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2014年5月25日日曜日

既存商業メディアの力を使えない無名の新人に「1000人の村」は育てられないのだろうか?

ASCII.jp:アマゾンで年間利益1000万円の衝撃――鈴木みそさんの場合 (1/3)|まつもとあつしの「メディア維新を行く」

ジャーナリストのまつもとあつしさんがASCII.jpの「メディア維新を行く」で、セルフパブリッシングの未来を考える短期集中企画を連載しています。特に、漫画家の鈴木みそさんへのインタビューはいろいろ考えさせられる内容でした。



記事はこちら。


特にこの辺り。

逆に言えば、今まったくの新人が電子書籍出しましたといってもそうそう売れるとは思えないんですよ。仮にそれが本当に面白くても。

セルフパブリッシングをやってみたはいいけど、こういう現実の壁にぶち当たっている方は非常に多いのではないでしょうか。

ちょうど『ナナのリテラシー』の発売がKADOKAWAの75%引きのセールと重なってしまって、いろんなマンガがすごい勢いでベスト100に入っていたから、全然100位圏内に入らなかったです。本屋さんで大手出版社との棚の奪い合いをしているような感覚で、勝負にならなかった

『ナナのリテラシー』は、セルフパブリッシングで成功を収める鈴木みそさんの自伝とフィクションが混ざったような内容で、かなり面白かったです。どこまでが本当の話なんだろう? と考え出したら、鈴木みそさんの術中にはまっています。


しかし、鈴木みそさんクラスの知名度があっても、大手出版社の仕掛けてくるセールや物量を前にすると、埋もれてしまうというのです。

おそらく僕が確実に捕まえている読者は800人くらいだと思っているんです。では、その800人で僕はどんだけ食えるのか? 僕がいくら高い本を出しても、買ってくれる、絶対安定読者なのかといったら、危ないんですけど。

これが1000人になれば、つまり1000部が安定的に売れれば、何とかぎりぎり食えると言えるところかなと思います。この“村”を育てていく、読者と一緒に生きていくにはどうしたらいいか? というのが、作家が一所懸命考えるべきテーマじゃないかと思うんですよ。

「絶対安定読者(以降、『村民』)」を1000人! これは相当にハードルが高いです。しかし確かに、1000人くらいの『村民』がいれば、食べていくのに困ることはないでしょう。では『村民』が1000人になるまで育てていくには、どうすればいいのか? という話になります。

ここで見誤ってはいけないのは、鈴木みそさんはプロの漫画家として商業出版の世界で長年活動してきた方だという点。そのキャリアによって、既にある程度の『村民』を抱えているわけです。だから、まつもとあつしさんも、鈴木みそさんにこんな質問を投げかけています。

―― いきなりセルフパブリッシングしました、では上手くいくはずがなくて、やっぱり出版社から商業出版で紙の本を出すということが、ブランドの確立につながりますか?

実は、まつもとあつしさんは、ボクが編集長をしている同人雑誌『月刊群雛』2014年5月号に、『僕がセルフパブリッシングできてない理由』という記事を寄稿頂いてます。恐らく時期的に、鈴木みそさんへのインタビューの後に執筆されたのではないでしょうか。



ソーシャルメディアでPRすれば良いかと言えば、そんなに甘いものでもない。聞くところによれば二十五万人のフォロワーがいる某著名人の著書は、だいたい二万五千部が実売の上限値で落ち着くという。その割合十%。

「実売の上限値」で10%ですから、恐らく「フォロワーの10%」が『村民』というわけではないでしょう。実際のところ、Twitterのようなゆるい繋がりを母数として考えたら、『村民』と言えるのはせいぜい2~3%でしょう。なにしろ、フォローするのに、相手の許諾が不要なのですから。

そうやって、もし本が話題になり、更に多くの人に読まれ、Twitterのフォロワーが増えれば……。という考え方も実は僕は既に捨てている。実際、フォロワーが十万人を超えるような著名人であっても、セルフパブリッシングに大々的に取り組んでいる例はほとんどないのだ。

Twitterのフォロワー数という数字とそこでのセルフパブリッシングの取り組みをあらためて眺めると、商業出版の代わりに自ら電子書籍を出して行こうということにはなっていないことが分かる。

だから、まつもとあつしさんはこの『僕がセルフパブリッシングできてない理由』で、結局のところ日本ではまだ商業出版物がまだ強く、商業出版物の著者という信頼感・存在感とメディアへの露出によって知名度とフォロワーを獲得し、次なる商業出版物の企画へ繋げていくフローを回すしかない、と述べています。

ただし「出版社のマーケティング機能は驚くほど低い」ため、商業出版物の「企画や執筆段階でのプロモーション」のためのツールの1つとして、セルフパブリッシング的なツールが活用できるのではないかと結論付けています。

なんだか夢も希望もない感じですが、ある意味シビアに現実を見つめた結果、導き出された結論なのでしょう。鈴木みそさんが一生懸命「年間1000万円の利益だぜ!」とアピールしているにも関わらず後に続く事例があまり出てこない(こういう話題で名前が挙がるのは、だいたいいつも同じ顔ぶれ)のも、多くの漫画家が「あれは特殊な事例だ」と判断してしまっているからではないかという気がします。

ただ、まつもとあつしさんが今はブログを書いていない点が、この『僕がセルフパブリッシングできてない理由』の論拠を弱くしてしまっているような気がします。「まつもとあつし事務所」を見る限り、恐らく以前は書いていたようなのですが、現在はアーカイブを見ることができません。

さて、次号の『月刊群雛』2014年6月号には、ブログLifehacking.jpの堀正岳さんに『ウェブ時代の書き手に必要な「3つの逆転」』という記事を寄稿頂きました。これが実は、前号のまつもとあつしさんの悲観的な論への見事なカウンターになっています。

さてその内容は……? 5月27日の発売をお楽しみに。「逆転」がキーワードです。最新情報は「日本独立作家同盟」でご確認下さい。


『月刊群雛』は同人雑誌ですが、Kindleストア、楽天Kobo、BookLive!、Reader Store、紀伊國屋書店Kinoppy、ブックパス、BOOK☆WALKER、eBookJapanでも購入可能です。