福島をどう描くか:第1回 漫画「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記」 竜田一人さん
2014年05月22日
◆ずっとありましたね。福島には友達くらいはいたけど、基本は縁もゆかりもない。もちろん作業中に疎外感はないですし、福島の同僚もよくしてくれました。それでも自分の中にはよそから来ているという自覚は常にありましたよ。自宅が避難区域にあり避難した人、津波に遭った人、余震に遭った人……。自分は同じような経験をしたわけではないので同列には語れないですよね。
日本に住む人なら皆事故とは無縁ではないと思いますが、福島や被災地を代表して何かを語れる当事者ではないということです。半年間、働いたからといって自分が何かを代弁できるとはまったく思えません。
−−東電との関係を邪推されることも多いということですが。
◆福島を代表して何も語れないのと同じで、東電を代表することもできないですよ。トップは東電かもしれないけど、実際の工事は各プラントメーカーなどがやっているわけです。自分はそのさらに下の6次下請けの下っ端作業員。そんなやつが東電のフォローをできるわけがないというのが普通の感覚だと思います。それでも朝日新聞の記事(4月29日付朝刊で「廃炉の現実」についてコメントを寄せた)で再稼働問題に言及してから、特に言われているようです。そこで言いたかったのは廃炉のために職人、作業員の確保が大事ということ。そのために一つの選択肢として再稼働もちゃんと検討してはどうかということなんです。1Fは基本的には運転中の原発と同じです。ですから運転している原発で技術を継承しないと職人かたぎの作業員を確保し続けることが難しくなるのでは、と思ってきました。
40年かかると言われている廃炉作業ですから、今あるものは有効に使って長い目でみるべきと発言したつもりでした。それでも、推進派と反対派の二極化した論争に巻き込まれてしまいます。私は自分の目でみた現場の視点から語っただけで、推進派というわけではありません。とかく二極化された論争になりがちですが、そういった論争に拘りすぎて、現場がないがしろになるのだけは避けてほしいと思います。
−−1Fは他の工事現場とは違いますか?
◆規則も厳しいですし、もちろん放射線もある。注意することが多いのは事実です。高線量の場所は制限もあって1日1時間くらいしか働けない。作業のための準備の時間がありますから拘束時間は8時間くらいありますが、短い実働で稼げるので、考えようによっては他の場所よりおいしいということもできます。ただ、職人の世界は徒弟制ですからね。廃炉のための技術継承を考えると、あそこの現場だけで経験を積むには時間が全然足りないな、と感じています。