国民は混乱にくじけず、民主政治を実行しようとしている。民意をしっかり受けとめ、事態の打開に結びつけるべきだ。

 欧州とロシアの間で揺れ続けるウクライナで大統領選挙があり、ポロシェンコ元外相が勝利する見通しだ。

 欧州連合(EU)への加盟を唱える親欧米派の政治家だ。ただし、欧米の軍事組織である北大西洋条約機構(NATO)への加盟問題は明言を避けた。

 欧米一辺倒でなく、ロシアとの関係も重んじる柔軟さの表れと受け止められている。

 政治的な対決でなく、現実的な解決策を探る実務肌。それがポロシェンコ氏の人物評だ。

 製菓業を中心に事業を手広く営む富豪の「チョコレート王」でもある。過去に、親欧米派、親ロシア派の両政権を通じて要職をこなした実績がある。

 この国は親欧米の西部と親ロシアの東部とに分裂している。なのに歴代の政権は、一方に傾斜した政策をしばしばとり、深刻な対立をもたらしてきた。

 いまの混乱も同じ構図だ。EU接近策を転換した前大統領を親欧米派が打倒した。怒った親ロシア派が東部の独立へ動き、暫定政権と衝突した。

 東西の争いは国の根本の成り立ちすら危うくさせかねない。国民は、バランス感覚と実務能力をそなえた政治の指導力を待ち望んでいるのだろう。

 まず、東部への対応を急がねばならない。今回、有権者の1割超を占める東部ドネツク、ルガンスク両州の多くの地域は親ロシア派武装勢力による妨害で投票ができなかった。

 選挙後、ドネツク州では、同勢力と暫定政権との武力衝突が激化している。東部の地方権限強化も前提にした対策を通じ、流血の拡大を防ぐべきだ。

 経済の立て直しも急務だ。歴代政権の深刻な汚職と腐敗体質もあり、巨額の対外債務を抱えて破綻(はたん)の瀬戸際にある。

 ロシアからは天然ガスの供給を止められる恐れもある。ウクライナ経由でロシアからのガスに頼る欧州にも重い不安をもたらしている。

 早く混乱を収拾し、経済再建とエネルギー対応などへの取り組みを急いでもらいたい。

 ロシアのプーチン大統領は「大統領選の結果を尊重する」と明言した。ならば、新たに生まれる政権の正統性を認め、真剣な対話を始めるべきだ。

 ロシアはクリミア併合などの強硬策に出たことで、欧米から経済制裁を受けている。これ以上、対立を長引かせることは誰の利益にもならない。