低価格繊維産業の背景にある犠牲
2014年05月25日 19:30 JSTほとんどのカンボジア人はギャップやウォルマートについて聞いたことがない。カンボジア人にとってそれらは、自国で生産された何百万もの衣料品の上に縫い付けられているただのラベルである。しかしそれらはどのようなラベルか。カンボジアの衣類輸出は昨年55億米ドルに達し、国のGDPの約3分の1に値した。その20億米ドル近くは米国の大手デパートに行き着いた。カンボジアの繊維産業は、穢れ無き労働源として好評を得ているが、実態は、なけなしの賃金、強制労働、差別、妊娠中の女性や労働組合の指導者に対する暴力といった問題だらけだ。
不十分な食事や睡眠不足が原因で勤務中に意識を失う労働者や、40度を超える暑さの中で強制される14時間労働を逃れたいとする人々や、妊娠しているという理由で雇用者によって仕事を打ち切られた女性や、現状変革のため労働組合を結成しようとしたせいで、拘束されたり、暴行を加えられたり、銃撃されたりする労働者たちを見かけない日はない。
米国の小売業者はこうしたことを熟知している。実際には、それ故にカンボジアにいるのだと言ってもいいのかもしれない。
カンボジアの最低賃金は月100米ドルで、世界で最も低い国のうちの一つとされている。特に、ほとんどすべてのカンボジア縫製労働者が養うべき子供と高齢の親を抱えているのを考えると、それはなけなしの賃金である。
おそらくもっと衝撃的なのは、この100ドルという賃金は、ごく最近、血を流し犠牲を払った結果だということである。昨年だけでも、少なくとも5人が賃金の引き上げを求める縫製工場での抗議中に銃弾に倒れた。ある16歳の少年は、胸に見えた銃創のようなものから血を流し地面に横たわっているのを目撃されたのを最後に、依然として行方不明である。おそらく彼は6人目の死亡者だ。
犠牲者のうち3人はウォルマートの縫製労働者だった。
Hoeun Chanさんらは生き残った。しかし彼はギャップの仕入先工場で起きた抗議中に撃たれ、現在腰から下が麻痺している。Chanさんは「私は今死ぬよりつらい生活を送っています。」と言う。数え切れないほど多くの人たちが拳で殴られ、足蹴りされ、警棒や電気シールドやパチンコなどで残忍な扱いを受けた。その中には、妊婦も多数いた。生まれてくる子供の姿を見ることなく、流産した女性もいる。
なけなしの給料にすぎないが、月給を100ドルまでに引き上げることができたのは、労働者たちの凄まじい決意と膨大な犠牲があったからである。生活賃金の推定値は月額395米ドルという水準であるにもかかわらず、カンボジア政府独自の調査では、労働者が基本的に必要とするのは月額157米ドルから177米ドルであると結論付けられている。フルタイムの労働者らには必要な金額が確実に支払われるようにしなければならない法的責任があるにもかかわらず、米国の小売業者の仕入先は汚職や暴力や基本的自由の制限のほうを選び、積極的にこうしたシステムに関わっている。
となると、カンボジア縫製労働者はこの先どうなるのだろう?今の方向で進んでいけば、暴力と搾取はますますエスカレートする一方だろう。米国であろうがカンボジアであろうが、低価格の衣料品という代物は不平等の賜物である。問題は、我々皆がいつまで世界中で底辺への競争を続けるかだ。16歳のKhem Saphath君やHoeun Chanさんのようなカンボジア人には、この贅沢はない。
著者Tola Moeun氏: プノンペンに拠点を置くNGO共同体法教育センター (CLEC)労働プログラム代表