混乱するウクライナ情勢を背景に、アメリカとロシアの間の宇宙協力がきしみはじめている。
両国は日本も参加する国際宇宙ステーション(ISS)計画で共に基幹的役割を果たしているが、4月2日、米航空宇宙局(NASA)は、ロシアがウクライナの主権を侵害したことを理由に、職員及び関係企業に対してロシア政府関係者との接触を断つよう指示を出した。ただしこの指示はISS計画関連は例外としている。
これに対抗する形で、ロシアのロゴージン副首相は5月13日に、アメリカがISSを2024年まで運用すると主張しているのに対して、ロシアは協力関係を2020年までで終わらせると発言した。ロゴージン副首相はこの他にも、アメリカがロシアから購入しているロケットエンジンの輸出停止、アメリカの測位衛星システムGPSがロシア領内で稼働している地上局の運用停止、中国との二国間宇宙協定の協議開始などを匂わせ、対米強硬姿勢を打ち出した。
が、冷戦終結以降四半世紀にもわたって、米ロ両国は良く言えば互恵的、悪く言えば共依存的関係を構築してきた。双方の宇宙産業と宇宙政策は、共に相手の存在を前提としたものとなっており、そう簡単に分離できるものではなくなっている。
今後も舌戦と揺さぶりが続くのは間違いない。が、両国が宇宙で決裂するのは、おそらく地上で決定的な事態が起きた後だろう。
冷戦終結後、互恵関係を結ぶ
アメリカとロシアの宇宙分野における互恵関係は基本的に、ソ連崩壊後に軍事にも転用可能な宇宙技術がロシアから第三国に流出するのを防ぐために、アメリカがロシアに“仕事を与える”と同時に、ロシアの技術的成果を吸収しようとしたことから始まっている。それは、アメリカにロシア技術依存の状態を作り出し、ロシアにはアメリカからの仕事による宇宙産業の収益改善をもたらした。
主なものは以下の通りである。
1)国際宇宙ステーション(ISS)計画
1980年代に“西側の結束を東側に誇示する”という政治的意図と共に始まった計画だが、ソ連崩壊後の1993年にアメリカはロシアを計画に引き入れた。もともとソ連は、宇宙ステーション「ミール」(1986年打ち上げ、2002年まで運用)の後継機「ミール2」を開発していたが、ソ連崩壊後の財政難で計画は頓挫していた。一方アメリカではクリントン政権のISS規模縮小方針により計画は大幅な見直しを余儀なくされていた。
米航空宇宙局(NASA)は、ISSにロシアを引き込むことで規模縮小の阻止を狙い、それは同時にロシア技術の第三国への流出を防ごうする米政府の方針とも一致した。ロシアにすれば、動かすに動かせない「ミール2」計画をアメリカの力を利用することで実質的に前に進めるという意味があった。ISS最初のモジュール「ザリャー」は、アメリカの資金を使ってロシアの手により開発され、1998年11月に打ち上げられた。
2004年に米ブッシュ政権は2010年にスペースシャトルを退役させる方針を打ち出した。この方針はオバマ政権となってからも継続し、2011年にシャトルは退役した。結果としてアメリカはISSへの有人往復手段をロシアの「ソユーズ」宇宙船に全面依存するようになった。