ポスドクと保育園

常勤と非常勤.「ポスドク」という職業も,大きくこの2種類に分けられます.

 

勤務時間や日数の違い(常勤は大抵1日あたり8時間以上,1月あたり20日以上)で分けられますが,それら数字は少なくともポスドクにとってあまり意味はありません.というのも,常勤・非常勤に関わらず,ほぼ全てのポスドクがこれ以上働いているからです.

 

そのため,多くのポスドクは契約上の勤務形態(少なくとも勤務時間や日数)を恐らくあまり気にしていないと思います(給与額は別ですが・・・).

 

ぼくも今年度は非常勤ポスドクとして1年間現職場で雇っていただきました.仕事上「非常勤」の身分で困ることは一切なく,職場環境・仲間にも恵まれ,楽しんで働くことができました.

 

ただし,仕事以外でこの身分で困っていることがあります.

 

それは,「保育園の選考」です.

 

ニュースでも話題になっているように,近年,都市部での保育園不足は深刻です.

東京新聞認可保育所不足さらに悪化 2万1000人 入れず

 

我が家は来年度からもろもろの事情で,都内でも激戦区の一つと言われるところに引っ越すことになり,その想像以上の厳しさに現在直面しています.

 

認可保育園の場合,親の就労状況などを点数化し,その点数に基づいて選考されます.「常勤」が一番点数が高く,勤務時間や日数が短くなるにつれて点数は低くなります.求職中の場合は,たとえ常勤職の内定があっても,点数は低く,選考はいっそう厳しくなります.

 

ここで,先ほどポスドクは常勤と非常勤の2種類と書きましたが,例外があります.それは「日本学術振興会特別研究員学振研究員)」です.これは,日本学術振興会学振)から研究奨励金(月額20万円~45万円程度)と研究費(年間300万円以内)が支給される研究員制度です.

 

ただし,学振研究員は学振との雇用関係がないため,勤務の実態を証明することはできません.つまり,常勤にも非常勤にも該当せず,近いのは自営業といったところでしょうか.学振から唯一発行してもらえる証明書も「採用証明書」です.

 

ぼくは昨年度まで学振研究員だったのですが,このとき,ちょうど息子の1歳児クラスの入園選考に当たりました.その際,この身分に苦慮しました.入園選考で最も重要な親の就労状況を証明するためには,役所指定の勤務証明書が必要です.しかし,学振は「学振指定の採用証明書以外を発行できない」,役所は「役所指定の勤務証明書以外を受け付けない」と,どちらに問い合わせても解決せず,板挟み状態でした.

 

結局,学振の採用証明書を持って,役所の保育課の方に直接説明し(でも理解してもらえなかったような・・・),申請しました.結果,認可保育園はダメでした.恐らく,ぼくの就労状況が「常勤」と認められなかったことが原因だったと思います(夫婦の一方でも非常勤だと厳しい).

 

ただ,現居住地の近くに新設された定期利用保育施設に3ヶ月,その後の二次選考で(認可はやはりダメでしたが),幸いにも区認定の保育ルームに入れていただくことができました.これら施設のお陰で,ぼくも妻も仕事を続けられました.

 

そして,今年もまた保育園選考の時期がやってきました.今回は,現居住地の役所経由で,引っ越し先の認可保育園(2歳児クラス)に申請しました.ぼくの現在の就労状況(非常勤)が大きな減点になってしまうことは想定していたので,申請前に役所に問い合わせたところ,「来年度から常勤に内定している場合,現在の仕事との継続性が認められれば,常勤の点数になる」との希望あるコメント!

 

来年度からの仕事は,また学振にお世話になります.今度は「海外学振」という制度で,最長2年間海外で研究に従事することができます.業務はこれまでの研究を発展させていく内容であるため,早速「業務内容の継続性を示す書類」(書式任意)を作成しました.

 

次は,海外学振を常勤相当と証明する必要があります.ここでまた学振役所の板挟みになった昨年度の記憶がよみがえってきました.今回もまず学振に問い合わせしました.すると,担当の方の対応が前回と異なり(海外だから?),役所指定の勤務証明書に記入していただけることになりました.ただし,勤務時間や日数への斜線,勤務証明書への二重線(採用証明書への修正)が条件でした.

 

この学振の軟化?現象は,きっと同じように困っている研究員からのリクエストが多かったからかも知れません.実際ぼく自身,昨年度の学振への報告書の要望欄に,この役所指定の勤務証明書の件について書きました.

 

そして昨年末,「現職場の勤務証明書」「次の職場の勤務証明書(学振修正済)」「業務内容の継続性を示す書類」を揃えて,申請しました.

 

しかし,申請後すぐに「学振修正済の証明書は勤務証明書として認められない」との連絡がありました.また保育課の方に学振制度についてアレコレと説明することに・・・.結果,「やはり雇用関係は認められないので,自営業として申請してください」との回答.自営業でも勤務時間が >8時間/日であれば常勤と同じ点数になるため,コレはコレでいいかと(・・・でも,自営業ではないよなぁ).結局,学振に作成(&修正)していただいた勤務証明書を取り下げ,役所指定の「就労状況申告書(自営業用)」を提出しました.

 

そして先月,結果が届きました.

 

タイトルは「入所不承諾通知書」(公募の不採用通知書よりもなんかキツイ・・・).

 

役所に問い合わせしたところ,点数を開示してくれました.そこで判明したのが,ぼくの就労状況で,結局現在の「非常勤」が適用されていました.詳しく聞くと,たとえ来年度からの海外学振が「常勤」あるいは「自営業(>8時間/日)」と認められても,今年度が「非常勤」であるため,業務内容の継続性が認められず(なんでやねん!),「今年度非常勤」と「来年度常勤(or 自営業)内定」で,点数の高い前者に決定されたとのこと.

 

アドバイスと違うやん!と心の中でツッコミつつも,決定は覆りそうもなく,また,希望した保育園は,たとえ夫婦とも常勤と認められた点数だったとしても,さらに(点数調整で)高得点の希望者で既に埋まっていて入れないとの事実を聞き,諦めて電話を切りました.

 

点数調整・・・他の区ではよく認められている「海外単身赴任の加点」は,残念ながらこの激戦区では認められず,二次選考もかなり厳しそうです.

 

前回と今回で学びましたが,(夫婦の一方でも)ポスドクで子どもを保育園に預けるためには,いくつもの課題(常勤,業務内容の継続性,内定のタイミングなど)をクリアしないといけません(本記事の末尾に一覧をまとめてみました).

 

もちろん,夫婦の一方が仕事を中断あるいは辞めて育児に専念したり,激戦区以外に引っ越したりすることで解決するかも知れませんが,様々な事情によりそれらができない場合もあります.ただ,少しでもこの現状が改善されないことには,保育園問題で研究を諦めるポスドクが今後増えていくような気がしてなりません.

 

個人的には,自治体の財源が足りなければ,認可保育園の料金を上げてでもいいので,その財源で認可保育園の新設&保育士の方々の待遇改善をして,園児の定員数を増やしていく方向に進んでいって欲しいくらいです(現状では認可と無認可の保育料や設備等の差が大きい場合が多い).

 

いずれにせよ,なかなか厳しいですが,早くポスドクを卒業しないことには現在の保育園選考の土俵にすら上がれません.が,がんばろう.

 

--

ポスドクの勤務形態と保育園申請における点数

以下の基準は自治体によって異なりますのでご注意ください.

(点数順:①≧②≧③≧④≧⑤;⑥は不明)

①申請年度「常勤」&入園年度「常勤(継続)」
→「常勤」の点数

②申請年度「常勤」&入園年度「常勤(新規)」
→「常勤」または「常勤内定」の点数※

③申請年度「非常勤」&入園年度「非常勤(継続)」
→「非常勤」の点数

④申請年度「非常勤」&入園年度「常勤(新規)」
→「非常勤」または「常勤内定」の点数(今回ぼくはコレに該当)

⑤申請年度「非常勤」&入園年度「非常勤(新規)」
→「非常勤」または「非常勤内定」の点数※

⑥申請年度「常勤」&入園年度「非常勤(新規)」
→ わかりません(非常勤内定の点数かも)

 

※業務内容の継続性が認められれば,それぞれ前者の点数になります(ただし,口頭による説明だったため確証はありません).

 

学振研究員(PDや海外)は,「常勤」あるいは「自営業(>8時間/日)」と認定されれば,①②④⑥いずれかのケースに当たります.DCは「就学」扱いになる可能性があります.

 

以上です.