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【社説】

週のはじめに考える 国家機密に挑む者たち

 国家とは都合の悪いことは隠すものです。アメリカのそれが暴露され、報じた新聞社に米報道界の賞が贈られることになった。振り返ってみましょう。

 その賞はピュリツァー賞で、先月、最も注目される公益部門にワシントン・ポスト紙と英国のガーディアン紙(米国電子版)が決まりました。

 理由は、ご承知の通り、米国家安全保障局(NSA)が密(ひそ)かに米国市民、また世界中を盗聴していたという事実の報道により、個人のプライバシーと国家の安全をめぐる議論を巻き起こしたということです。

◆裏切りか、正義なのか

 国家による盗聴は古くからの問題ですが、想像をはるかに超える規模とその図々(ずうずう)しさに世界は驚き、また怒ったのでした。

 新聞社に漏らしたのは、スパイ映画などでおなじみのCIA(米中央情報局)のエドワード・スノーデン元職員。NSA事務所から機密文書をコピーして持ち出し、ちょうど一年前の今ごろ、米政府の追跡を逃れるように、香港へ、さらにモスクワへ。

 当時、こう言っています。

 「米国政府は、世界中の人々のプライバシーやネット上の自由という基本的権利を極秘のうちに侵害している。それは許されない、と考えた」

 むろん米政府、また米国内からはテロ防止などの観点から非難と批判がわき上がりました。

 国を裏切れば、犯罪にちがいない。しかし国が勝手に個人の自由を侵すのは、比較にならぬほどの重大な犯罪的行為というべきでしょう。そうなら、ただすのはむしろ愛国的行為ではないか。

 思い出されるのは、もう四十年以上も前の、やはりアメリカで起きたペンタゴン・ペーパーズ事件です。

◆ベトナム戦争のうそ

 ペンタゴン、米国防総省のベトナム戦争に関する秘密報告書が全米的な反戦運動のさなか、作成者でもある研究所の研究員ダニエル・エルズバーグ博士によって暴露されたのでした。

 報告書は、政府のうそと誤りをあますところなく指摘していました。本来、国民に知らせるべきことなのです。

 博士は最初、議会で議論されるよう複数の上院議員に接触したそうです。だがうまくいかない。

 そこで新聞社です。

 まず、ニューヨーク・タイムズ紙。文書の一部が活字に。すると司法省は記事差し止めを求め、地裁が認めて、掲載は中止に。

 次にワシントン・ポスト紙。これももちろん妨害される。

 残念ながら予想されたことでした。だが、博士はコピーを約二十に分けて別々の新聞社に渡し、十九紙が掲載しました。

 報告書の中身が知られることにより、告発の公益性、正当性は広く認められたのです。

 それに対しニクソン大統領は、博士を口封じする情報を集めようと「プラマー(配管工)」と呼ぶ秘密工作隊をつくって、博士の関係先へ侵入させたり、また告発記事を書く記者のリストまでつくったのです。ついでに言えば、プラマーたちはのちにウォーターゲート事件を起こし、ニクソン辞任へとつながるのです。

 スノーデン元職員の暴露もむろん慎重に行われました。

 情報はガーディアンとポストの二紙にそれぞれ渡ります。ガーディアン紙は、その前に米軍事情報を暴露したウィキリークスの告発について政治圧力をはねのけて報じていました。

 内部告発が成功するには、勇気ある告発者がむろん不可欠なのですが、同時に、それを調べて報じる者も必要なのです。

 新聞、報道機関です。もちろん自らの取材で悪質な機密を掘り出し報じねばならない。だが告発の受け手の役割もあります。

 日本では、過去、日米密約がたとえ当時は政治的判断であれ、不当に長く隠されてもきた。年内には特定秘密保護法がいよいよ施行されます。

 国家に機密はむろん必要なのだろうが、国民の知るべきことがしばしば隠されてきたのも歴史の教えるところです。

◆欺かれないためには

 情報公開の仕組みがしっかりしていない以上、あるいはたとえしっかりしていたとしても、時に暴露でもされない限り、国家は国民を欺き続けるのかもしれません。

 内部告発者を待たねばならないのは、残念であるし、不幸なことともいえるでしょう。

 しかし、国家と社会が健全であり続けるためには告発は必要であり、新聞もしっかりせねばならない。その先には告発の当否を判断する読者がいます。告発者にとって一番怖いのは、社会の無関心にちがいありません。

 

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