深刻な人手不足を背景に、非正規社員に依存する経営を見直す企業が相次いでいる。安い賃金で、簡単に解雇できる労働者を雇い、「使い捨て」にするビジネスモデルはもはや限界に来ている。日本の雇用のあるべき姿とは何か。労働経済が専門で雇用問題に詳しい日本総合研究所の山田久調査部長に聞いた。
(聞き手は山崎 良兵)
景気が回復傾向にある中で、人手不足が深刻になっています。「採用氷河期」がやってくるとの声さえあります。何が問題なのでしょうか。
山田:日本も「人手不足経済」に入ってきました。マクロ環境では、建設、小売りなどで本当に採用が厳しくなっている。統計を見ると、バブル期まではいかなくても、まさに20数年来の人手不足に入っている。有効求人倍率を見てもそうです。
そこで非常に目立っているのが、日本の労働市場のいびつさです。日本では、正社員と非正規社員が分断されている。小売りや外食などでは、非正規を正規化する動きが進んでいますが、全体で見るとまだ一部の動きに過ぎません。
とりわけ問題なのはいったん非正規として働くとなかなか正社員になれないことです。非正規として働いている人が転職しても、8割の人がまた非正規で働くことになります。この割合はほぼ安定しています。上がったり、下がったりすることはあっても、一時的です。いわゆる「二重構造」の問題は本質的には変わっていません。
とりわけ人手不足が目立つのは小売りや外食です。デフレ下では商品を安く売る必要があると考え、人件費などコストを切り詰める企業が目立ちました。
山田:小売りは過去20年で異常なまでに非正規を増やしました。小売りはオーバーストア状態です。国際比較すると、日本では小売りの全産業に占める就業者比率が高い。人をたくさん雇用している。過去20年間を振り返ると、日本はもともと高コストで、コスト削減余地がかなりありました。
出店コストが下がったこともありますが、とりわけ人件費を減らしてきた。一般的な国では、賃金の下方硬直性がありますが、日本にはありません。非正規の賃金水準は絶対的に低く、平均賃金はドラスチックにどんどん下がる。ひたすらコスト削減を続けて、企業が利益を出してきたのが、マクロで見た日本の姿です。
コスト削減で一番効いたのは、もちろん人件費です。だからオーバーストア状態が維持できた。価格が下がり、売り上げが下がっても、コストが下がれば、持ちこたえられる。結果的に欧米と比較すると日本は賃金水準も低い。それだけ人を雇えることになる。こうして日本では非正規が雇用全体に占める割合が高くなりました。その調整が始まっている。こうした流れの中で、流通業では、かなり大きな再編が起きつつあります。