(cache) 博物館が“限界”に|DATAFILE.JPN|NHK NEWS WEB
第5回 博物館が“限界”に
5回目は、博物館の舞台裏で起きている深刻な現象とその背景を、データを基に明らかにしていきます。
まずは基本のデータから。全国の博物館の数は、登録博物館、博物館相当施設、博物館類似施設を合わせて、増加傾向にあります。増えているはずなのに、意外なデータがありました。次のページを見てください。
(出典:文部科学省「社会教育調査」)
収蔵品が「満杯」あるいは「ほぼ満杯」という博物館は全体の47%にも上っています。背景には、今の日本ならではの意外な理由もありました。(昨年度も同様の調査が行われ、同じ傾向が続いています)
(出典:「平成20年度 日本の博物館総合調査研究報告書」 公益財団法人日本博物館協会)
高齢化で急増する寄贈
5500年ほど前に使われていた世界最大級の石斧などのコレクションで知られる秋田県立博物館。その収蔵庫は棚に入りきらない収蔵品が通路までびっしりで、足の踏み場もありません。学芸員によると「今の収蔵品数はキャパシティーの約3倍」とのこと。
「県内のコレクターや研究者が自分では管理できない年齢になって、博物館に寄贈するというパターンが、非常に増えている」(学芸員)
例えば80代のある研究者が、「もう保管できないから」と寄贈した貝の標本は、段ボール箱で100箱に上ったということです。
博物館の管理も限界に
この博物館に寄贈された収蔵品の数は、年々増加して昨年度は実に約10万件。収蔵品全体に占める割合は64%に上っています。収蔵庫が限界を超えたのでロフトのようなスペースを作りましたが、そこもすでにいっぱい。2万件近くある貝の標本は整理するだけで3年もかかり、学芸員の活動にも影響を与えています。
「資料の収集や管理、保存も博物館の大きな使命で、それがストップしてしまうと博物館の存在価値が問われてしまう」(学芸員)
(出典:秋田県立博物館)
全国で同じ状況が
「高齢化に伴う寄贈の増加」が博物館を圧迫するという状況がほかでも起きているのかどうか、NHKが全国の都道府県に取材したところ、「登録博物館」は道府県立で123館ありました(東京都立、長崎県立の登録博物館は無し)。このうち収蔵庫が「満杯」と答えたのが43、これに「ほぼ満杯か、一部の収蔵庫が満杯」を合わせると85で、全体の70%近くに上っていました。さらにこのうち20館が、「高齢の研究者やコレクターなどからの寄贈が増えている」と回答しており、もともと開館から何十年もたって収蔵庫が狭くなっていた状況に加えて、新たな事態が起きているということです。
さらに取材を進めると、別の理由も見つかりました。今度は鳥取県の博物館の舞台裏をのぞいてみましょう。
管理できない集落の「宝」
鳥取県立博物館でもこの数年で寄贈が増え、収蔵品は当初の6倍近くの25万点にまで膨れあがっています。収蔵庫は限界を超え、やむをえず収蔵品を高校の施設だった建物にも置いています。
寄贈されたり管理を委託されたりした品の中に、ある集落に伝わる戦国時代の古文書がありました。町の文化財にも指定されて代々受け継がれてきた大切な古文書ですが、その集落の住民は今や2人だけで、これ以上は管理できないと博物館にゆだねられたのです。町では、ほかの集落でもこうした事態が起きて重要な文化財が失われてしまわないよう、巡回して調べています。
「高齢化」の次は「人口減少」による地域の衰退も、博物館の収蔵品の増加に影響していました。いずれも予想していなかった事態です。NHKの調査で、「満杯」と答えた43の博物館のうち15が、鳥取県立博物館と同じように収蔵品を学校や県の庁舎などの外部の施設に置かざるを得なくなっていると回答しています。
さらにもう一つ、「想定外」の事情をご紹介しなければなりません。舞台は宮城県です。
宮城県の東北歴史博物館で開かれているある展示会。東日本大震災の復興工事にともなう発掘調査で出土した史料が展示されています。東日本大震災の復興工事現場からは、今、次々に埋蔵文化財が出土しており、それらを収蔵するコンテナは、担当者によると全体で1000箱近くに上るということです。
岩手・宮城・福島の3県で発掘される文化財を収めるコンテナの数を調べました。震災前は年間で平均4200箱余りだったのが、復興工事が本格化した平成24年度は7200箱余りになり、その後も増え続けています。宮城県で発掘された品を保管する博物館では、残りのスペースは2700箱分しかなく、このままでは震災前に立てた計画よりも数年早く満杯になってしまうおそれが出ています。
(出典:文化庁 埋蔵文化財関係統計資料)
岐路に立つ博物館
博物館への史料などの寄贈は、持ち主が管理に困って手放すというだけではなく、貴重な文化財などが寄贈されることもあり、予算的に厳しい博物館からは「ありがたい」という声も聞かれます。
しかし収蔵庫はかなり「危機的」な状態です。全国の博物館の1施設当たりの入館者数は減少傾向にあり、博物館や運営する自治体は財政的に厳しいため、収蔵庫を増築するのは難しい状況です。
今回の調査で、少なくともおよそ1割の博物館で、寄贈品を断るケースもあることが分かりました。寄贈されるものを融通し合う博物館のネットワークを作ろうという考えも出ていますが、まだ実現できていません。とはいえ、将来に残すべき重要な資料を集め、研究する活動をストップするわけにいかず、今まさに博物館は時代の岐路に立っています。
(出典:文部科学省「社会教育調査」)
第5回 博物館が“限界”に
データの出典(NHKサイトを離れます) :
社会教育調査(文部科学省)
平成20年度 日本の博物館総合調査研究報告書(日本博物館協会)
データから、今、日本で何が起きているかが浮かび上がります。国や自治体がオープンにしているデータや研究機関の最新の調査結果を読み解きながら社会の実相を明らかにする、NHKが挑むデータジャーナリズム・シリーズです。