時々、「元ヤンでしょう?」と言われる。
いいえ、私は優等生ではなかったけれど、元ヤンじゃねえ!!!
“金が全てじゃないなんて、キレイには言えないわ”
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私はヤンキーの多い町で育った。
同級生にも、ああ、親戚にも、そうだ、兄弟にも元ヤンキーがいる。暴走族(珍走団)みたいなことをやっていた連中だ。深夜の騒音は本当に迷惑で、人様を引き殺す前にさっさとタヒねばいいのにって思っていた。身内ですら。
私には兄弟がいる。
彼は高校中退だけれども、話をしていると、けっこう頭の回転も良いし、人の気持ちも分かるし、良い奴だ。意外と前科はない。見た目はシャブやってそうだけど、ただの田舎の元ヤン。刑法に触れることは何もやっていない。本当に。(Twitterで人気の京也先輩みたいな感じ。肩パン!ファミチキ!ダチ!要するにただのバカ)
私は彼が今後悪いことはしないと信じているけれど、偏見の目で見られることを彼は承知の上で生きている。(ただ、私は両親のことを恨んでいる。彼をもっと縛りつければ良かったのに、私みたいに、と。それを口にしたら私はほとんど勘当された。)
彼が10代の頃の愛読書は、もちろん『チャンプロード』。
真面目な顔で、「ねえ、特攻服の刺繍どれがいい?」なんて聞いてくるから、本当にうんざりした。わけのわからないバイクの写真を見せられて、「どれがいい?」って聞いてくるので、適当に答えたら、数週間後には家の庭にKAWASAKIのZ2があった(すぐに事故って廃車になった)。
私が大学受験で必死こいてる時。それこそ、失敗したら死ぬしかないって本気で思っていた。18歳の若者にとって、受験ってそれくらい重要なことだった。朝起きて寝るまで、一日のほとんどを勉強していた、バカみたいに。
そんな時に、彼は言った「社会の敷いたレールの上を走る人生は楽しいか?」って。私は言った「生ゴミも喋るんだね。」と。
そんな風にヤンキーと話していたから、元ヤンみたいな言葉を使うようになってしまった。それに、なぜか尾崎豊を聴くようになった。
彼は高校中退で、きっと、両親は息子にもっと頑張って欲しかったのだろうけれど、残念ながら私の方が高学歴になってしまった。両親は私のことを、「何を考えているのか分からない、気持ちの悪い奴だ」と言ったことがあったっけ。
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“息子”が大事にされる、生きた化石のような人たちが住む土地で、やっぱり“息子”である彼は何をやっても認められて、私はなんだか気持ちの悪いガキ扱いされて、本当に嫌だったし今でも時々嫌になるけれど、私が大学に合格した時、彼はまだ10代なのに自分の稼いだお金で合格祝いをくれた。
親の稼いだお金で勉強して、親の稼いだお金と、自分名義とはいえ借金(奨学金)で進学しようとしている私にとって、彼のくれた1万円はとんでもなく価値のあるものだった。
彼は高校中退だけれど、彼がもし、国道じゃなく社会の敷いたレールの上を走っていたら、こういう風になっていただろうっていう人生を少なからず歩んできたんだよ。
いや、彼のせいにするつもりではないけれど。
彼の話をすると、「とんでもない兄弟がいるんだね」って言う男に、私は「お前なんかよりずっと良い男だよ」っていつも言ってきた。
男でもなかなか受からないような大学を出て、田舎にはない上場企業に勤めて、高層ビルに通う。同じ人間から血を分けた同士なんだから、彼にだってきっと出来たはずだって思ってもらえるように。
両親には、いまだに訳の分からない娘だって思われているけれど、彼はそういう私の苦悩を分かってくれている。ある時から、「もう好きなように生きて良いんだよ」って言ってくれる本当に良い男だ。
昨夜、5週間ぶりにLINEで返信が着た。
ちょっとした喧嘩をしていて、私は変顔の写真や、ラーメンの写真や、「ァタシもう疲れたょ…」なんてかまってちゃん発言を一生懸命送ったのに、ずっとKS(既読スルー)してた彼から、思い出したように「仕事頑張れ」って。
あんたのせいにするわけじゃないけれど、ちょっと遅かったかな……。
だから、そろそろ、お前のダチが東京で経営している、ピンサロを紹介して欲しい……。
私はそう願っている。