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    鶴木遵の原風景 《絶対零度》

    鶴木遵の本、新しい挑戦、趣味である競馬、将棋の駒、男の手料理、めだかやミジンコ飼育、犬猫のよもやま話、など四季折々に感じたことを発信していきます。

    オークス~無念ハープスター 

    埴輪馬

    ハープスターが、どういうレースをするかは、これまでの戦績を見ても明らかだった。

    競馬ファンなら誰もがそう思っただろう。第4コーナーを廻って、ホームストレッチを迎えて、ただ1頭大外。そこからさらに加速に勢いが増し、後はハープスター物語の華麗なる第1章が完結すると。

    この期待が誤っているなんてことは、レース前には考えられなかった。

    唯一心配があるとすれば、桜花賞の1600mからオークスの2400mに距離が伸びたとき、おそらくレースの流れがスローになる可能性が高いことだった。桜花賞は前半5Fが57秒のハイペースだった。ハープスターが中団より前にポジションを取る馬なら何も問題はなかったが、最後方から追い込む豪快さが身上の馬で、それがたまらない魅力となっている。せめて前半5Fが59秒そこそこの平均以上のペースで流れたなら、それはおそらく杞憂であったのだが、出走馬を見渡しても、早い流れを作って活路を見出す様な先行馬が見当たらなかったのは事実である。

    パドックに現れたハープスターを見て、私は、そんな気懸りに拘っていることを恥じる思いがした。素晴らし肉体、魅力ある気品。最高峰にある牝馬の姿とは、こういうものだと教えられる思いがした。心配などどこかに飛んでいってしまったのだ。それほどハープスターの状態は良かった。

    しかし直前の10R芝1400mフリーウェイSで、内田博幸コウヨウアレスが、前半5F59秒2のスローペースで逃げ切っていたことが、実はオークスを迎えるためには、大きな意味を持っていたのである。

    オークスのゲートが開いたとき、逃げたのはその内田博幸が騎乗するペイシャフェリスだった。
    先週のヴィクトリアマイルでヴィルシーナと共に逃げて復活の勝利を遂げた内田博幸である。コウヨウアレスで見られた様に、少し力が足らないと判断すると微妙にペースを落として活路を開こうとする。
    オークスもそうだった。内田博幸ペイシャフェリスの作ったペースは、前半5F60秒7。G1オークスとしてはスローペースと言わざるを得なかった。そして明らかにスローな先行ペースとなったとき、それに絡んで行く馬はどこにもいなかったのである。

    おそらくハープスターに乗る川田将雅も、この流れは判っていた筈だ。こうなれば残り4Fからの瞬発力勝負となると。だからと言って、無駄に動けば自滅の道につながると。腹をくくって、ハープスターの末脚を信じるしかないと。

    それは、半分は正解で、半分は不正解の結末が待っていた。直線大外から追い込んだハープスターの残り3Fの推定タイムは33秒6。出走馬中唯一の驚異的な末脚だった。

    しかしクビ差栄光のゴールには届かなかった。

    坂にかかって馬群の中団から、今日は真っ直ぐに追い上げた岩田康誠。坂を上り切ってヌーヴォレコルトを先頭に導き、最後までたれさせずに持たせた技ありの勝負を決め打ったのである。岩田康誠ヌーヴォレコルトの残り3F推定上りタイムは34秒2。ギリギリ持てば活路が開けるという一発勝負だった。

    大外から、前半のスローペースをものともせず追い込んだ川田将雅ハープスターだったが、ゴール地点ではクビ差勝者に届かなかった。

    内田博幸の作ったレースの流れが、勝敗に決定的に影響したと言える。流れを利して自らを有利にした勝負に出たのが岩田康誠。流れを意識しながら活路を開けず不運に見舞われた川田将雅。

    レースの流れが、時として最も強い馬を勝者にさせないという教科書のようなオークスとなった。競馬が勝負であるだけに、不可思議なレースの魔力が働くことがあるのだ。

    しかし桜花賞1着・3着馬がオークスでも1・2着を占めたことで、クラシックレースの権威はきちんと保たれたと言える。
    好位からインを突いて北村宏バウンスシャッセが3着。皐月賞に出走して牡馬にもまれた経験が生きたのだろう。

    ハープスターは負けて強しだった。強がりや同情ではなく、最強牝馬の輝く称号は、この馬の頭上にあると、私は今も信じて疑わない。

    ヌーヴォレコルトも岩田康誠の一発勝負に耐えきった。力がなくてはできない芸当である。その評価はきちんと与えなくてはいけないだろう。この馬がいたからこそ、オークスという勝負の記憶がより鮮明になって、数年後には大切な想い出となる筈である。

    勝利騎手インタビューで岩田康誠は言った。
    「・・・自分の不甲斐ない騎乗で、後藤騎手を怪我させてしまった・・・そのことを背負ってこれからも乗っていきたい・・・今は後藤騎手の早い復帰を願います・・・」
    それは勝利騎手の喜びの弁というよりは、反省の弁のようだったが、岩田康誠がきちんと騎手としての節度を持っていることを明かしていた。

    騎手岩田康誠は、この日の勝利で史上7人目の5大クラシック(桜花賞・オークス・皐月賞・ダービー・菊花賞)制覇騎手となった。過去の達成者は、シンザンの栗田勝、モンキー乗りを日本にもたらし、調教師としてもトウショウボーイを育てた保田隆芳、テスコガビー・カブラヤオーの菅原泰夫、武豊、河内洋、オルフェーブルの池添謙一である。

    5大クラシックに、春秋の天皇賞、JC、有馬記念を加えて、9大レースが、今の日本の競馬の基軸レースだろう。岩田康誠には、ぜひこんな事実を届けたい。

    9大レースの全てを2勝以上制覇している騎手がいる。武豊だ。この記録の凄さを、敢えて今日、知っておいて欲しい。今日のオークスには不在したが、上には上がいるものであると。

    真っ直ぐに堂々と騎乗馬を誘ってこそ、騎手岩田康誠の世界がこれからも開けて行くのだ。同時に日本の競馬を背負う覚悟をも明確にして欲しい。もはやそうあらねばならぬ騎手存在なのだから。

    それにしても今日はおめでとう。・・・ハープスターを負かしやがって、本当にどうもありがとう・・・・。あー・・・。





    FC2 Management

    category: 競馬

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    復権と王権譲位~名人位交替劇 

    JT

    森内名人が、ここ3年間保持していた棋界頂点の名人位を、昨夜失った。

    完璧なまでの勝利によって奪い取ったのは、羽生善治である。当たり前のことだが、投了の意志を示したその瞬間から、敗れた森内俊之は前名人となり、羽生善治はちょうど丸3年振りの復位をはたして新名人となった。

    この二人の間で為された3年間の将棋勝負のドラマを、片隅からではあるが、ずっと見守れたという幸福感が私にはある。桜が咲き誇ると二人の頂上決戦の季節となっていたのだ。4年連続で同じ組み合わせの名人戦が見られるなんて、奇跡だろう。挑戦者となるには、A級順位戦を勝ち切らねばならないし、そもそもB1以上の順位戦は、選ばれた将棋の天才と将棋の魑魅魍魎の巣窟であるのに、それでも圧倒的に抜きん出て挑戦権を確保し続けた羽生新名人の姿には、頭が下がると同時に凄味を覚え続けたものである。

    森内前名人は、そんな挑戦者を3年間破り続けていたのだ。とは言え、ここ12年間の名人位は、二人だけの独占状態にあったのだが・・・。

    昨年は、確か矢倉戦の頂上決戦となり、今期は相掛り戦のそれとなった。二人の闘いが、実はそれぞれの戦法の後世に残る教科書のように思えてならなかった。

    結果は、去年は森内俊之の圧勝劇。森内名人は、秋になって渡辺明竜王の牙城を攻め込んで滅ぼし、新竜王位までも手中にした。格付け順位戦の最高位と最高賞金位の覇権を同時に戴冠したのである。幸福の絶頂感にただ一人浸れる煌びやかな権威者として君臨したということだ。

    1勝4敗という屈辱的スコアで敗れた羽生善治にとっては、超一流棋士としての自己存在に関わる事態だったろう。接戦の敗退なら、勝負のアヤとしてしまうこともできるが、勝負にもならない結末だったのではないだろうか。

    しかし勝負事には、本当に流れというものがあるものだ。流れの勢いといってもいい。まるで水が上流から下流に流れて海に向かうように、抗えない流れである。そしてこの流れを決めるのが、勝負師の「気」なのである。平常心、集中心、明晰なる洞察力、敵を飲み込む威圧感・・・一切が揃ったときはじめて「気」が姿を見せる。

    名人戦のここ3年間、羽生善治に勝ち続けた森内俊之は、今回それに負けてしまったのだと思うしかない。頂点にいる二人の間には、技術の隔たりなどで勝負が決着するはずもないのだから。たぶん技で考えて答えを得られたなら、4連敗は無かっただろう。それ以外の何かが一方的な勝負の結末を呼び起こしたのだ。そしてこの1か月半の間に起こってしまったことを理解して納得するには、もう少しの時間が必要となるだろう。勝負の女神に招き寄せられなかった現実を受け入れるということは、そういうことだ。

    両者は、すぐにまた棋聖戦で王位を賭けて激突する。果たして森内前名人に、心を癒して再び自己肯定できる時間的余裕があるやなしや?というのが、名人戦を見守り終えた今日の私の最大関心事である。

    それにしてもだ。それにしても、競馬の勝負と将棋の勝負は形は似て非なるものだが、内実はとても共通項が多いと、改めて思い知らされている。本当に勉強になる・・・・・。

                         95水無瀬虎杢連盟(出石作龍山形水無瀬・虎杢)






    category: 異化する風景

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    5月18日ヴィクトリアマイル 東京1600m ② 

                 20140518 ヴィクトリアM ヴィルシーナ③(写真:石山勝敏 www.ishiyamakatsutoshi.com/ )

    早朝に石山勝敏にメールしたように、私の結論はほぼ決まっていた。

    2枠の2頭から、ディープインパクトの仔へと。

    ただ、それでもすっきりと絞れた訳ではなかった。

    今回、人気を背負う蛯名正義ホエールキャプチャに、何となく(これは経験的な直感である)食指が動かなかったように、武豊スマートレイアーにも、何となく前走の好走が目一杯で上昇度は低く感じたし、密かに楽しみにしていた福永祐一ウリウリも大外枠が仇になりそうな予感があった。田中勝春エバーブロッサムもまだ仕上がり途上だと思えた。

    では、昨年から今日に至るプロセスの中で、高レヴェルのレースはどれだったかと考えると、牝馬を意識しても、JCや秋華賞、エリザベス女王杯としか考えられない。中距離戦だろうと、そこで走った馬なら東京マイルを駆け抜ける底力は漲っているだろう。勿論、仕上がっているならという条件付きだが。

    相手に考えた、ディープ産駒は、最後に2頭残った。ラキシスとヴィルシーナである。

    ラキシスは、使われ方を見れば、明らかに2000m以上の中距離専用馬だった。それが功を奏してエリザベス女王杯の2着好走に繋がったのだ。マイル戦などに自信があれば、すでにどこかで結果を出している筈なのではないかと思えてならなかった。

    さてヴィルシーナだった。言うまでもなく、昨年のディフェンディングチャンピオンである。しかも人気薄。力は足りるが人気がないときは、本来なら絶好の狙い目なのだが・・・。

    そのとき改めて出馬表の成績欄を見てしまった。昨年のヴィクトリアマイル制覇から、ウィリアムズの騎乗で安田記念参戦(8着)、秋には岩田康誠に乗り替わって、京都大賞典、エリザベス女王杯、JCに参戦して惨敗を続けていた。さらに今年になって再び内田博幸の手綱に戻って、マイルの東京新聞杯(11着)、1400mの阪神牝馬S(11着)と見せ場をも作れないレースを繰り返していた。これでは例え出走馬中マイルのベストタイムを保持していても、走る「気」が戻っていないのではと疑ってかかるしかなかったのである。

    人気薄の実力馬は、人々が忘れた頃に上位にやって来るから狙い目ではあるが、それには騎手に勢いがあるとか、前走の何処かでアレッと新境地開拓と思わせるレースをやってのけたというような変化の兆しを示しているものである。
    しかし騎手内田博幸も、昨年後半から少しも輝いていなかったし、馬自身も最高の姿を発揮するようなアクセントのある使われ方もされてはいなかった。

    この瞬間に、私の周りには、「復活」を奏でる蝶々が乱舞していたのだが、同じ復活でも別の復活劇を期待する決断をしてしまったのである。

    「直感で何となく来ないような・・と思うなら、武幸四郎メイショウマンボと浜中俊デニムアンドルビーの1点でいいじゃないか」と。

    メイショウマンボは大阪杯のブービー敗退からの復活、逃げたドバイで10着に終わったデニムアンドルビーはあわや勝利のJCへの復活ではないのか。

    このとき、私は我ながら潔い結論だと胸を張る思いだった。

    ところが、ところがである。

    地下道から本馬場への通路で、馬上にある内田博幸はやけに「気」が入った表情をしていた。何かを考えているなと読み込んだが、それはスタートで明らかになった。

    内田博幸は、好スタートでターフに飛び出したヴィルシーナと共に逃げたのである。まさに気合いの逃亡だった。同時に、忘れられた人気薄の気楽さか、これで負けたらしょうがないと開き直って見せたのである。こんな内田博幸の姿は、ある種追い詰められていた昨年の宝塚記念以来久々に見るものだった。まるで苦しみの果てに不死鳥の如く甦ろうとしているようにも映った。

    レースは、内田博幸の気合がヴィルシーナにも乗り移ったような流れとなって決着した。

                          20140518 ヴィクトリアM ヴィルシーナ①



    武幸四郎メイショウマンボは、5番手程の好位のインから、直線さらにインをすくって追い上げたが届かず2着。まだもう一つ体調を上げたならと思わせる2着だった。今日は、武幸四郎は内田博幸の気合に負けた印象だが、メイショウマンボが昨年秋の状態を取り戻したら、次には気合で勝る筈である。

    後方4番手から直線大外を追い上げたデニムアンドルビーは6着。順調に秋を迎えれば、ブエナビスタやジェンティルドンナの域にどんどんと近づいていくように思えた。

    この土日の2日間、私の周りには「復活」の羽模様の蝶々が飛び回っていたのだが、鈍感にも私は、別の「復活」の糸を手繰ってしまったのである。だが負け惜しみではなく、直感自体は働いていたし、そのまとめは大筋で誤りではなかった。頭の中の鈍感という靄を晴らせば、そのときには何かが変わると思えてならないのだが、どうだろう?
    その日が、6月1日の日本ダービーだったら最高なのだが。いや、その前にハープスターのオークスもあるではないか。諦めず、何とか脳内快楽物質を増やす日々を送るしかないな、こりゃぁ・・・・。

                            20140518 ヴィクトリアM ヴィルシーナ②(闘い済んで日が暮れて)
     





    category: 競馬

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    5月18日ヴィクトリアマイル 東京1600m ① 

                            140517京王杯SC①

    心地良い五月晴れが続き、水を撒いても深緑の芝がすぐに吸い込んで、固く締まった馬場はビクともしない。

    その結果、芝コースは好タイムが続出し、その反面、ダートコースは乾燥して砂煙がモウモウと上がる週末の競馬となった。

    古馬牝馬が集うヴィクトリアマイルを迎える前に、私にとって印象的ないくつかの事柄があった。それをきちんと記しておく。

    まず土曜日、京都のメインレース都大路S(4歳上オープン:1800m)。5歳牡馬グランデッツァが、1800m1分43秒9という驚異的なレコードタイムを記録した。引き締まって時計の出やすい馬場状態の故だとは思うが、それでも残り4F46秒3、3Fが34秒9。ホームストレッチの独走を見れば、力がなくては達成できない記録であったことは間違いない。

    遂に芝1800m戦が、1分43秒台に突入した。想い出せば、1974年、野平祐二騎乗のシンザン産駒スガノホマレが、東京で行われた京王杯オータムハンデ1800mで、1分46秒5の時計で逃げ切ってから、40年。スガノホマレの記録は、当時奇跡的なものとして大きな衝撃を受けたことを記憶している。(勿論まだ私はうら若き少年だったのだが)確かこのレコードは12年ほど破られることがなかったのだ。それをもってしても価値ある記録だった。

    それが、40年経って遂に1分43秒台に突入した。

    グランデッツァ自身にその裏付けがなかった訳ではない。3年前の桜花賞馬マルセリーナの半弟(父がディープインパクトからアグネスタキオンに変わった)であり、2歳時の11年には札幌2歳Sを勝ち、翌12年にはスプリングSをも制し、皐月賞は大外18番枠からの出走で5着だったが、1番人気に支持もされていた。ダービーは10着。その後脚部不安で1年8か月もの長期休養を経て、今年1月に脚部の状態を思いやってかダート戦で復帰した。しかし2戦のダート戦は16着、11着と惨敗し、再び3ヶ月のリフレッシュ放牧を挟んで、ようやくこの日、芝のレースを迎えたのである。

    汗をかく季節を迎えて、新陳代謝で体調を整え、脚部不安を克服しているとしたら、走って当然の背景はあったのであるが、しかしまさか1800m1分43秒台を刻むとはというのが、レースを見終えた大方のファンの正直な感想だろう。

    だがホームストレッチを独走するその姿には、爽快感すら漂っていた。

    土曜の東京のメインは、京王杯スプリングC(芝1400m)。私の注目は、G1高松宮記念馬コパノリチャードが、東京競馬場でどんなレースをするかという1点だったが、直線でインをすくった川田将雅クラレントと馬体を絡ませ合って、リズムを崩して、前走の強さを再現できずに終わった。

    代って突き抜けてきたのは、8歳馬北村宏レッドスパーダだった。春の雨で重馬場となった高松宮記念は17着惨敗だったが、乾いて引き締まった良馬場のこの日は違った。G1安田記念の優先出走権を確保した。

                               140517京王杯SC②レッドスパーダ


    こうしてこの目で確かめた事実を記していくと、どうやら今起こっている事柄の傾向を表すキーワードが浮かび上がってくる。今回の場合は、おそらく「復活」というキーワードが、私の眼の前をまるで蝶々のように舞っていた。そう思えてならない。が、大きなヒントが眼の前にあったとしても、そうなんだと掴み切るのは、心が曇っていると、凡人にはなかなか難しいことなのだ。

    翌日曜日の朝、カメラマン石山勝敏から、整理したばかりの京王杯の写真が届いていた。添えられた文章には、今日のヴィクトリアマイル狙いはどの馬ですか?などという質問があった。ゴール前で、どんなレースになろうとも勝ち馬にフォーカスを合わせることが、カメラマンには必要なのだ。そのためには事前にいろいろと想像力を働かせておかねばならない。

    このとき私は、「2枠の2頭から、相手はディープインパクト産駒の馬たちのどれかでしょう。過去2年はホエールチャプチャに注目していたけど、今回は本命人気となるので、何となく来ないような気がしてなりません」

    大雑把な答えだったが、朝の時点で言えるのはそこまでだった。

    ヴィクトリアマイルの直前の京都競馬場。古馬オープン戦栗東S。ダート1400m。笹田和秀厩舎のキョウワダッフィーに騎乗したのは、34歳の竹之下智昭だった。晴れやかな活躍を注目されている存在ではないが、毎日手を抜かずに調教に乗り、裏方的有り様を受け入れて励んでいる。しかし一部の関係者からは、任せて安心という評価を受けている。チャンスさえあれば、浮上できるだけの騎手である。まだ諦める年齢でもない。

    キョウワダッフィーの騎乗は、調教師笹田和秀からの勝利のプレゼントだったに違いない。これで自信をつけなさいと。不満も見せずに一途に毎日の調教に乗っていれば、いつか必ずチャンスは与えられるものだ。それがこの日だったのである。
    竹之下智昭は、中団外から追い込んで、堂々の勝利を飾った。今年の初勝利だった。これでまだしばらく騎手を続ける力を得ただろう。腕はあるのだから、後は自信だけだ。少し注目していたら、ロングショットを、今度は竹之下智昭自身がプレゼントしてくれるかも知れない。

    竹之下智昭の勝利を喜んでいる間に、東京競馬場にファンファーレが響き渡った・・・。

    ※この項、続く。



    category: 競馬

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