分岐点 女川原発−運転開始30年(1)被災の重み 再稼働、高まるハードル
東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)は6月1日、1号機の営業運転開始から30年を迎える。1〜3号機の3基は全て、東日本大震災の影響で冷温停止が続き、再稼働の行方は見通せない。東京電力福島第1原発事故を契機に「脱原発」の機運が広がるなど取り巻く環境は変容しつつある。転換点を迎えた巨大プラントの現状を追った。(原子力問題取材班)
女川原発はいま、「被災プラント」という現実を突き付けられている。
東北電は昨年12月下旬、2号機の再稼働を目指し、原子力規制委員会に安全審査を申請した。
その1カ月後、東京の原子力規制庁であった2回目の審査会合。規制委側は「津波対策の構築に当たり、想定を上回る津波が敷地に到来したことをどう考慮したのか」と東北電に問いただした。
東京電力福島第1原発が陥ったような深刻な事態こそ免れたとはいえ、女川原発も津波で一部の地下施設が浸水するなどした。被災の事実は重く、規制委側の注文は当然のことと言えた。
東北電は運転再開を「2016年4月以降」と見定め、1000億円超を投じて安全確保に力を注ぐ。
昨年5月に防潮堤を海抜29メートルにかさ上げする大規模工事に着手。耐震設計の前提となる基準地震動についても同年11月、最大加速度を震災前の580ガルから約1000ガルに見直し、設備や配管などの耐震強化を進める。
<大飯判決も影響>
「従来の倍の強さで揺れと津波から施設をブロックする」。東北電の海輪誠社長は胸を張る。
だが、原子炉起動までの道のりは遠い。規制委は津波被害に言及した会合で26の論点を挙げ、東北電に詳細説明を求めた。うち「地盤・地震」関連は最多の8項目。震災の震源域に最も近い原発という特性を踏まえ、慎重に議論する方針だ。
今月21日には福井地裁が関西電力大飯原発(福井県おおい町)の再稼働の差し止めを命じる判決を言い渡した。東北電は「引き続き安全性向上に努める」と平静を装うが、司法判断が国内の原発の行方に与える影響は決して小さくはない。
女川原発の施設被害をめぐっては、原発に不信感を抱く市民が「重大事故の一歩手前だった」と指摘する。一方、電力業界の関係者は「軽微で済んだのは安全性が高い証拠」と懸命に訴える。
<「多角的検証を」>
東北電出身者が役員を務める東北エネルギー懇談会は今月15日、仙台市で総会を開催。講演した国際エネルギー機関(IEA)の前事務局長は「震災に耐えた女川原発の教訓を世界で共有することが重要」と強調した。
判断は規制委に委ねられるものの、審査通過は地元合意などと並ぶ再稼働に向けた前提条件の一つにすぎない。
福島原発に関する国会事故調査委員会委員を務めた科学ジャーナリストの田中三彦氏は「規制委の審査も万能ではない。女川原発は被災したからこそ、地元自治体を含めた多角的な検証が求められる」と指摘する。
2014年05月27日火曜日