この部活について
何故、Webサイトはパフォーマンスが求められるのか?
どれだけ素晴らしいデザインであっても、どれだけ便利なサービスを提供していても、そのWebサイト自体がキビキビと高速に動作しないのであれば、ユーザはストレスを感じて、アクセスしなくなるでしょう。
Webサイトとは、鑑賞するためのものではなく、何かしらの「体験」を提供する工業品としてのソフトウェアであり、Webデザインは美術的な美ではなく、機能的な美が求められます。その意味において、Webデザインとは、工業デザインであり、その中でも「速度」という要素は重要な設計要素の一つです。
人の脳の本質として、常に処理すべき刺激を求めるが故に、思考を停止させることは苦痛であり、人は「待たされること」を嫌います。ですから、Webサイトに限らず、人は遅いものが嫌いです。
待つことが苦痛であるが故に、待つことで価値が上がっていくものもあります。例えば、ワインです。
しかし、Webサイトに、そのような価値を求める人は、殆ど居ないでしょう。
コンピュータ・システムのパフォーマンスの重要性については、今を遡ること40年以上も前の、1968年の時点で、ロバート・B・ミラー氏が秋季ジョイント・コンピュータ会議で発表しています。
- システムが即座に反応していると感じるのは、0.1秒。
- ユーザの思考の流れが途切れないと感じるのは、1秒。
- 何のフィードバックもなしにユーザが待てる限界は、10秒。
昨今は、Webサイトの設計において、UX(User Experience)を重視するようになってきています。
ここで、アメリカのカール・W・ビューナーの箴言をご紹介しましょう。
They may forget what you said — but they will never forget how you made them feel.
(人はあなたの言ったことは忘れる、しかしどんな気持ちにさせたのかは決して忘れない。)
UXの観点からも、パフォーマンスは重要であり、ユーザは遅いサイトにはそれほど我慢強くなく、遅いという体験を忘れない事を留意することが、ビジネス上重要です。
「改善手法ありき」ではなく、定常計測データの分析に基づく改善の重要性
日本においては、Webパフォーマンスの定常計測が根付いていません。
多くのWeb技術者は、日本のインターネット環境やモバイル環境が世界でも随一であることから、速度について気に留めることがありませんでした。
しかし、欧米では、日本のような高速なインターネット環境はあまり浸透しておらず、そのために、Web技術者はパフォーマンスに留意する必要があり、計測が必須となりました。
その結果、欧米のWebサイトは、日本のWebサイトより高速で表示されるものばかりです。欧米の著名なWebサイトのトップページのダウンロード時間が平均して1秒を切るのに対して、日本のそれは平均で3~6秒もかかっているのです。
また、その一方で、Webサイトのパフォーマンスや可用性(繋がりやすさ)は、Webサイトの配信の品質管理の側面も持ちます。
日本の製造業においては、品質管理が広く普及・発展し、世界に名立たる品質の高さを保持しています。
しかし、同じ日本でも業界が違うソフトウェア開発、特にWeb制作については品質管理の概念が欠けています。
従来の「設計」に対する品質管理はソフトウェア業界にもありましたが、「配信」という、インターネット経由でWebページの「部品」を送り込んでユーザのブラウザ上で「製造」するという事は、1998年からADSLによって始まったブロードバンドの普及以前にはなかった仕組みです。
諸外国に比べて、統計学の教育が普及していない事も、Web技術者の間に、正しい品質管理の概念が普及しない要因でした。
そのような状況の中、スティーブ・サウダーズ氏の「ハイパフォーマンスWebサイト」「続・ハイパフォーマンスWebサイト」(オライリー・ジャパン刊)が日本のWeb技術者の間で読まれるようになり、いつしか、計測データを分析してボトルネックを判別して改善するのではなく、改善手法のベストプラクティスありきの改善が主流となってしまいました。
しかし、品質管理とは、実際の「完成品」を定常的にチェックすることで、「規格に満たさない」製品を世の中に出さないことです。定常的な計測を行わず、またそのデータを持たずに、サイトのパフォーマンスや可用性(繋がりやすさ)の改善を行うことは、品質管理ではありません。
今こそ、日本のIT業界、Web業界も、世界のIT企業やWebサイトと競争していく上で、製造業に学び、品質管理を導入すべき刻を迎えていると考えます。
この部活が果たすべき役割
上記のような日本の事情を鑑み、このコミュニティでは、以下の役割を果たすべく、創設されました。
- パフォーマンス計測の重要性をWeb技術者の間で広く認知してもらう。
- 統計学や品質管理で基本となっているR・A・フィッシャーの「実験計画法」に基づく、パフォーマンス計測手法を普及させる。
- パフォーマンス管理・改善は、部分最適化ではなく、システムの全体最適化である。パフォーマンス管理・改善が行える、ネットワークレイヤーからアプリケーションレイヤーまで技術的に包括的理解し、且つ、UXを考慮した取捨選択ができる、ビジネスドメインにも詳しい技術者を目指す人達の情報交換の場を担う。
- 統計分析手法を使って、データに基づくパフォーマンス改善ができるWeb技術者を目指す人達の交流の場を提供する。
日本では、今、どの企業も当たり前に行っているWebのアクセスログ解析ですが、それが普及するまでには、Google Analyticsの元となったUrchinが日本に上陸してから10年かかったと言われています。
インターネット、ソフトウェア、ライフサイエンスの3つの業種が主体となって世界経済を牽引しているイノベーション産業が、データドリブンで発展していく中で、10年も後塵を拝していては、日本の国際競争力は回復しないでしょう。今こそ、世界の統計教育重視の流れと共に、データ主導のシステム開発・改善の流れを日本のインターネット、ソフトウェアにも、一緒に定着させて行きましょう!
html5j パフォーマンス部 部長 竹洞 陽一郎