福島をどう描くか:第1回 漫画「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記」 竜田一人さん
2014年05月22日
◆本当にそうですね。取材される方も皆さん、本当に多様です。1人1人が期待する原発像がありますよね。ある新聞はいかに労働環境が悲惨だったかを徹底的に聞こうとしました。確かにひどい目にも遭いましたけど、個人的にはそれでも面白い経験だったと言えます。語弊があるかもしれないけど。あとはやたらと身体を心配する質問ばかりだったり、再稼働や原発推進と言わせようというご質問もいただくこともあります。皆さん、いろんな読み方をされますよね。いかに原発を巡る議論が複雑化しているかを身をもって思い知りました。みなさん、自分が見たい方から1Fを見ようとしてしまうのだろうなと思います。
でもね、それは私だってそうかもしれない。私だって決してフラットじゃないし、自分なりにバイアスがかかった見方をしているかもしれない。自分を中立だとは思っていないです。それでも「いちえふ」は中立だと言ってもらえることが多いです。このこと自体、これまでいかに偏った議論ばかりだったかということの表れなのではと感じています。
−−この漫画には「『フクシマの真実』を暴く漫画ではない」というコピーがついていますね。何か狙いがあったのですか。
◆このコピーは初めて「いちえふ」がモーニングに載った時に担当編集者が付けたものですが、特定の何かへの当てつけで付けられたものではありません。震災以降にたくさん出てきた「真実」を暴く作品とは趣旨が違いますよ、ということです。私自身、そういった作品や報道にうんざりしていたこともあります。それに「真実」が何かなんて私にはわからないし、現場にぱっと行って「真実」を私が掴んでしまうなんてことはあり得ないと思います。繰り返しになりますが、この漫画においては「真実」を探ることよりも、私が見てきたことを描くことが重要だと思っています。福島なり1Fの一側面を記録することが全てなんです。
だから、「いちえふ」を読んで「これこそ原発事故の真実だ」っていうのも、ちょっと待ってほしいと言いたくなるときがあります。あくまで私が見てきた部分を描いていることは強調したいです。一つ、これが「真実」と決めてしまうと他のものが見えなくなる可能性があります。
あっ、行って私が知った福島の真実は食い物がうまいってことですかね。