(2014年5月23日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ラオス・アッタプー県の高原では、農家が2007年以降、ベトナム戦争当時の爆撃の穴がまだ残る土地にせっせとゴムの木を植えてきた。アジア最貧国の1つに数えられる国にとってプラスの出来事のように聞こえるかもしれないが、これは世界のゴム産業が不安を抱いている1つの理由だ。
ゴムの木は通常、7年間生長した後に生産に入るため、ラオスのプランテーションは今年、ゴムの原材料であるラテックス(樹液)を生産し始めることになる。ところが、ラオスによる供給はただ単に、既に9年ぶりの高水準に達し、5月下旬にゴム価格をほぼ5年ぶりの安値に下落させた過剰供給の山を増加させてしまうだけだ。
過剰供給の山が積み上がっているのに、また大規模な新規供給
ロンドンに本拠を構えるコンサルティング会社ラバー・エコノミストは、今年のゴムの供給過剰が65万2000トンに上ると推計している。昨年12月時点の36万6000トンという予想を大幅に上回る規模だ。
世界最大のゴム生産国である隣国のタイが今月、ゴム備蓄から20万トンを放出することを決めたことは、事態を悪化させるだけだった。
スポット価格に最も近いシンガポール取引所(SGX)のゴム先物1カ月物は5月22日に1トン1710ドルで取引されており、年初から22%下落している。相場急落は、ゴム業界が1980年代前半の世界不況以来最悪の需給不均衡と、過去10年間に見られた大規模な植林の結果に直面しているというアナリストらの見方を裏付けた。
政府間組織の国際ゴム研究会(IRSG)のスティーブン・エバンズ事務局長は「業界全体が今、大きくぐらついているように見える」と言う。
IRSGが5月19~21日にシンガポールで開催した年次ゴム会議の出席者らは、世界のゴムの4割を消費する中国経済が少なくとも成長しているという事実に一定の慰めを見いだしていた。
中国経済が成長しているのはせめてもの救いだが・・・
急激に都市化している中国の人口はまだ自動車を買っており、それがタイヤに使われるゴムの需要を活発化させている。ミシュラン、ブリヂストン、グッドイヤーなどのタイヤメーカーは、ゴム需要の7割を占めている。
だが、中国経済は突如減速し、2009年終盤に始まったラオス、カンボジア、そして特にタイ北東部での再植林ブーム以来、途切れない成長を見込んできたゴム生産業者を窮地に追い込んだ。そうした植林の決断が下されたのは、ゴムが1トン2000ドル前後で売られていた時のことだ。
シンガポールに拠点を置き、商品ヘッジファンドを運営するRCMAアセットマネジメントのマイク・コールマン社長は「市場は現在、弱気の悪習にはまり込んでいる。これは需要の問題というよりは供給の過剰だ」と話している。