲弥さん、村越繁さん)のおかげですね。

―― キャラクターの魅力も足されているのかなという気がして見ていたのですが。

静野 分かりづらいところはコンテ作業の時に芝居やセリフを足しています。キャラクターは本当にいいデザインであがってきたので、このキャラクター達の人気が出ないのはあまりにも残念だったので、オリジナル展開の部分はシナリオで村井さんに魅力的にアレンジしてもらっていますね。

―― 割と序盤から恋愛関係が分かりやすいかたちになってますよね。

静野 ええ。纈(緑川纈)という緑色の髪の子が原作ではもっと後で出てくるんですよ。1クールだと、ただでさえキャラクターの魅力を表現しきれないことが多いのに、真ん中から後半に掛けて出てきてしまうと、魅力を表現する前に終わってしまうんです。前倒しで登場させることにしたのは非常に良いアイディアだったと思います。より三角……四角関係(笑)というかたちで、恋愛模様も複雑になって面白くなっています。それで新しいシーンが増えたりしていますし、よりキャラクターを活かせるシーンとして成功しているんじゃないかなと思っています。

2話より登場の緑川纈。彼女の存在がさらに谷風長道を巡る恋愛模様を複雑にする

―― キャラクターのちょっとセクシーなサービスシーンも割とある作品ですよね。

静野 それはプロデューサー陣がいちばん力を入れていたと思いますよ(笑)。逆に自分の方では編集で画角を寄ることによって、あまりセクシーな感じにしないようにしています。でも、Blu-rayバージョンでは元に戻しましょうって意見も出まして……。楽しみにしていて下さい。

―― 特典としてBlu-rayではアングル変更バージョンが収録されるんですよね?

静野 テレビでは見えるとマズイようなアングルになっていると聞いています(笑)。ただ、自分はセクシー要素を劇薬だと思っているんです。視聴者は簡単に食いついて来ますが、それをやってしまうと一瞬のインパクトだけ強くなり、作品の品質が変わってしまう恐れがある。露骨になればなる程、ヒットしている期間が徐々に縮められていく。数年しかもたない作品が多いんですよ。原作はそういった要素に頼る必要の無い素晴らしい作品なので、セクシー要素の強い絵は、あえておさえて表現しています。

―― 確かに、この作品のセクシーシーンはユーモアの一環という気がします。

静野 ちなみに特典の新アングル版は、別にそこだけに特化しているわけではなく、格納庫のカッコイイシーンといった部分もあると聞いていますので、そちらもご期待ください(笑)。

2話、光合成室にて。このあと主人公・谷風長道が仄 焔によって鼻を折られるというユーモラスなシーンに繋がる

―― 一方でもうひとつの魅力としてメカ描写があると思います。これは3Dの得意とするところだと思うんですが、2Dのメカ描写と3Dのメカ描写で違いを感じるところはありましたか?

静野 3Dのメカ描写に関しては、カメラを激しく動かすだろうという想定のもと、スタッフがちゃんと美術まで3Dのセットにしてくれました。カメラの位置を限定しないで、細部まで動かしてもOKというのは、とにかく衝撃的でしたね。だからキャラクターをナメて(手前に映して)、奥で格納庫が動いているのを見せるといった描写ですとか。テレビアニメなのに、細かい発進シークエンスを無駄と思えるようなカットを積んでじっくり見せられるというのは嬉しかったですね。シナリオでは、数行で発進して奇居子(ガウナ)と遭遇し「戦うところ」までで1話だったんです。でも、ここまでワクワクさせてくれるような表現ができるシチュエーションがあるのに、発進シークエンスを短くしちゃ絶対ダメだろうと思って、これを長めに1話に入れることにしました。結果、奇居子出現までを1話にして戦闘を2話にまわすことにしたんです。

―― あの発進シークエンスはオープニングにも使われていますね。

静野 そうですね。通常のアニメでなら発進のカットを積むよりは、敵と戦う方でカットを割いたほうがいいんですよ。ここまでパイロットになりきってワクワクさせるようなシーンを作れたのは、瀬下さんとバトルアニマティクスの大串(映二)さんのおかげですね。

3Dだからこそできる激しいメカアクション。その縦横無尽のカメラワークに注目だ

―― カメラワークが自由自在というのは、絵コンテマンからすれば夢のような話に思えるのではないですか。設計として難しくて尻込みしそうなカットでも現場がやりきれちゃうということですよね。

静野 ちゃんとステージングできていればやれてしまうということですね。あまり複雑なアステロイド空間や、巨大な空母の中といったことだとモデリングしないといけないから大変なのですが、宇宙空間で一対一といったシチュエーションなら自由自在ですね。

―― 制限の中でどう作っていくかというのが、通常のアニメの作り方だと思うのですが、逆になっていますね。

静野 コンテでは数カットで分けていたところを、1カットでできてしまったりするんですよ。宇宙空間で1キャラクターに凄いスピードでフォロー(カメラが被写体を追って)して付けるじゃないですか。戦った後、敵がやられて敵にカメラが行く。そのあと違うキャラクターが下を通り過ぎたら、今度はそのキャラクターに付けてフォローするとか……とんでもないカットができるんです。これは手描きアニメではなかなか表現できないなと(笑)。

―― カット割りの考え方も変わってきますね。

静野 そうですね。細かいところでは傷の表現なんかにも驚かされます。作画だと傷が大量にあると追っていけない(常にその傷を各カットの原動画で描かないといけない)じゃないですか。立体だと一回傷を付けるとそのまま表現できてしまうんです。シドニアは宇宙空間を限られた資源で航行しないといけないので、いろんなものを使い回している設定なんですね。それを考えると傷だらけというのも凄く理に叶っているので、表現として意味のあるものとして成り立っていると思います。

谷風長道が乗る継衛。肩部分を初め各所に傷が見える。これらディテールが作品の世界観を形作っている

―― 一回貼ってしまうともうあとは付けっ放しで動かせばいいということですね。

静野 これは作画では絶対できないことですね。

―― お話を伺っていますと、本当に新しいことにチャレンジしているなと思わされます。

静野 そうですね。私もこれはアニメ業界の革命だと思っていますよ。自分のこだわり以上のものを各セクションのスタッフが見せてくれるので、私自身上がりが楽しみなんです。視聴者の方もこの次代への変化をぜひ見逃さないでもらいたいですね。

―― しかも技術は現在進行形で進歩しているわけですよね。

静野 ええ。常に技術を開発しているんです。今は手描きアニメらしく見せるために、2コマや3コマに落とすといったことをしているのですが、副監督の瀬下さんはそれ以外の手法も考え出してしまっています。フル(アニメーション)でも手描きに見えるという手法などですね。

―― え? でも日本の手描きアニメの歴史から言っても、2コマ3コマだからこそ日本のアニメらしさが出ているというのがよく言われていることですよね。

静野 これが理屈を聞くと確かにそうかもしれないと思えるんですよ。他にもオートのリップシンクとか。声優さんの音声を取ったらそれを全部自動化してキャラクターの口の動きに併せるんですよ。

―― ええっ!?

静野 (笑)。聞くだけでワクワクするでしょう? そういうことができはじめてしまっているんです。PPIさんにいると、アニメ業界のこれまでの手法にとらわれない面白い技術や発想がまだまだある。これから取り入れられる最新の技術を実際に見てこれは面白そうだと思ったら、また一緒に仕事をさせて欲しいとエグゼクティブプロデューサーの守屋(秀樹)さんに頼み込むつもりなんですよ(笑)。

●放送・配信情報
MBS、TBS、CBC、BS-TBS、AT-Xで放送中
バンダイチャンネル、GyaO、ニコニコ動画、楽天SHOWTIME、ビデオマーケット、ドコモアニメストアで配信中

●公式サイト
http://www.knightsofsidonia.com

●ソフト情報
Blu-ray&DVD第1巻、5月28日発売、第2巻6月25日発売
オープニング主題歌「シドニア」(angela)
エンディング主題歌「掌-show-」(喜多村英梨)
両CDとも発売中

© TSUTOMU NIHEI・KODANSHA/KOS PRODUCTION COMMITTEE

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