「小保方さんを解雇したら違法」弁護団が理研・懲戒委員会に「弁明書」提出(全文)|弁護士ドットコムトピックス

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話題のニュース 2014年05月26日 22時49分

「小保方さんを解雇したら違法」弁護団が理研・懲戒委員会に「弁明書」提出(全文)

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「小保方さんを解雇したら違法」弁護団が理研・懲戒委員会に「弁明書」提出(全文)

STAP細胞をめぐる論文不正問題で、筆頭著者の小保方晴子・理化学研究所ユニットリーダーの弁護団は5月26日、理研の懲戒委員会に弁明書を提出した。

この問題をめぐっては、論文不正問題に関する理研の調査報告書に対して、小保方リーダーから4月8日に不服申し立てがあった。これに対し、理研の調査委は5月8日、再調査を行わないことを決め、小保方リーダーの処分を決める懲戒委員会を設置していた。

弁明書の要旨によると、小保方リーダー側は「調査委員会が研究不正の解釈や事実認定を誤っており、調査の過程にも重大な手続違背がある。そのような審査結果を前提に懲戒委員会が諭旨退職及び懲戒解雇を行うならば、その処分は違法となる」と主張している。

小保方リーダーの代理人をつとめる三木秀夫弁護士が明かした弁明書要旨の全文は以下の通り。

●懲戒委員会への弁明書(要旨)(平成26年5月26日)

調査委員会による認定判断は、下記のとおり研究不正の規程の解釈および事実認定を誤っており、調査および再調査開始審査の過程にも重大な手続違背があります。このような本報告書及び審査結果報告を前提に、懲戒委員会が「諭旨退職及び懲戒解雇」を行うならば、その懲戒処分は違法となるものと思料いたします。

懲戒委員会におかれては、公正かつ適切な判断の上、「研究不正」が認定されたことを前提とした懲戒処分をしないとの判断を求めます。小保方晴子は、論文作成の過程において、科学者として不適切な行為があったことについては深く反省しており、この点について何らかの処分がなされるとしても、行った行為と均衡する処分に留められるべきものと考えます。

〈調査委員会報告及び審査結果報告の誤りについて〉

第1 解釈手法について

1 規程の定義

「科学研究上の不正行為の防止等に関する規程」(本規程)で「研究不正」について定義がある。これについて、不服申立では、真正な画像・データが存在し、また再現性が認められるならば、これらにあたらないと主張したのに対して、調査委員会は、真正な画像・データが存在しようとも、また、再現性が認められようとも、「加工された画像が真正でないものになれば改ざん」であり、「データが論文に記載されている実験条件下で作成されたものでなければ捏造」であるとの解釈を示した。しかし、調査委員会の解釈は、法的観点からも社会通念上も、到底、是認できるものではなく、誤った恣意的解釈というほかない。

2 懲戒との関係

研究不正に関する懲戒処分は、諭旨退職又は懲戒解雇を原則とする極めて重い処分が就業規程に定められているところ、そのバランスからすれば、研究不正とされる行為は、重大な違反行為に限られると考えなければならない。労働契約法15条も、行為と処分との均衡原則を明らかにしている。

研究不正とされれば、原則として諭旨退職、懲戒解雇の処分を受けることからすれば、そのような処分を受けるに相当な行為のみが、研究不正に該当すると考えるべきであり、すなわち、「研究・実験自体が架空のものであるのに存在するかのように偽装」した場合のみが、研究不正にあたると解さなければならない。

3 厳格な解釈の必要性

(1)不測の損害、恣意的判断の排除

研究不正と認定・判断されれば懲戒処分に直結し、被通報者の将来の研究活動や生活に重大な影響を与えることからすれば、研究不正の解釈は厳格になされなければならない。安易な拡大解釈や類推解釈がなされたならば、被通報者は不測の損害を被ることになるばかりか、調査委員会による恣意的判断が許されることになる。

(2)「改ざん」の厳格な解釈

「改ざん」とは、「研究資料、試料、機器、過程に操作を加え、データや研究結果の変更や省略により、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること」と定義づけられている。厳格な解釈をなせば、研究資料に操作が加えられ、データの変更が行われても、それが、結果の偽装(真正でないものへの加工)に向けられたものでない場合は、「改ざん」にはあたらない。Figure1iは論文上の掲載内容であり、「研究活動によって得られた結果等」それ自体ではないにも関わらず改ざんとした調査委員会の解釈は、上記の定義の範囲を超えた拡大解釈である。

(3)「捏造」の厳格な解釈

「捏造」とは、「データや研究結果を作り上げ、これを記録または報告すること」と定義づけられている。厳格な解釈をなせば、存在しないデータや研究結果を作出し、これを記録または報告することという意味であり、研究自体が架空である場合に限られると解さざるをえない。現に研究が行われ真正なデータが存在する場合や、再現実験によりその結果が得られた場合には、「データや研究結果を作り上げ」る行為はない。今回の調査委員会解釈は、上記の定義の範囲を超えた拡大解釈であり、恣意的判断というほかない。

4 本規程との整合性

「研究・実験自体が架空のものであるのに存在するかのように偽装」した場合のみが、研究不正にあたるという解釈は、本規程とも整合する。すなわち、本規程15条2項、同条5項は、真正データの存在や実験の再現により、架空の研究・実験ではなかったことが証明されたなら、「研究不正」ではないことが大前提となっている。調査委員会の解釈をとれば、真正なデータがあっても、再現実験が成功しても、捏造・改ざんになることになり、本規程の上記条項は、全く意味不明の条項となる。

5 「研究不正」と「不適切な行為」の区別の必要性

「研究不正」と「不適切な行為」を混同してはならない。「研究不正」は懲戒の対象となるものであり、「不適切な行為」は、信頼性の高い研究活動を実現するための科学者の行為指針である。「不適切な行為」があったからといって、即「研究不正」とされるわけではない。調査委員会は、この点を看過して、「不適切な行為」をもって「研究不正」決めつけたが、両者を混同したこの解釈は決定的に誤っている。

第2 レーン3の挿入について

(1)改ざんではない

「改ざん」の定義において、「研究資料、・・・・の変更や省略により」までは単に方法を示すものであって、主要な構成要件は、後半の「研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工する」という点にある。ここで、真正でないものに加工する対象は、「研究活動によって得られた結果等」であって、Figure1i(加工して論文に掲載した画像)ではない。

本件において、現に電気泳動ゲルの実験が行われ、写真1、2が撮影されている(中間報告書において確認されている)。それゆえ、写真1、2から得られた結果、すなわち、「DNAが短くなった、すなわち、T細胞受容体再構成がおこった細胞が含まれているという結果」こそが、「研究活動によって得られた結果等」である。「研究活動によって得られた結果等」が存在する以上、「研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工」した行為は存在しない。したがって、研究不正としての「改ざん」には該当しない。

調査委員会が問題としたのは、いずれも「不適切な行為」であり、研究不正としての「改ざん」ではなく、その意味で、問題がすり替わっている。

(2)訂正権を無視した誤り

小保方は、Figure1iの画像掲載について、2014年3月、著者全員から訂正の画像をNature誌に提出している。科学論文には、掲載方法の誤りについては、筆者の訂正権が認められているところ、小保方の行為の瑕疵は、この訂正により治癒されるべきでものあった。一体、何ゆえに、調査委員会は本報告書において、「改ざん」と判断したのか、不可思議というほかない。

調査委員会の最終結論は線を入れることを知っていたかどうかにすり替えられており、もし線を入れなかったことが改ざん認定の証拠となるなら、単に提示法だけの問題であり、改ざんに相当するものではない。仮に、科学的関連性を崩すものであり、そのような掲載が不適切な行為にあたるとしても、それは、訂正により治癒されている。

(3)悪意の点の誤り

本規程2条2項但書でいう「悪意」は、「故意」と同義であり、「悪意のない間違い」は「過失」を意味することについてはそもそも争っていない。しかし、こちらが指摘していたのは、悪意(故意)における認識の対象は、「データの誤った解釈へ誘導する危険性」では足りないということである。「研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工する」ことについての認識が必要であるところ、本件では、もともと「DNAが短くなった、すなわち、T細胞受容体再構成がおこった細胞が含まれているという結果」が存在しており、それを、真正でないものに加工するという行為自体が存在しないから、それを認識することはありえない。「改ざん」についての故意(悪意)がないことは明白である。

調査委員会が述べる「データの誤った解釈へ誘導する危険性の認識」は、科学者として不適切な行為である「データの誤った解釈へ誘導する行為」についての故意を問題にしているにすぎない。小保方には、そのような認識もなかった。真正な写真1、2が存在する状況のもと、もし、そのような認識があったなら、レーン3への挿入などするはずがないのであり、写真1と写真2を別々に掲載していたであろうことは、社会通念上疑いの余地がない。真正な写真1、2が存在するのに、データの誤った解釈へ誘導する危険性を認識しながら、レーン3を挿入することは、経験則上ありえない。そのような行為を行う動機がないのである。

この点について、再調査不開始時の報告は、論旨不明であるが、小保方において直線性の数理的解析について変遷があることを問題としているようである。しかし、小保方は、そこで指摘されているような説明を行った事実は無く、また、グラフも自己の作成したものではなく、誰に対しても、直線性の数理的解析を行ったという説明を行っていない。この点について理由補充書において具体的に事実を指摘したにも関わらず、調査委員会は、何らの確認もしないまま誤った事実認定をしている。

(4)Science誌査読者指摘をもとに認識を認定した点の誤り

調査委員会は、再調査不開始の意見の際に、Science誌の査読者からの指摘をもとに、異なるゲルに由来するレーンを区別すべきことについて認識があったと認定した。しかし、この点については、2014年4月27日に調査委員会から質問を受け、同年5月1日に、要旨以下の回答を行っている。

1 このScience誌のエディターからのメールでは、論文がreject(リジェクト―却下)されただけでなく、再投稿が許可されておりません。再投稿が許可されているのであれば、レビューワーからのコメントを精査したうえ、それに対応して訂正して再投稿すると思います。しかし、再投稿が許可されていない場合に、レビューワーからのコメントを精査することは通常ありません。再投稿できないので、それを検討しても意味がないからです。

2 また、他の雑誌にScience論文と同じ論旨の論文を投稿するのであれば、レビューワーからのコメントを検討すると思いますが、申立人は、このScience論文と同じ論旨の論文を、他の雑誌に投稿したことはありませんでした。このScience論文リジェクトの後、2012年12月からは笹井先生に論文指導を受けることになり、異なる論旨での論文執筆となりました。ですから、申立人は、Science誌のレビューワーからのコメントを検討したことはありません(正確には、コメントを読んだ記憶がありません)。

3 また、共著者(略)も、このレビューワーからのコメントを受け取っています(申立人が転送しています)が、もし、共著者がレビューワーからのコメントを精査していれば、ゲル写真の掲載について、問題提起がなされ共著者間で検討がなされたはずです。しかし、そのようなことはありませんでした。ですから、共著者も、申立人同様、レビューワーからのコメントを精査していないはずです。

4 理研コンプライアンス室からお送りいただいたメールの黄色ラインマーカー部分には、「ゲル写真に、白い線を入れるのが通常のプラクティス」とのコメントが記載されていますが、このようなコメントの存在を申立人は全く知りませんでした。4月27日にお送りいただいた黄色ラインマーカーを見て、はじめて、このようなコメントの存在を知りました。

この回答のとおり、小保方は、査読者からのコメントを精査していない。何より、2012年8月に、査読者のコメントを精査し、異なるゲルに由来するレーンを区別すべきことについて認識があったのならば、2013年3月の論文1の投稿にあたり、レーンを区別していたはずである。しかも、共著者も、このレビューワーからのコメントを受け取っているところ、仮に、共著者がレビューワーからのコメントを精査していれば、ゲル写真の掲載について、問題提起がなされ共著者間で検討がなされたはずである。しかし、そのようなことはなかったのであるから、共著者も、小保方同様レビューワーからのコメントを精査していないことは疑いがない。

以上のとおり、「データの誤った解釈へ誘導する危険性の認識」についての審査結果報告の認定は、全く何の証拠にもとついておらず、誤った推測を縷々述べているにすぎず、全く意味はない。

第4 検証実験との関係について

理由補充書(2)において、「プロジェクトにおける検証実験の結果を待たずに、申立人の行為を研究不正と断ずることは許されない。」と主張した。これに対して、再調査不開始報告では、「論文1に、不服申立て者による改ざんと捏造という研究不正があったことは明らかであり、再実験の指示や許可をする必要性がある案件ではなく・・・、したがって、検証実験の結果を待つまでもないものである。」とした。

しかし、論文に記載された実験条件と同一の条件によって同一の結果を再現できたならば、被通報者は真に論文に記載された実験に成功していたことが証明されることになる。本件において、論文に記載された実験条件によりテラトーマ形成実験が成功したならば、小保方が真にテラトーマ形成実験を行い、テラトーマ画像を得ていたことが明白となる。すなわち、テラトーマ形成実験の再現がなされれば、「捏造」との疑いは晴れる。

理化学研究所では、本年4月にSTAP現象を検証するプロジェクトが立ち上げられ、現在も検証のための実験が継続されているが、その検証実験の目的の一つとして、「論文に記載された方法で再現性を検証する」ことがあげられている。そうであれば、再調査を開始したうえ、上記のプロジェクトにおける検証実験の結果を待って、小保方の研究不正の有無についての本報告書の判断が見直されるべきは当然であるにもかかわらず、「検証実験の結果を待つまでもない」と決めつけて、これを拒否した調査委員会の判断は、あまりにも不合理である。

第5 手続違背について

1 弁明の機会を与えられなかったこと。

2 調査委員会の構成

調査委員会の調査報告書に対して不服申立がなされた場合には、不服申立てに対して再調査を開始するか否かの審査を含め、その後の審査及び再調査のための調査委員会は、当初の調査委員会の委員以外の者によって構成されるべきである。不服申立の対象となっている調査報告書の判断をした調査委員会は、不服申立の審査において中立の立場にあるとはいえず、手続構造から見て、公正な審査がなされるとの信頼を得ることはできない。

また、審査途中の4月24日、石井委員長の論文にも改ざんの疑いが生じ、翌日同委員長は辞任した。さらに、5月1日ころ、調査委員会の委員3名にも同様の疑義が生じたが、辞任することはなかった。同様の疑義が生じている委員が、審査に関わることになれば、自己の行為と小保方の行為とを比較して、両者の違いを際ただせることに意識が行き、その結果、審査について予断が生じることになる。このような予断をもった委員が、調査委員5名のうち3名もいたならば、およそ、公正な認定判断は期待できない。

このような、極めて特殊な状況が生じた以上、理化学研究所としては、「特段の事情」を認め、委員を交代させるべきであったにもかかわらず、調査委員会の構成を変更されないまま、時間を置かず、再調査不開始の結論を出した。このように審査結果報告は、不服申立を行っている者と同じ「研究不正」の疑いがある委員が過半数を占めた調査委員会がなした判断であり、公正な判断はおよそ期待できないことからすれば、著しい手続違反である。

3 再調査開始に関する審査手続について

ここでは、「再調査を行うか否か」がその判断の対象であり、再調査をする合理的理由があるか否かを判断するのがその役割である。ところが、調査委員会は、<1>新たな証拠を収集し、<2>それに基づいて新たな事実を認定し、<3>新たに研究不正があったか否かを判断した。これらの証拠収集、認定、判断は、この時点で行うべきものではなく、再調査で行うべきものであり、調査委員会はその権限を越える行為を行ったものというほかない。また、本報告書が不十分な証拠に基づいて根拠不十分なまま事実を認定し判断を行ったと認識したからこそ、自ら上記<1><2><3>を行っていることを考えると、むしろ「再調査をすべき」との結論となるのに、これをしなかったのは、明白な手続違背である。

第6 結び

本報告書及び審査結果報告は、研究不正の規程の解釈を誤っており、さらに、事実認定を誤っており、そのうえ、調査委員会による調査および審査の過程には、重大な手続違背がある。したがって、今回の調査委員会による結論は違法である。

以上

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