2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる国立競技場の建て替えに、異論がわき上がっている。

 いまの施設を解体し、8万人収容のものを新築する計画に、建築家や市民グループ、学者らが見直しを求めている。

 指摘されている問題には、もっともな点も多い。国と実施主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は、いったん立ち止まり、耳を傾けるべきだ。

 JSCは国際コンクールで選ばれたデザイン案をもとに、基本設計を進めている。だが、緑豊かで歴史ある神宮外苑に、この案のような巨大な施設はふさわしくないという意見は多い。敷地に余裕がないため、人や景観への圧迫感が強いからだ。

 経費にも疑問の声があがる。

 国費などで賄う建設費は、1300億円の想定が、規模を縮小したにもかかわらず約1700億円になっている。

 維持に必要な年間経費は、いまの5億~7億円から46億円に増える。JSCは企業への貸し出しなどで黒字を見込むが、思惑通りいかなければ、多額の公金負担の恐れがある。人口も税収も減ると予想される未来に、「つけ」を残すべきではないという意見には、うなずける。

 事業の進め方の情報が開かれていないのも大きな問題だ。

 関心が高い施設なのに、一般の人が意見を述べる機会はなかった。JSCのホームページでは、2年前のデザインコンクールの結果と昨年11月の有識者会議の資料が公開されているが、有識者会議は議事録はおろか、メンバーさえ書かれていない。情報が半年も更新されないのもお粗末だ。

 今後の議論の手がかりにと、世界的な建築家である伊東豊雄氏が、現在の競技場を改修する案を発表した。

 競技設備を新しく直し、観客席を2、3層にして、新築計画と同じ8万人収容にするプランだ。周囲への圧迫感も軽く、費用は半分ほどですむという。

 こうした対案も参考にして、21世紀の五輪にふさわしい競技場のあり方を、オープンに議論すべきだ。

 文部科学省は、19年のラグビーのワールドカップに間に合わせるため、解体・新築を急ごうとしている。しかし、横浜など立派な競技場はほかにもある。ラグビーを言い訳に見切り発車は許されない。

 新競技場は、多くの人がスポーツに親しみ、愛着を持てる場になってほしい。動き出したら止まらない、そんな古くさい公共事業にしてはならない。