人も、モノも、カネも、文化も自由に行き交う。グローバル化は止めようのない世界の潮流であり、国境という垣根はますます意味を持たなくなる。

 その現実にどう向き合うか。国を開くことが生む国民の不安をどうときほぐすか。それは、いまのどの国の政治にも通じる避けようのない難題である。

 欧州議会の選挙で、「反統合」「反ユーロ」を訴える政党が躍進した。全751議席のうち3割近い議席を得た。

 欧州は、国境をなくす最先端の実験に取り組んでいる。だが今回の選挙結果は、欧州社会にいまも根強くのこる抵抗感を映し出している。

 統合をめざす道のりに終わりはないかもしれない。どんな壁にぶつかろうとも、自由と平等の価値をもって垣根をなくす努力を滞らせてはならない。

 欧州議会は、EUと呼ばれる欧州連合の立法機関である。加盟28カ国の有権者が直接選ぶ。

 今回の選挙でただちに統合が頓挫するわけではない。だが、気になるのは、反EU派の多くが移民の排斥を掲げ、国粋的な主張を強めていることだ。欧州各国の主要政党にも、その勢いに便乗し、主張を取り込もうとする動きがでている。

 長引く不況と失業、福祉カット。緊縮財政を各国に課すEUへの風当たりは強い。移民に対しては、雇用を奪い、福祉を食い物にしている、との批判がぶつけられている。

 国民感情が経済に影響されるのは世の常だ。むしろ事態を悪化させているのは、真の問題のありかを率直に説かず、ナショナリズムに訴える政治手法だ。

 景気、金融、環境、移民、どの問題も一国で対応できる構造ではない。だが、政治家たちは「EUが国の権限を奪ったからだ」と弁明してきた。

 再び国境の垣根を高くすれば問題は解決するかのような幻想をふりまいた責任は重い。

 EUは改めて、なぜ国の間の壁をなくすことが利益をもたらすかを説き、自らの改革にも取り組まねばならない。市民の多様な意見に目配りして納得を得る仕組みを整える必要がある。

 暮らしを左右する政策が、自分とは縁遠い政党や官僚らに決められている。そんな思いが政治への怒りやあきらめとなって投票率を下げたり、過激な主張になびいて留飲を下げたりする現象は世界各地にある。

 日本もひとごとではない。世界の現実と地続きにある日本の数々の問題を冷静に説き、そして国を開く賢い処方を多角的に論じる。そんな政治が欲しい。