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鼻血騒動 調査なくして発言なし

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「美味しんぼ」については先週でお終いと思っていたのですが、こたちゃんという方からいただいたコメントについて感想を述べることにします。

頂戴したのはこのような内容です。穏健な反原発派のひとつの典型のような考え方です。

セシウムやヨウ素などが付着した塵などが鼻腔に付着して「準内部被ばく」を起こして鼻血が出るのではないかという医師の方もいらっしゃいます。
251:美味しんぼ「鼻血論争について」西尾正道医師の見解。これも「ヒポクラテスの弟子」の知見である。ー「明日うらしま」(ブログ)http://tkajimura.blogspot.jp/2014/05/blog-post_19.html
放射線の影響、内部被ばくなど専門家でいろいろと意見が分かれていますし、確たることは専門家では無い私もおそらくあなたも分からないと思います。
のちに放射能の被害が問題なかった場合はそれで良いのですが、被害がたくさん出たら目も当てられません。国や福島県に「鼻血」などの健康被害を調査公表して継続しておこなってほしいし、福島医大は情報を囲い込まないで他の医療機関や人々と情報の共有をしてほしいです。
それと、いろんな意見の専門家を集めて、彼らの話を聞いたり、彼らの話を聞いて議論していくことが大切じゃないかと思います。

私はこの3年間、特に最初の1年間は放射能との実にリアルな戦いを経験した人間です。

私たちがしてきたことは、降りかかってきた放射性物質が、どこにどれだけ降下して、蓄積したのかを測定し、それに対してどのように防御し、除去したらいいのか、健康被害はどれだけあるのか、ないのか、それらを現実のものとして考えることでした。

ですから、「被曝」現地にいる私は、はるか彼方の安全地帯の人間たちの低線量被曝健康被害論争をただの神学論争、それも神様が聞いていない神学論争だと思って見ていました。

今でもそうです。

ですから、あらかじめ言っておきますが、私は「鼻血論争」などに、ゼンゼン関心ありません。不当に被災地差別を助長する「美味しんぼ」が許せないだけです。

そして、「被曝」現地で汗水流している人々の努力を嘲笑うかのように、「福島から逃げるのが勇気だ」などと安全地帯から言ってのけるその腐った心根に怒りを感じただけです。

健康被害があるかないかなど、こちらの「被曝」地に来て自分で調べてみなさい。

土壌線量と疫学調査をして、あるならあるんだし、ないならないのですよ、そうずっと言ってきました。

第一、被災地はやることが沢山あって忙しいのですよ。うちの経営なんか風評被害で潰れかかっていましたしね。(苦笑)

さて私は専門が畜産なので、疫学という概念を、福島事故前にもよく使っていました。たとえば、鳥インフルエンザや口蹄疫が出たとしますね。

その時に、なんのデータもなく「感染拡大する可能性がある」などといってもオオカミ少年扱いされます。

ちゃんとコレコレこういう感染拡大の疫学調査(発生動向調査・サーベイランス)をして、A地域ではコレだけの潜伏数、抗体値はコレコレ、B点ではコレだけ、そして防疫をくい止める手段がコレコレ、故にこの地域は警戒が必要だというふうに統計学的に考えを積み重ねていきます

これが疫学的思考方法です。けっこう他でも使えるツールですよ。

放射能問題もこの応用です。一般的に、「低線量での健康被害の可能性がある」といったトボケた言い方では認められません。

いくら医師であっても、それはただの感想にすぎないからです。

この感想を「説」にまで強化するためにやるべきことは、分かるものから潰していって原因を突き止めることです

人体にどのような症状が現れたのか、どこでどれだけの数が出たのか、原因と思われることはなにか、それとの因果関係の確率は何%か、と考えていきます。

これで統計学的に高い数値(だいたい20%~30%)なら、「Aの原因がBである可能性がある」ということで有意ということになります。

これからさらに調査を絞り込んでいって、他の原因ではありえない、ところまでいけば、それが結論として認められることになります。

では、今回の鼻血の場合を考えてみましょう。

まず、鼻血がどれだけ、どの地域で出たのかの統計データが絶対に必要です。

井戸川氏は「大勢でているが、皆んな黙っているだけだ」と言っていますが、この言い方では通りません。

だって、この論法なら「うちの村の住人は火星人ばかりだが、黙っているだけだ」と言っても誰も検証しようがないじゃないですか。

検証するためにはいつ、どこで、どれだけの人が鼻血を発症したのかのデータが必須です。

特にどこで発生しているのかは大きな意味を持ちます。「鼻血は放射能の被曝が原因だ」と井戸川氏などが主張する以上、その地域の放射線量との関係を見ねばならないからです。

福島第1原発の見学コースで「被曝」して鼻血が出たとしかとりようがない表現をしている雁屋氏の場合、当日の見学コースの放射線量データが必要です。

ちなみに私が持っているデータでは、福島第1原発見学コースの1時間あたりの放射線量は0.02マイクロシーベルトで、東京都の0.03マイクロシーベルトと同程度です。

雁屋氏が自分の鼻血を放射能と関連づけたいのなら、いままでの見学者の見学後の健康記録が必要ですね。雁屋さん、どうぞお探しください。

また、放射能以外の原因もひとつひとつ潰していかねばなりません

鼻血は多くの原因で出ることが明らかになっています。

事故直後の震災瓦礫の粉塵、潮害の影響、季節的な花粉病などを除いて、現在の避難者に関係ありそうなことだけあげれば

①住み慣れた一軒家の我が家から離れて、集合住宅に越したことによる精神的ストレス
②食生活の変化による体質変化
③共同体的人間関係から離されての精神的ストレス
④職業を失ったことによる喪失感
⑤経済的な心配と先行き不安

その他にも別の観点で深刻な問題も発生しています。あとでもご紹介する南相馬病院の坪倉正治医師は地元民全般の健康問題についてこう述べています。

「糖尿病の増加。仮設住宅や避難所生活での生活から、運動不足になったり、栄養の偏りによってコレステロールが高値の子供が増えているといいます。子供だけではなく大人にもこの傾向が見られるのが現在の福島県内における実情 」

これを見ると、避難所などの人々の健康状態が決してよくないことが分かります。単に鼻血や甲状腺ガンなどばかりに注目するのではなく、トータルに健康状態をケアせねばならないことがわかります。

ほかにも色々と精神的、あるいは身体的なトラブルがあるかもしれませんので、これをひとつひとつ潰していくわけです。

当然複合していることもありえますから、丁寧に解きほぐしていきます。医師というよりケースワーカーの仕事ですが、心と身体両方のケアが大事なのです。

どうも低線量被曝を騒ぎたい人たちは、放射能被曝と結びつけたいため、鼻血とか倦怠感、甲状腺ガンなどにばかり注目しているようです。

しかし、現地が抱える問題はそんなに単純じゃないのです。

ところで医師の山本真氏の鼻血の全国と福島県の子供の調査データがありますので、ご紹介しておきましょう。
http://www.j-cast.com/2014/05/13204626.html

山田氏は福島で事故直後から健康相談会を行なっていました。

「そこで私は、調査を行いました。2011年3月~11月の機関、福島、北海道、福岡の3地域の小学1年生の何%が、鼻血を出したかを調べたものです。こんな調査をしたのは、私ぐらいだと思います。個人による小規模調査ですが、数が1000人規模なので、信頼性はあると思います。
その結果が以下の通り。
●鼻血を経験した小学1年生の割合(2011年3月~11月)
福岡・・・ 26.0%(159人/612人中)
小樽・・・ 22.8%(164人/718人中)
岩見沢・・・7.4%(32人/434人中)
福島市・・・10.4%(8人/77人中)
いわき・・・ 2.3%(8人/341人中)

会津 ・・・3.2%(16人/499人中)

福岡では26%が鼻血を出していたが、福島では2.3~10.4%です。原発事故の影響で鼻血が増えているということはありませんでした。

福岡でなぜこのような高率なのか原因は分かりませんが、中国からのPM2.5などの影響があるのかもしれません。
(下図参照 グラフはryoko氏による)

Photo 

この健康調査は貴重なものです。調査母集団も、福島第1原発に近いいわき市で341名採取していますので有意な数ではないでしょうか。

これを見る限り、鼻血が特に福島県で増えているということは考えられません

またさきほど紹介した南相馬病院の坪倉正治医師と、東京大学の早野龍五氏によるホールボディカウンター(WBC)の測定と分析結果かあります。

南相馬で測定した約9500人のうち、数人を除いた全員の体内におけるセシウム137の量が100ベクレル/kgを大きく下回るという結果が出ました。これは測定した医療関係者からも驚きをもって受け入れられたそうです」 http://blog.safecast.org/ja/2012/09/dr_tsubokura_interview/

この調査の時にも実は4名の高齢者が1万ベクレルという高い線量を持っていました。この原因もわかっています。

「この方たちは、自分の土地で育てた野菜を食べていたこと、特に浪江町から持ってきたシイタケの原木から成ったキノコ類を食べていたということです。
原因がわかると防ぐこともできるので、この分析は有益なものだと思います。しかし、実際のところ、このように庭に自生したものを食べている人は、地元にはまだまだ多いと懸念されています。

では子供の被曝はどうでしょうか。

坪倉先生のチームでは、これまでに、いわき市、相馬市、南相馬、平田地区で子供6000人にWBCによる内部被ばくの測定をしました。親御さんの心配もあり、この地域に住む子供の内部被ばく測定の多くをカバーしています。(一番多い南相馬市で50%強です。)
6人から基準値以上の値が出ています。6000人に対して6人というのは全体の0.1%で、この6人のうち3人は兄弟です。基本的には食事が原因に挙げられるでしょうが、それ以外にもあるかもしれないそうです。
子供の線量について、坪倉先生はこう分析します。 「子供は大人に比べて新陳代謝が活発で、放射性物質の体内半減期が大人の約半分ということがわかっています。ですから、子供の場合は例え放射性物質が体内に入ったとしても、排出されるのも早いです」

「福島から逃げろ」と叫ぶ前にやることは沢山あります。幸いにも福島県には、坪倉医師のように多くの献身的に検診を続けている医師や医療従事者たちがいます。

その人たちのこの3年間の努力の結果、貴重な疫学データを蒐集することができたのです。

それに対して、低線量被曝原因論者は声だけ大きい割りには現地での検診活動が乏しいか皆無に等しく、したがって疫学データもほとんどないというお寒い状況です。

ですから今でも津田敏秀氏のように、「ないことを証明してみせろ」などと逆ギレしたりしています。

このようなセリフ自体、疫学者としては敗北を認めたも同然です。

そもそも健康被害をあるかないかについて統計学的に立証するのが疫学ですし、この挙証責任が津田氏のような告発側にあると考えるのが常識だからです。

「美味しんぼ」の雁屋氏は、松井医師のような現地での医療経験がない人ではなく、坪倉医師のような方に取材すべきでしたね。

西尾正道氏のような医者は「鼻腔に放射性物質がついて準内部被曝を起こした」とか自説を開陳される前に、まずは医者らしく現地を丹念に歩かれて検診活動をされるのがいちばんてっとり早いのではないでしょうか。

西尾さん、現地を回らないで自分のビリーバーばかり相手にしていると、武田邦彦氏みたいにやがて誰にも相手にされなくなりますよ。

とまれ、「調査なくして発言なし」です。

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コメント

愛媛県中心に確認されている、キーウィフルーツかいよう病の感染が、花粉によるものではないかと報道されていますが、これもみつばち激減の産物なのでしょうか。

投稿: ブログファンのはしくれ | 2014年5月26日 (月) 16時15分

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