5月10日付のブログ(「小保方さんの「捏造」には悪意があったのだろうか?そして、理研は国民を欺いているのではないかという疑念」)で、「(理研は保存サンプルの分析を早く行って)国民に対しての説明責任を果たすべきだ。それができれば、理研が再度信用を取り戻すチャンスもあると思うが、今の状態では、「特定国立研究開発法人の指定の見送り」どころか、私も含めて「理研は潰した方がいいかもしれない」と思う人が増えるばかりだ。」と述べた。
ブログに送られてきた意見を見ると、私の考えを誤解されている人も少なからずいるようであるが、私は理由なく「理研を潰せ」と言っているのではない。ほとんど全部が税金で成り立っている「組織」として当然行うべき「説明責任」を求めているのだ。そして、それすらできなければ「解体」するか、「組織替え」をすべきという意見だ。
asterisk_2012さんから指摘されたが、私のことを「小保方擁護派」と思っている人も多いようである。これも誤解であり、私は科学に携わる人間の一人として、小保方さんには一日も早く論文の撤回をして欲しいと願っている(17日のブログ「菊と刀」を読めば、私の考えをより深く理解してもらえるだろう)。しかしながら、「「改ざん」や「捏造」は原則、諭旨退職か懲戒免職」という理研の規程においては、「改ざん」は「結果の改ざんによって、虚偽の事実が示される(真実が隠される)」という意味であり、「捏造」は「存在しないものが存在するかのようにでっちあげる」という意味である。だからこそ「諭旨退職か懲戒免職」という重い処分が科せられるようになっているのだ。そのため「STAP細胞が作られていた」か、あるいは「作られていた痕跡があるか」は大きな問題だ。小保方さんの実験ノート、そして論文の取り下げに関して「誰の言う事も聞かない」という態度を見れば、彼女が「意図して」図を改ざんし、「意図して」別の図を使って捏造したという判断に対して、わずかではあるが、合理的な疑いが残ると私は思っている。
私が理研のトップに対して不信感を抱くのは、彼らの行動が科学者の行動とは思えないからである。科学の基本は「結果」や「証拠」である。そこから「論理」を使って「解釈」をすることになるが、論理性に優れていても、「情報量」の少なさや、「バイアス」から「解釈」を間違うことはある。私が学生時代に、教授から受けた教えで今でも記憶に残っていることは、「ほとんどの実験結果は“suggest”(示唆する)であり、“indicate”(示す)ということはめったにない」ということだ。つまり、“suggest”とは、結果から論理的な思考によって導かれるアイデア(考え方)であり、人によっては異なるかもしれない。一方、“indicate”は一義的であり、「誰でもが同じ結論」となる結果に対してのみ使われる言葉である。
科学者は、この事を十分理解しているはずである。それゆえ科学者なら、小保方さんの行った行為に対して、説明によって「改ざん」や「捏造」を認定するのではなく(調査委員会の論理の展開自体には問題はないと思う)、「証拠」を集めるべきだ。その「証拠」集めが、被告発者によって妨げられた時は「改ざん」や「捏造」の判断を下してもよいが、そうでなければ「証拠」を集めない理研は「怠慢」と言われても仕方がないし、私からは「本当に科学者の集まりなのか」と疑われることになる。そして、裁判になった場合に負ける可能性もある。
話は変わるが、私は11jigen氏に共感するところがある。それは、他のブロガーよりも「主張」が少なく、淡々と不適切画像の収集と解析にエネルギーを使っているところだ。そこに「科学の雰囲気」を感じる。
ところで、5月10日付のブログで、理研の記者会見で「日経サイエンスの古田さんが「理研にあるサンプルの分析」という質問をした」と記載したが、ご本人のツィートによると「毎日新聞の須田記者,NHKの稲垣記者,日経BPの宮田記者もしていた」とのことである。その点は訂正したいが、おそらく古田さんの最初の質問が「サンプル分析」だったので印象に残ったのだろう。指摘された須田さんの毎日新聞であるが、このところ毎日新聞の報道が目を引く。おそらくしっかりとした観点と考えから、取材を進めているのであろう。報道においても「自分の主張を書く」のではなく、「仮説」に基づいて取材を進め、得た事実を書く事によって、その主張を読者に納得させるべきだ。勿論、科学においては当然であり、「STAP細胞はありまーす」ではなく、証拠を示して、第三者に納得させるべきなのだ。
「「調査をすべき」という指摘に耳をかさない理研」と「論文を取り下げるべき」という共著者・指導者の言葉に耳をかさない小保方さん」の不毛な争いが続いているが、少しばかりの光明は、「外部有識者でつくる理化学研究所の改革委員会が22日、再び調査委員会で詳しく調べるべきだと理研に求める方針を決めた」ということだ(「47NEWS」の報道)。
今回のSTAP騒動はなぜ起こったのか?この疑問に対しては、「特定国立研究開発法人の指定」を目指して焦った」とか、「笹井先生の山中先生のへ嫉妬」などが、指摘されているが、私の中ではどうもしっくりこない感があった。理研の「特定国立研究開発法人の指定」は、おそらく既定路線であり、むしろSTAP騒動で自らこけて指定を逸してしまったというのが実情だろう。「笹井先生の嫉妬」説も、科学者ならば「ライバル心」は当然あるだろうし、「嫉妬心」であっても、それを心の中でうまくプラスに転換させ、その結果としてよい研究成果をあげるということはよくあることだ。
この疑問に対して、先日、理研CDBのホームページを見ていて、私の中ではある程度納得のいくものを発見した。それは、「アドバイザー・カウンシルからの提言」である(http://www.cdb.riken.jp/jp/01_about/0103_for21.html)。「アドバイザー・カウンシル」とは、理研CDBに対してアドバイスを行う外部有識者委員会であり、ここには世界各国の著名な生物学の研究者が名を連ねている。
竹市センター長は、カドへリンの研究でノーベル賞候補にもあげられていた(今でも可能性はあると私は思っている)高名な研究者である。神戸理研CDBは、京大理学部で定年が近くなってきた竹市先生のために設置された研究所である(正確には、竹市先生と京大医学部の幹細胞研究者であった西川、笹井先生であろう)。竹市先生は、理研CDBのセンター長と京大教授を2年間併任したが、定年を待たずして京大を退職し、CDBのセンター長の専任となった。CDBは2000年に開設されて14年が経っている。正確な規則は知らないが、理研は埼玉県和光にある基幹研究所を除き、おそらくどの研究センターも10年程度の「時限」があり、存続するかどうかは業績次第なのであろう。例えば、CDBと同じ2000年に開設された横浜の「植物科学研究センター」は2013年に改組となり、基幹研究所の一部と統合されて「環境資源科学研究センター」となっている。同様に、2001年に開設された横浜の「免疫・アレルギー科学総合研究センター」は、「ゲノム医科学研究センター」(2000年に開設された「遺伝子多型研究センター」が2008年に改称)と2013年に統合して「統合生命医科学研究センター」となっている(東洋経済の小長洋子記者らのレポート「迷走する理研、エリート研究所の危機」では、今日の理研がどのようにして作られてきたのかを知るのに役立つので参照されたい(http://toyokeizai.net/articles/-/37346))。
「時代のニーズに合わせたセンターへの変更」というと聞こえがよいが、実際は初代の大物センター長が定年退職すると改組がやってくるようだ。例外は1997年に開設された脳科学総合研究センターであるが、これは12年経過後(改組時期)にノーベル賞を受賞した利根川進先生がセンター長となっている。利根川先生は業績においても、他の面においても「超大物」であり、利根川先生のご機嫌を損ねるような意見を言える度胸のある役人および研究者はおそらく存在しないだろう。
竹市センター長も70歳なので、本来ならば次のセンター長に代わっているはずである。実際、2010年の「アドバイザー・カウンシルからの提言」では次期センター長に関して「外部からの公募によって選出するべきで、優秀な外国人研究者の採用も積極的に考慮すべきである」という提言がなされている。さらに、今年定年された(特別顧問ではある)相澤慎一、西川伸一両元副センター長の後任についても言及されており、「副センター長が空席となることをさけるべき」と、「(後任)候補者は国際的な公募で募り、外国人、もしくは外国での長い経験のある人とすることも考慮するべきである」と提言されている。さらに2012年5月の提言においては「アドバイザー・カウンシル」議長のAustin Smith博士ともう一人の外国人研究者が、次期センター長の指名委員会委員となり、選考が始まっていることが記載されている。
「アドバイザー・カウンシル」からの提言は2年毎に行われ、原文は英語であるが、2008年からは日本語の仮訳がついている。2010年の仮訳はほぼ原文のとおりなのだが、2012年5月の提言の仮訳は極めて奇妙であり、これがCDBの実態を示しているのではないかと私は思うのだ。
原文では、以下の6項目が提言されている。
• Actively promote within the Japanese scientific and academic community the value of the system of Team Leader turnover practised in CDB.
• Establish an international PhD Program and promote the opportunity for high level PhD training in CDB.
• Monitor intellectual property issues locally and document all patent filings and commercialisation arrangements in future reports.
• Seek to establish a harmonious and constructive relationship with Dr Yamanaka and CiRA with respect to iPS cell research.
• Defer further group director or team leader recruitments until the new Director is appointed.
• Retain the system of Director and two Deputy Directors, which has served CDB extremely well.
それが仮訳では
<提言およびコメント>
• CDBで実施しているチームリーダーの転出入制度を、日本の科学関連の学術コミュニティに積極的に発信する。
• 国際的な博士課程プログラムを確立し、CDBにおける博士課程大学院生のためのハイレベルなトレーニングの機会を推進する。
• 各研究センターにおいて知的財産案件をモニターし、特許申請と商業化に係る案件を全て今後の報告書に記録する。
なんと下の3項目、すわなち、(1)iPS細胞の研究においては、京大の山中先生およびその研究所(CiRA)と円満で建設的な関係の構築を進めること、(2)新しいセンター長が任用されるまで、新規のグループリーダーやチームリーダーの採用を延期すること、(3)(センター長と)2名の副センター長の制度は、CDBの運営において極めてよく機能してきたので維持すること、という重要な提言が翻訳されていないのだ。
これは、小保方さんの言うところの「単なるミス」なのか、それとも調査委員会の言う「悪意のある翻訳改ざん」か?
(1)に関しては、2010年の「提言」に“It is understood that individual competition in specific areas is unavoidable and often productive, but in general opportunities should be explored for fruitful engagement and cooperation with CiRA in key areas.”と、「個々の競争心によって、実りのある連携と協調が妨げられている」ことをほのめかすような文言もある。(2)の「新規採用の延期」は、センターの運営に責任を負っている長が最大の指導力を発揮できるようにするためであろう。しかしながら、この提言の後の2013年度に2名のチームリーダー、2名のユニットリーダー(その一人が小保方さん)、そしてつい最近、新たなグループリーダーも採用されている。つまり、「提言」はまったく無視されている。「提言」では「ユニットリーダー」についてはまったく触れられていないが、小保方さんたちは「センター長戦略プログラム」に属する研究室であり、このポジションの方が、グループリーダーやチームリーダーよりも、より直接的にセンター長の意向を反映できるポジションである。これらのポジションこそ、次期センター長のために本来空けておくべきポジションのはずだ。(3)については、現在の副センター長は、笹井先生一人であり、提言の「2名」が守られていない。おそらく「アドバイザー・カウンシル」は「1名」では、運営のバランスが損なわれることを心配したのだろう。実際、副センター長が笹井先生一人となって「独走」が起こった。
つまり私の理解では、今回の騒動は、竹市先生の定年が近づいたことによるガバナンスの低下と、2名のベテラン副センター長の定年退職によって副センター長が笹井先生一人となったことにその大元があるということである。
なぜ2012年の「アドバイザー・カウンシルからの提言」は正しく翻訳されなかったのか?「採用を延期すべき」と提言されながら、それを無視して採用を進め、次期センター長がその手腕を発揮することを妨げるようなことをしたのか?国際化の先頭に立つべきCDBが、外国人副センター長を採用せず、しかも笹井先生一人が副センター長となったのか?京大CiRAとの関係はどのように進められるのか?小保方さんの問題以外にも、これらのことにもぜひ答えていただきたいものだ。
STAP騒動の最初の頃の記者会見で、「次期センター長は笹井先生ですか?」という質問が出ていたが、川合理事は「まだ決まっていない」と返答していたと記憶している。CDB迷走の根源である「次期センター長が未定」という問題を理研はどのように解決するのだろうか?このような騒ぎを起こしたCDBに外国のトップ研究者がセンター長として来ることは期待できないだろう。
コメント
コメント一覧
それだと、提言する側とされる側が食い違ってたわけじゃない感じもしますけど(ド素人の考えですみません)。
そこまで含めての理研体質への疑問ですかね?
あと、11jigenさんは中身読まずにとりあえずリンク貼ってることが多い気がしますね。リンク先が玉石混淆で、最初は困っちゃいましたよ。
CDBは、元々、N先生が科技庁に働きかけて作ったものです。京大の再生研設立時にメンバーに選ばれなかったことがその背景にあります。T先生は、傀儡、というと言い過ぎですが、「顔」として引っ張られた、と聞きました。
STAPの時も、S先生よりもN先生が先に動いていた、と聞きました。あたらしもの好きなN先生の心を捉えたのもよく分かります。もちろん後ろに捏造があるなんて、知らなかったと思いますが。
さて、「2. 昔を知る者」様が書いていらっしゃるように、
AASJホームページ > 新着情報 > 科学報道ウォッチ > 1月30日:酸浴による体細胞リプログラミング(1月30日Nature誌掲載論文)
http://aasj.jp/news/watch/1069
において、西川前副センター長自ら当時の関与を語っていらっしゃいます。
> 約3年前の事で、メールでの依頼に応じて論文のレフェリーコメントにどう答えればいいのかなどボストンのバカンティさんと電話で話をした。
> 若山研に寄宿して実験をしていた小保方さんと出会って論文についてアドバイスをした。
と書いており、当時の論文の具体的なフレーズまで覚えていらっしゃいます。
> 最初のドラフトで「生への欲求は生物の本能だ」と、なぜ細胞にストレスを与える気になったのかの説明を始める感性は尋常ではない。
2014年1月30日の記事で約3年前ですので、2011年頃でしょうか?かなり早い時期から西川副センター長の晴子さんへの支援はあったようですし、STAPと晴子さんについて将来性があるように見ていらっしゃたようです。
最近、毎日新聞がUL採用が出来レースだったのでは?という報道がなされていますが、西川副センター長も説明責任が求められるのかもしれません。