これまでの放送

2014年5月27日(火) NEW

ヨーロッパで極右勢力 台頭

鈴木
「ヨーロッパで極右勢力が台頭。
EUが難しい局面に直面しています。」

ヨーロッパで台頭する極右

スウェーデンの教会で社会に警鐘を鳴らす鐘が、第2次世界大戦以来、初めて鳴らされました。

移民排斥や反EUを掲げる極右勢力のデモ。
極右政党の支持者が、デモを見ていた人に殴りかかる事件も起きました。
EUの重要政策を決めるヨーロッパ議会の選挙では…。
極右や反EUの政党が大幅に躍進しました。
2度の世界大戦。
その反省から平和と民主主義を理念に掲げ、統合を進めてきたEU。

「EUの旗を引きずり降ろして、主権を取り戻す。」

今、逆風が吹いています。

阿部
「EU=ヨーロッパ連合が揺れているようです。」

鈴木
「28の加盟国から成るEU。
今回のヨーロッパ議会選挙で、移民排斥を掲げる極右政党や反EUの政党が躍進しました。
イギリス、フランス、オーストリア、スウェーデンなどで議席を増やしています。」

阿部
「穏健派の会派が、議会の過半数を占める構図は変わらない見通しですが、今後のEUの政策にも影響を及ぼすと見られます。」

鈴木
「そして、極右政党が躍進したフランス国内では、すでに変化が起き始めています。」

極右政党躍進で変わるフランス

大躍進に満面の笑みを浮かべるこの女性。
フランスの極右政党「国民戦線」のルペン党首です。
「反EU」を一貫して訴えてきました。

国民戦線 マリーヌ・ルペン党首
「フランス国民は声高に意思を示した。
EUによって支配されることも、EUの法に服従することも国民は望んでいない。」

国民戦線は、フランス国内最多の票を獲得して、これまでの3議席から一気に24議席にまで伸ばす見通しです。

支持者
「フランスは今のEUに反対だ。
主権を取り戻すんだ。」

支持者
「EUはもうおしまいだよ。
今や何の価値もない。」

なぜ、「反EU」を掲げる国民戦線が支持を集めているのか。
国民戦線が支持を伸ばしている街の1つ、南部のフレジュスです。
北アフリカなどイスラム圏からの移民が多い街です。
選挙期間中、国民戦線の地方幹部は住民の声を聞いて回りました。

地方幹部
「お元気ですか、客は来ている?」

店の男性
「少ししか来なくてさみしいよ。」

街で20年前からレストランを経営する、パトリック・ロワドローさんです。

地方幹部
「投票に来てくれますよね。」

パトリック・ロワドローさん
「はい、もちろんです。」

EUが移動の自由を認めたため、フランス国内で移民が増え続けていると考えています。
ロワドローさんは、これまで主要な政党の1つに投票してきましたが、今回は極右の国民戦線に投票しました。

パトリック・ロワドローさん
「移民は国にもらった金で、乗り物を買っている。
これまで2大政党に投票してきたが、ちっとも良くならない。
もうルペン党首しかいないと思う。」


3月の地方選挙で、大きく躍進した国民戦線。
国民戦線の市長が誕生した街では、すでに変化が起きていました。

移民の支援などを行っている、人権団体のメンバーです。
国民戦線の市長が就任した翌日、事務所として使っていたこの建物から突然閉め出されました。
10年間、市から無料で借り受けてきた建物です。


シャンタル・ルノンクールさん
「ある日、事務所が勝手に開けられていた。
何もとられてなかったが、こんなやり方ありえない。」



団体は、過去にさかのぼって、およそ500万円に上る賃料を請求されました。
ヨーロッパ議会選挙の投票を前に、「極右政党が躍進すると、社会が危険にさらされる」と訴えました。

男性
「興味ないね。」

しかし、なかなか相手にされません。
さらに。

シャンタル・ルノンクールさん
「人権保護の活動をしています。」

男性
「人権とは誰の人権だ、言ってみろ。」

シャンタル・ルノンクールさん
「例えば移民とか。」

男性
「それがどうした。
向こうが勝手に来たんだろう。」

男性
「もう誰に投票するか決めている。
マリーヌ・ルペン党首に入れる。」

フランス国旗が掲げられた市庁舎。
かつてあったEUの旗はありません。

フランスで極右政党躍進

鈴木
「ここからは、ヨーロッパの取材を続けてきた国際部の山澤デスクに聞きます。
フランスでこれだけ極右政党が躍進するというのは驚きですね?」

山澤デスク
「そうなんですね。
フランスと言えば、ドイツとともにヨーロッパの主要国として、EU統合をリードしてきた歴史があります。
また、人権を重んじることを国の理念に掲げてきただけに、今回、『反移民』『反EU』を掲げる政党が第1党になったことは、国内でも脅威と受け止めている人が少なくないんですね。
こうした極右政党などの動きは、フランスに留まっていないんです。
こちらをご覧ください。

こちらの図、スウェーデンの民間団体が作った各国の極右政党や反EUの政党の支持率を表した図なんです。
赤の色が濃いほど支持率が高いことを示していまして、フランスやデンマークなど、ご覧のように赤くなっています。


特に赤くなっているのがイギリスなんですけれども、今回、EUからの離脱を訴える政党が第一党に躍進しました。
イギリスは、どちらかと言えばもともとはEUに懐疑的でして、共通の通貨であるユーロの導入を認めないなど、EUと一定の距離を置いてきたんです。
とは言いましても、これまでは2大政党が長く政権を担ってきたという歴史がありますから、今回、EUに懐疑的な政党が躍進したことに衝撃が広がっています。」

阿部
「EUからの離脱を掲げる政党まで躍進し、危機感も広がっています。」

欧州で極右台頭 広がる危機感

イギリス独立党。
初めて国内最多の票を集め、第1党になると見られます。

イギリス独立党 ファラージ党首
「EU加盟国であるかぎり、自国を統治できず、国境を管理できない。」

EUに加盟していることで、多額の負担を強いられているという有権者の票を取り込みました。

支持者
「古い政党は国民に奉仕していない。
だから新しい変化が必要だ。」

極右政党の台頭に危機感を強めている団体があります。
スウェーデンで20年にわたって、極右勢力の動きを監視している民間の団体です。
ヨーロッパでは、さらに極右や反EU勢力が躍進する危険性があると指摘します。

EXPO ダニエル・プールさん
「これだけたくさんの国で極右勢力が政治に影響力をもっている。」

今、特に懸念しているのが極右政党のロシアへの接近だと言います。


4月にはフランスの極右政党、国民戦線のルペン党首がロシアを訪れ、ウクライナ問題でのEUの対応を批判しました。
団体では、このことは、EUに深刻な影響を及ぼすと見ています。



EXPO ダニエル・プールさん
「EU内の極右政党が歩み寄ってくるのは、ロシアにとって大歓迎だ。
ロシアはヨーロッパを内側から弱体化させることができる。
ヨーロッパは大きな危機に直面している。」


スウェーデンの教会にある警鐘の鐘です。

フレデリック・ホレルツ牧師
「これが鐘です。」

極右の台頭を憂い、今月(5月)、2時間にわたって鳴らされました。

フレデリック・ホレルツ牧師
「悲しいことだ。
しかし傍観することは許されない。
開かれた社会への脅威を告げるため、鐘を鳴らすことにした。」

極右・反EU勢力 “ロシアと接近”

阿部
「極右政党などがロシアとの距離を縮めていることも、EU各国にとっては脅威になっているわけですね?」

山澤デスク
「もともとロシアというのは、ヨーロッパ諸国、とりわけ西欧諸国にとっては脅威であり続けてきたんですね。
ヨーロッパの統合は、絶えず繰り返された戦争の歴史に終止符を打ち、各国の垣根を取り払って共通の経済圏を持つことだけでなく、このロシアに対抗できるヨーロッパをつくることも狙いだったと言えるんです。
一方、拡大していくEUに対して、強い警戒感を抱いてきたのが、そのロシアです。
旧ソビエト諸国や衛星国だった東欧諸国などが次々にEUに組み込まれ、自らの影響力が弱まる中で、ロシアとしてはヨーロッパ拡大に歯止めをかけたかったというのは言うまでもありません。
親ロシア派の住民によって独立の動きが高まるウクライナの問題にロシアが関与を強める理由も、EUの影響力を阻止したいという思惑があるためなんです。
このため、今回の選挙ではEUに懐疑的な勢力がロシアに近づこうとしていることについては、ロシアにとってはむしろ願ってもないチャンスだとも言えるわけです。」

極右・反EU躍進 どうなるEU

鈴木
「今回の選挙結果によって、EU統合の動きに実際に影響というのは出てくるんでしょうか?」

山澤デスク
「EU懐疑派が躍進したとは言え、EU統合を目指す2大会派が過半数を占めるという構図は変わらないので、そういう意味では、すぐにEUの政策に大きく影響するとは言えないんです。
ただ注視すべき点は、各国で、こうした反移民、反EUを支持する市民が増えつつあるという現状です。
国レベルでの政策運営に極右などの勢力が影響力を行使していく可能性があるわけです。
国家の多様性を尊重しながら、この半世紀余りでほかに例がない政治や経済の統合体へと発展を遂げてきたEUですけれども、今後も統合強化に向けて、求心力を保っていけるのかどうか、今、重大な局面を迎えていると言えそうです。」