高校時代に世界史を学んだ人ならば中国は多民族国家であり、その中でも「漢・満・蒙・蔵・回」の五つの民族が独自性=民族的アイデンティテイを保持しながら協同して国家を形成しており、そのことは近代中国の建国の父である孫文が「五族協和」を提唱し、中国革命を成し遂げた毛沢東などにより「民族自決権」として承認されたものだと教わったはずである。しかし現在の中国ではこうした考えはロマンチックなものであり、現実の政治世界では実現不可能な状況にまで追いやられていると言えよう。漢、すなわち漢民族が政治的にも経済的にも圧倒的な力を有し、他の少数民族である満=満州民族、蒙=モンゴル民族、蔵=チベット民族、そして、回=ウイグル民族などトルコ系民族(回と称するのはこれらの民族の多くが回教=イスラム教徒であることによる)を様々な分野で圧倒的な力で抑圧しているからだ。
 チベット民族がいかに過酷な弾圧を蒙(こうむ)ってきたかは、彼らの精神的指導者でもあるダライ・ラマの活動で、ある程度知られているが、近年の中国国内における民族問題としては、中国政府によるウイグル民族への抑圧と、それに対するウイグル民族の激しい、時には暴力を伴う反発があろう。
 ウイグル民族は世界各地に居住しているが、中でも中国の新疆ウイグル自治区には約1千万人以上が居住し、独自の文化と歴史を発展させてきた。しかし中国政府の「漢化政策」、漢民族が自治区の政治的、経済的要職を独占するとともに、漢民族を移住させ、ウイグル民族が有していた権利や権限を次第に奪い去っていくとともに、文化や宗教の面でも弾圧を強めてきた。
 最近この地区には原油、天然ガス、シェールガスが豊富に埋蔵していることが分かり、エネルギー資源の確保に躍起になっている中国には欠くべからざる地区となっている。それ故中国政府は政府への反発は決して認めず、締め付けを強化することとなり、ウイグル民族の反発を一層激しいものとしていくことになる。昨年10月に北京天安門で起こった自動車爆破テロ、3月の昆明駅の無差別殺傷事件、そして4月、習近平国家主席が同地区を視察した直後に起きたウルムチ駅の爆破事件などがそうである。こうした無差別テロは決して許されることでないのは明らかである。しかし、そこには、民族的誇りとアイデンティテイが踏みにじられているという事実があるのだ。
 なお、この視察の際、習主席はウイグル民族のテロを「倭寇」に例え、反日感情を露骨にしたとされるが、お門違いだ。さらに言えば、倭寇の8割以上は窮乏化した漢民族や朝鮮人というのが定説であり、中国の政治問題の一面でもあったのが歴史の常識である。
(青森地域社会研究所特別顧問 末永洋一)