福島をどう描くか:第1回 漫画「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記」 竜田一人さん

2014年05月22日

「いちえふ」1巻の表紙
「いちえふ」1巻の表紙

 ◆それはないですね。むしろそういうのにうんざりして福島に行きましたから。そもそも、東日本大震災以降、評論家やジャーナリストの言い方に「おまえら、ちょっと行ってきただけで何言ってるんだ」という思いはありました。あくまで自分の見てきたことを記録しておこうという意識で「いちえふ」を描いています。記録者としての役割を果たすということに専念したいと思っています。

 −−それはなぜ?

 ◆あまりにも世間で言われていることと、実際に見てきたことが違ったからです。あそこで働いた者の誰かが、何らかの形で(記録を)残す必要があると感じています。文章でも写真でもよかったのでしょうが、自分にできるのが漫画だったので、漫画という形にしました。描いたのはあくまで2012年後半の様子です。「その時点ではこうだったんだよ」ということを後世に残すことには、もしかすると何らかの意味があるのかなと思っています。初めから描こうと思って1Fに行ったわけではないので特に観察しておこうと意気込むことはなかったです。普通にやってきたことを覚えている範囲で、描けることを描いておこうかなと。変なところで記憶力はいいんですけど、取材で話しながら忘れていたエピソードを思い出すこともありますよ。

 −−作業員の表情や立場もさまざまです。

 ◆もちろん喜んで働いてる人ばかりではなく、そこにしか仕事がないから仕方なく来ている人も多いとは思います。それでも徴兵のように強制されて来ているわけではありません。自分で選択して、働くことを自分で決めて来ているのです。それを奴隷のように見られるのは心外です。

 −−放射線や仕事への意識も描いています。

 ◆1Fは行くと死んじゃうみたいなところではありません。(竜田さんが原発で働くことを決めた)2012年当時は、(福島)第1原発に行くと言ったわけじゃなく、「福島に行く」と言っただけでも知人、友人から「やめておけ」と言われることもありました。行ってみたら、働いていた人はほとんどが放射線をそれほど過剰に気にしているわけではないように見えました。「大丈夫だっぺー」とか軽口をたたいたりしていますし。それでも高線量のところに行くときは気を使って、装備を整えて向かいます。ルールが決まっているので、そこから外れた格好をして原子炉建屋方面に向かったら誰かに止められます。総じて厳密な判断と運用をして、働いているという印象を持ちましたね。

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