Financial Times

平和憲法の論議が対米従属への日本人の怒りを刺激

2014.05.28(水)  Financial Times

(2014年5月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

北朝鮮のミサイルが米国西海岸に向かっており、これを撃ち落とせる場所にある艦船は日本の海上自衛隊の船だけだ。それでも、この船は行動を起こすことができない。なぜなら、日本の防衛的な安全保障政策では、武力を行使できるのは自国の領土を守る場合に限られているからだ。

 あるいは次のようなケースはどうか。朝鮮半島で戦争が始まり、在留邦人が米国の船に乗って避難した。この米国艦船が途中で攻撃を受けたが、日本はこれらの船の救助に向かって自国民を救出することができない――。

具体例を示して憲法解釈変更を訴える安倍首相

 日本の安倍晋三首相は先日、上記のように非常に具体的な仮想のシナリオに言及しながら、過去60年間ほぼ変更されずに維持されてきた同国の軍事に対する考え方を大幅に転換すべきだとの見方を示した。

 日本の平和憲法について狡猾な再解釈が必要になるこの転換は、いわゆる集団的自衛権――日本に直接的な脅威が及んでいなくとも同盟国のために戦う権利――の行使に備えることを意図したものだ。安倍氏は今月半ばにこの考え方を有権者に示しており、この週末にはシンガポールで開催されるアジア安全保障会議「シャングリラ・ダイアローグ」の基調講演で、アジア太平洋諸国の防衛政策当局者にも披露する計画だ。

 第2次世界大戦後、日本の指導者たちは、武力紛争を永久に放棄せよという米国の要求を受け入れた。多くの歴史家は、これを受け入れなければ天皇は戦争犯罪人として処刑されることになったと考えている。その結果、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とうたう憲法が作られた。この文言ゆえに、60年の歴史を持つ自衛隊でさえも法的に問題があるとの声も一部にはある。

 この憲法による制約と、日本の完全とは言い切れない平和主義――日本は米国と軍事同盟を結んでいたり、米国によるイラクやアフガニスタンの占領で補佐的な役割を担ったりしている――との間には、ずっとぎこちなさが漂っていた。

反対派が想定するシナリオ

 安倍氏の上記のシナリオは、こうした制約を最もこっけいな形で示すことを目指して作られている。また同じ会見では、平和維持活動(PKO)に参加している自衛隊の部隊は、他国のPKO要員が敵対する武装集団に殺されても傍観せざるを得ないとのシナリオも提示された。自衛隊は自分たちが襲撃された時にしか戦うことが許されていないから、というのがその理由だ。

 このような不測の事態にどう対処するかというルールは明確にすべきだろう。また専門家の中には、集団的自衛権の問題にまで踏み込まなくてもそうしたルールを作ることは可能だとの声もある。しかし日本では、安倍氏の計画に対する懸念は、単なる法律上の議論を超えたところにある。首相に反対する人々は、首相のそれとはかなり異なるシナリオを想定しているのだ。

 これらのシナリオは、イラク戦争のような紛争が始まり…
Premium Information
楽天SocialNewsに投稿!
このエントリーをはてなブックマークに追加

バックナンバー

Comment

アクセスランキング
プライバシーマーク

当社は、2010年1月に日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)より、個人情報について適切な取り扱いがおこなわれている企業に与えられる「プライバシーマーク」を取得いたしました。

Back To Top