内科医・酒井健司の医心電信
2014年5月26日
待っている患者さんが多くなってくると外来は殺伐としてきます。むろん、どんなに忙しくても患者さんを不快な気持ちにさせるような診療は望ましくないのですが、患者さんを長い時間お待たせしていると思うと医師の気も急くのです。
以前のアンケートで「医師がモニター画面ばかり見て患者の顔を見ない」というご不満がけっこうありました。きちんと患者さんに向かってお話を聞いて、後からカルテに記入をすればよいのですが、少しでも時間を節約しようとしてお話を聞きながら入力したくなるのです。
紙カルテの時代は、患者さんの目を見ながらカルテの記載をすることができました。あまりお行儀は良くありませんが、向かいあってお話しながら右手だけでカルテを書くというテクニックです。診察室の多くは医師側からみて右側に机がありますが、医師がカルテを書きやすいためにでしょう。
電子カルテだとこうはいきません。両手をキーボードに乗せると体は患者さんに向かい合わず横向きになります。ブラインドタッチができても視線は患者さんではなくモニター画面にいきます。これがよくありません。
海外には医師がしゃべったことをそのまま口述筆記をしてくれる専門職がいるところもあり、医師はチェックしてサインをするだけ、という話も聞きますが、日本ではそうもいかないでしょう。つきつめると医師不足、医療費不足が悪い、という話になりますが、現場としては限られたリソースでできる限りのことをしなければなりません。モニター画面ばかり見ていても、節約できる時間は数十秒からせいぜい1分ぐらいです。ましてや、一度も患者さんの顔を見ないというのは論外です。
お話が長くなりそうなら、一言断って、話を聞きながら入力というのはありだろうと思います。ですが、話の最初と最後にはきちんと患者さんの顔を見て診療するべきです。電子カルテには、画数の多い専門用語の記載が楽である、字が汚くて読めないなんてことがない、カルテの改ざんが困難である、などの利点があります。電子カルテが悪いわけではなく運用する側の問題です。
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