福島をどう描くか:第1回 漫画「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記」 竜田一人さん
2014年05月22日
◇「『放射線なめるな』って話なんですよ」
−−和気あいあいとした職場と思いきや、ベテラン作業員が新人に「放射線なめるな」と一喝するシーンもあります。
◆ちょっと漫画的な表現になってはいますが、ベテランの作業員さんなんかからはああいう思いをすごく感じました。1Fでふざけた態度をとると怒られるし、緊張して警戒しすぎても足手まといになるので。一生懸命勉強して正しい知識を身につけて適切な対処をするということに尽きるのです。作中で注意された新人みたいに初めて現場に行って頭が痛くなるなんていうのはざらです。彼は放射線の影響を心配してたんですが、なんてことはない、単にマスクのゴムバンドをきつく締めすぎたのが原因なんです。
−−作業員の体調管理は大変そうです。
◆人間だから体調の波はあるに決まってます。倦怠(けんたい)感だってありますよ。肉体労働なんだから、かったるい時だってあるに決まってますよね。中には鼻血を出した人もいました。見たのは1人だけですが。あれだけ作業員がいれば、1人ぐらい鼻血を出す人もいるでしょう。問題は鼻血を出した、出さないじゃなくて、それが放射線の影響かどうかですよね。そこで「放射線なめるな」って話になるんですよ。現場で放射線の影響が症状として身体に出るようなことがあったら、それは即座に命の危険を意味します。そうすると私たちは1Fで働くどころではなく、命の心配をしないといけない。それを防ぐためには、正しい知識を身につけ、適切な対処をするしかないんです。1Fとはそういう職場なんです。例えば、建屋内では場所ごとに「毎時○○ミリシーベルト」と張り紙が貼られていて、線量が「見える化」されています。特に線量が高い場所には近づかないようミーティングなどでも注意もされています。作業員の年間被ばく限度量を20ミリシーベルト弱に定めている会社が多いので、線量をきちんと管理しないとすぐに人が足りなくなってしまいます。
放射線よりも直接的に身体にこたえるのはなんといっても暑さです。とくに夏場は熱中症が頻出します。全面マスクとタイベックを着込んでの炎天下での作業中はずっとサウナの中にいるのようなものなのです。あとはマスクの中で鼻がかゆくなってもかくことはできないし、急な尿意や便意みたいなものにも相当気を使います。案外、単純な生理現象が一番困るんですよね。40代後半で中堅どころという現場なので、50代の人もいっぱいいます。先に話した新人のように20代で若くてもフラフラになりますからね。健康は誰でも気にしますよ。肉体労働をする限り、体調管理には気を使います。