thumbnail こんにちは,

ここ数年セレッソ大阪のアカデミーは優れた選手を輩出し続けている。例を挙げると、柿谷曜一朗、山口蛍、丸橋祐介、扇原貴宏、永井龍、杉本健勇、南野拓実など現在トップチームで中心的存在に育っている選手たちばかりだ。上記の選手たちはここ5年間で下部組織から昇格した。これほどの短期間でこれだけの数の選手をトップレベルまで育て上げることができるJリーグクラブはかなり珍しい。1年に1人トップチームに昇格できる選手がいればいい方と言われるJクラブの下部組織の中では突出した存在といえよう。では、彼らを育てたC大阪アカデミーの育成はどのような考えの下に行われているのだろうか。今回はアカデミーダイレクターとU-18の監督を務め、アカデミーの実質的なトップともいえる大熊裕司氏にその秘密を聞いた。



まずC大阪アカデミーで最も重視している要素は何だろうか。これについて大熊氏は「まずはテクニックです。ジュニアユースのセレクションで最も重視する部分でもあります。それとパーソナリティも重要になります。あとは何か突出したプレーを持っていることだと思います」と語る。大熊氏によればパーソナリティとはリーダーシップ、ボールへの執着心、勝負へのこだわりなどのことだという。さらに実際のトレーニング、育成においては「それぞれの年代で身につけなければならないことを積み上げること」、「足りないものをどれだけ自分で意識しながら身につけられるか」が重要になる。その好例が昨年ブレイクした南野拓実だ。大熊氏によれば、彼は入団当初からテクニック、ゴールに向かっていく姿勢は傑出してものの、守備は苦手だったという。ユースに入団したころからその才能を買われ、コーチ陣からも常にトップチームを意識した指導がなされていた南野だったが、中でもコーチの「守備もできなければ世界では戦っていけない」という言葉を胸に守備の練習を怠らなかったことが現在の活躍につながっているようだ。今年4月の日本代表候補合宿でも、ザッケローニの守備戦術をいち早く理解し実践していたのは他ならぬ南野だった。

C大阪では日本で初めて導入した独特の試みがある。それは2007年から実施している「ハナサカクラブ」の存在だ。「ハナサカクラブ」とはアカデミーを支援するためにつくられた個人協賛会のこと。クラブ名の「セレッソ」はスペイン語で「桜」という意味で、「トップチームで花開く選手を育てる」という意図とかけ、昔話の「はなさかじいさん」をイメージして命名された。これには誰でも一口3000円から応募でき、寄付されたお金は全て育成費に充てられる。こうした財源を確保できるクラブは強い。現在日本代表に選出されるまでに成長した山口蛍と扇原貴宏の2人はこの制度の支援を受けた選手である。「ハナサカクラブ」による資金を使って海外遠征や国内遠征を増やすことができ、結果的に彼らの成長を大きく助けた。

だが、南野、山口、扇原らのように皆が順調にトップチームの扉を開けることができるわけではない。大半の選手はユースからトップチームへ上がることができず外の世界へ出ていかなければならない。もちろん激しい競争があるわけだが、メンタル面でC大阪アカデミーが大切にしている要素がある。大熊氏いわく「何を目標にしているのか、何を目的にここにいるのか、その目的のために今何をしているのか」ということを常に選手たちに意識させているという。そのうえでコーチ陣は「選手たちのモチベーションをどう維持させるのか、目標をどこに設定させて、それに対してどのようにブレずに取り組ませるか」ということを強く意識している。日々のモチベーションなくして成長はできないということである。

それでもトップチームに昇格できるのは1年に1人か、多くても2人ほどだ。それ以外の選手の多くが大学へ進学することになるが、必ずしもそこで選手としてのキャリアが絶たれるわけではない。今年ルーキーとしてC大阪に加入した小谷祐喜がいい例だ。彼はC大阪アカデミーの出身だがU-15からU-18への昇格は叶わず、関大一高、関西大学へ進学した。小谷はそこでさらに努力を重ねてC大阪へ戻ってきたのだ。彼の例のように、ユースから直接プロになれなくとも、大学で頑張ればもう一度チャンスがあるということを高校生の段階から意識させてモチベーションを維持できるような指導もしている。

現在トップチームでプレーしている若い選手の多くはアカデミー出身だ。柿谷、山口、扇原、丸橋、南野、杉本…挙げていけばきりがない。それだけにユースからトップチームへの昇格は年々狭き門になっているという。だが今年からは招集メンバー外のトップチームの選手とユースの選手が一緒に練習できる環境を整えて、プロというものをより身近に感じられるような体制にし、アカデミーの選手がトップチームに通じるような一貫した指導を受けられる仕組みも作られつつある。ボルシア・ドルトムントなどのヨーロッパのクラブとも提携を結んで育成のノウハウを積極的に取り入れており、C大阪アカデミーはこれからもどんどん進化していくだろう。

C大阪の未来、理想について岡野社長はこんなことを語っていた。「我々は常に若くていい選手を育てて、その選手が活躍して、世界で光り輝いてくれて、世界で輝いた選手がまた戻ってくるクラブにしたい。アジアでいつもタイトルを争えるクラブになって、毎年C大阪からヨーロッパで戦える選手が出ていって、その選手たちが日本代表になる。そしてヨーロッパで活躍した選手たちが戻ってきてC大阪で選手生命の最後を迎えるという循環を作りたい。主力の中の半分以上をアカデミー出身の20歳から23歳の若い選手にして、アカデミーも含めた大きな輪を作りたい」と。現在進行形で進化を続ける柿谷らアカデミー出身の選手たち、そしてアカデミーの選手たちや指導者たち。彼らがこのまま進化を続けることで「真の育成型クラブ」として岡野社長の理想が現実になる日も近いのではないだろうか。


取材/チェーザレ・ポレンギ

関連