年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は7月2日、2012年度の運用状況を公表した。それによると市場での運用益は11兆2222億円となり、運用利回りは10.2%となった。年金積立金の自主運用が始まって以来、過去最高の収益を上げた。昨年年末以降株高が急激に進み株式の運用益が増加したことと、円安の進行により外国債や外国株の評価額が増大したことが主な要因。
今回、運用益が大幅に増加したこと自体は喜ばしいニュースだが、逆に年金運用が抱える多くの問題も浮き彫りになっている。
アベノミクスによる株高は、バブル相場以来の上昇であり、そうそうめったにあることではない。本来であれば、過去のマイナスを一掃できそうなところだが実際はそうでもない。
過去の運用では2008年度にはマイナス9兆円、2007年度にはマイナス5兆円の運用損失になっており、これだけの株高が実現しても、マイナスを取り戻すことは容易ではないのだ。
しかも年金には加入者の減少と受給者の増加という根本的な問題がある。
2012年度に加入者から徴収されGPIFに運用が委託された資金は約2兆円である。これに対して受給者に対して償還された資金は6兆円もある。何もしなくても毎年3兆円から4兆円の資金がなくなっていくのである。
現在のGPIFの資産総額は120兆円なので、単純計算では、30年から40年で資金はゼロになってしまう。しかも、運用は割合で効いてくるので、絶対額が減少すると、同じ額の運用益を出そうとする場合、さらに高い利回りが求められるようになってくる。年々運用環境は厳しくなるというのが現実の姿である。
日本の公的年金の受給開始年齢は2013年度から段階的に引き上げられ、2025年度には65歳になる。だがこの程度の開始年齢引き上げでは制度が破綻してしまうのは確実であり、政府の社会保障制度改革国民会議の清家篤会長は「67~68歳に引き上げるべき」との見解を示している。現実には75歳程度まで引き上げないと制度の維持は不可能と考えられる。
年金の運用はこれまで国債に偏っていたことから、海外のインフラ投資など多角化を進めることが検討されている。それはそれで必要な措置だが、年金制度そのものに手をつけない限り、根本的な問題解決は難しい。
年金の運用益が過去最高になったという事実は、年金制度改革が待ったなしであることを示すサインと理解すべきであろう。
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