ワークライフバランス(仕事と生活の調和)が叫ばれているものの、サービス残業という言葉は「一般用語」として定着した感があり、長時間労働は依然、社会問題の1つだ。そこへ一石を投じているのが機械工具商社のスギモト(兵庫県尼崎市)だ。午後6時半以降の会社居残りを禁止。残業も可能だが、年間で6時半退社の達成率はほぼ100%に近い。かつては常態化していたという長時間残業を一掃。労働時間を減らす一方、従業員の満足度向上で好業績を維持している。
「さぁ、そろそろ帰るぞ」。午後6時15分、スギモトの本社。管理職がイスを立ちながら呼びかける。徐々に帰宅準備にとりかかかる人、追い込み作業に入る人…。6時半を過ぎると、オフィスからぱったりと人影が消えた。スギモトの日常的な風景だ。
無論、やむを得ない場合の残業は認められているが、6時半以降の残業実績は年間通算でわずか数日にとどまる。かけ声で終わらず、達成されている。
「自分自身、午後10時、11時までのサービス残業は当たり前だった」と杉本直広社長(55)。家業の同社に入社後20年間、営業の第一線で働き、深夜まで働くモーレツ社員として過ごした。営業職を中心に、長時間の残業が当たり前だったのだ。
転機は平成18年。急病で退任した兄の後を継ぎ、急きょ社長に登板した。「決算書も読めないほどだった」という新米社長が直面したのは、販路拡大、コスト削減など山積みの課題だった。
今も昔も、目標や成績などを数字を駆使して管理するのが経営の主流。ところが最初に手をつけたのは、残業時間削減という改革だ。
長時間労働に疲弊する社員が多く、離職の原因の一つにもなっていた。規模の大小を問わず「人」が最大の財産とされる商社で顧客の満足度をあげるには、従業員の満足度をあげなければならない。杉本社長はこう考えたのだ。
「社員が疲弊したら会社は続かない」
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