ソウル市内に住む主婦(40)は旅客船「セウォル号」沈没事故がきっかけで「安全専門家」になった。小学校に通う娘(8)が団体旅行で事故に遭うのではと心配になり、インターネットを通じさまざまな安全上の注意点を細かく調べ、覚えたからだ。セウォル号事故以降、修学旅行はもちろんのこと、体験学習も全面的に中断されている状況だが、この主婦は「今後何があるか分からない。何もしないで娘が危険にさらされるのを黙って見ている訳にはいかない」と「研究」を続けている。「学校で運動会や学芸会があれば学校に電話をかけ、総責任者は誰なのか、消火装置や緊急時の避難路はきちんと決まっているのか、事細かく聞かないと安心できない」と言った。
セウォル号事故で最も早く変化を遂げたのは、この主婦のような「母親」たちだった。親が自ら「緊急時の脱出方法」など安全上の注意点を学び、子どもたちにも事故が起きたらどうするべきかを教えているのだ。
今回の沈没事故で犠牲になった檀園高校(京畿道安山市)の生徒たちと同じ年ごろの息子を持つ主婦(41)はセウォル号事故直後、飛行機の緊急脱出方法を調べた。息子が夏休みに国内線の飛行機に乗り、友達と一緒に済州島旅行に行くことになっていたからだ。「客室乗務員はきちんと教育を受けているというけれども、どうだか分からない。海の上に不時着したのに『緊急脱出用シューター』が広がらなかったり、座席の下に救命胴衣がなかったらどうするの」
主婦が集まるインターネット上のコミュニティー・サイトにも、セウォル号事故後は「安全に冠して子どもにどんな注意点を伝えておくべき?」「救命胴衣を持ち歩くことはできないから、非常灯でも渡して自分の位置を知らせられるようにしようかと思う」などの書き込みが一日数十件あった。
「団体旅行は絶対に行かせない」という母親と、「友達と絶対一緒に行く」という子どものケンカも増えた。京畿道に住む主婦カン・ウジョンさん(39)は先週ずっと「修学旅行の賛否投票に賛成票を入れて」という中学生の息子(14)と言い争っていた。子どもたちの「修学旅行再開要求」が強まり、学校側が全生徒・保護者を対象に賛否投票を行うことにしたためだ。カンさんと同じく反対票を投じた保護者が多く、修学旅行の再開はなくなったそうだ。
専門家らは、母親たちのこうした様子について「セウォル号事故で韓国社会の安全システムに対する信頼性が完全に崩壊したという証拠だ」と見ている。高麗大学社会学科のイ・ミョンジン教授は「韓国社会にはシステムやマニュアルが不在だと知った大人たちが親としての責任感を感じ、自ら安全確保に乗り出したもの。不安が続けば、安全だけでなく社会全体への不信につながる可能性がある」と懸念した。